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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
春夏秋冬
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弊社業務内容のお知らせ

社長を称える大合唱は、天高く降り注ぐ社長の光がそれを修めた。

 流石社長だ。俺たちにはどうにもならない感情の高ぶりを、一瞬で鎮めちまった。


 その場はそれで一旦お開きになった。そういう風に誰もが思い、それを受け入れた。

 わかっている。社長の声がすればそこへ駆けつける。それでいい。そこに仕事があるんだ。


「あたしたちはコレからどうすりゃいいんだい?」

 社長がどこかへと去っていっても、俺たち四匹は、自然とその場に残っていた。


 ナッキーもアキサダもフユミも、『採用』された事だけしかわからなかった。


「そういえばアキサダ。あんた、随分と足が速くなったね。驚いたじゃないか。」

 そう、俺もそれが気になっていた。アキサダは慎重なのもあるが、それほど足は強くない。


 俺やナッキーの様に、強い足を持っていないからこそ、アキサダは俺たちの後ろの目であることを選んでいた。


「お前たちは感じないのか、この力を。」

 俺たちは死にかけていた。俺たちが片足を突っ込んでいたあの状況の先にあるものは間違いなく死だった。俺たちは知っている。知識として知っているのだ。あのままであったらあの先どうなっていたのかを。


「あたしたちは、キノコになっちまおうとしてたじゃないか。それなのにどうだい、何なんだい、コレは。」

 同族が、かつて同族だったものが、稀に成れの果てとして見つかることがある。

 それだけじゃない。そうなっていくのを見たこともあるのだ。


「なぜ助かったのだ。まずそれがわからない。」


 俺も、ナッキーもアキサダもフユミも、あの力の抜ける白い光の中で『弊社創業のお知らせ』を受け取った。それは間違いないようだ。

 そしてそれを送ったのは、社長なのも間違いない。そう、社長の力が、死にかけた俺たちをたまたま救い上げたのだとしか思えなかった。


 あの俺たちをおびき寄せるように存在したキノコども。俺たちは操られるようにそれを貪っていた。


「恐らく、あの段階で、私たちはもうキノコにされかかっていた。」

 ナッキーが言う通りかもしれない。前に何度も見たことがあるのだ。キノコになり始めた奴は、絶対に止められなかった。キノコになり始める前に、もうそれは助けることはできないのだと。


 あの時、あのキノコは特別異常だったのは間違いない。

 俺たちだけじゃない、他の連中も一斉にキノコに、ほぼなっていたのだ。あんなに一度にキノコになるなんてことは、今まで見たことがない。


「あたしはね、分かるんだよ。まだあたしたちの体にキノコの奴は残ってる。」

「ああ。この体のあちこちに、キノコがある。私にもわかる。」

フユミとナッキーがそう続ける。


 そう、それは俺にもハッキリとわかっている。そしてそれはもう俺たちに完全に支配されているのだ。


「キノコの気持ちがわかるっていうのも不思議だけどね。こう、体をぶちまけたい、遠くに飛んでいきたい、そういうあいつらの思いは、確かに残ってる。」

 それが、俺たちに凄まじい力を与えているのを確かに感じる。足の張り、胸の高鳴り、あふれ出す感情、そしてもう一つ、もう一つ何かが、俺たちの心に深く沈んでいる。


「わかるかい、ハルタ。この底知れない力が。あたしたちは、前とは違うんだよ!」

 だが、それが何であるかは、俺たちにはまだわからなかった。不安はない。だが不気味だった。


「足が強くなったのを感じる。仲間も同じだろう。もう遅れる事はない。」


「あたしの羽は、もうどんな風にも負ける気がしないよ。」


「私の足も、水を蹴り、草を蹴り、あの川の流れすら正面から遡ることができるやもしれない。」


「俺も飛べる。羽虫に負けぬほど、素早く、高く、空を飛び、天から地を見下ろせる。」

 それだけは間違いなく確信が持てた。俺たちは、まるで生きた動物の様な力を得たのかもしれない。


「ハルタ!」

 フユミが俺に荒い声を投げかける。


「あたしは決めたよ!社長に付いていく!この力は社長にもらった力だ。あたしはそう信じる。」

 いまにも飛び出さんとするフユミは、甲羅を持ち上げ羽を震わせている。


「待てよ。社長の意思、感じなかったのか?社長が俺たちを呼ぶまでは、みだりに寄るんじゃねぇ、そういう声を感じなかったのか?」

 俺たち自身では納まりきらない感情の高ぶり。それを鎮め、払らわれた時に植え付けられた想い。社長は、必要な時に必要なだけ仕事を与える。


 不要な時は、俺たちの好きにしていい。

 俺たちに与えられたのは「距離」だ。呼ばれたら駆けつける。だが、傍には近寄らせない。

 圧倒的。今の俺たちをもってしても、圧倒的な格の違い・存在の違い。


 社長と俺たちでは、住んでいる世界が違う。それを知らしめる、絶対的な力。


「ハルタ。怖気づいたのかい?あたしは、社長がどう思おうが行くよ。」

 フユミが飛び立つ。真っ赤な甲羅を広げ、羽を震わせ、あっという間に見えなくなった。


「やれやれ。あんなことがあったのに、フユミは変わらんな。」

 ナッキーが背を向ける。どこかへ向かうようだ。その姿を見てアキサダも動き出す。

「社長の声が響けば駆け付けよう。今は体に起こったことを見定めたい。」


 俺たちはそこで解散となった。


 次に俺たちが出会ったのはそれからしばらくして、社長の呼び声を感じた時だった。


そこには社長と、初めての「業務」が、待っていた。

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アマテラス干渉システム Chimena
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