課総出の逸失物探し
「静かに。静かに奥へ戻れ。」
人だけならまだしも、あの蜘蛛まで居るというのならば、その危険度は増す。
調査は無事帰らねば意味がない。
勿論、小さきものの潜り込んだ穴のその先まで追ってくるとは思わない。
あの巨躯では我々を捕らえ、食らった所で腹を満たすことなどできないだろう。
それこそ、土の中を餌を求めて掘り回るあの生き物の様に、餌だけを求めて生きていく以上の事などできなくなる。
「あの『人』、蜘蛛に襲われるのでしょうか。」
恐らく、そうではないだろう。襲うならば、巣や糸などを使わない理由はない。
人に姿を見せる。それは敵意を持っていないか、それこそ共存関係にあるか。
「憶測ではあるが、『我々と社長の関係』に近いモノがあるかも知れない。」
そう考えるのも、無理筋ではないだろう。我々という例が実際にある。もし仮にそうだとすれば。
「もしそうなら、キノコと蜘蛛が、同じ物事の上に乗る。」
土の中の湿気もあり、少し奥まった場所であれば蜘蛛の感知から逃れる事は出来たようだ。
しかし、これでは外の様子を探る事も出来ない。
少し離れた場所へ地上を伺う穴を繋げるか、或いは、本来の出入り口から外を伺うか。
「戻るぞ。」
本来の出入り口から大きく迂回する方が、危険に飛び込むような事は回避できるだろう。
それにナッキーに頼まれている件もある。実行には仲間の数が1つでも多く必要だ。
掘り進んだ穴を戻れば、その後ろを仲間たちが追ってくる。
フユミならああいった危険に水から飛び込むだろうし、フユミの仲間であればこうしてついてくる事無く、単独で飛び出していくやつもいるだろう。
それで得られるものがあるのも事実かもしれないが、それは後ろを支える仲間がいてこそだ。
人の亡骸へと続く分岐を逸れて、真っ直ぐと出入り口へと向かう。
人の足、巨躯の足は、大きく速い。我々が如何に強い足を得たとしても、それでも追いつくことは難しいだろう。
地上へ戻った時にはその足取りは最早つかめないかもしれない。
それでも先程の「もしかしたら」を考えれば、その痕跡に、何か得るものがあるかもしれない。
「もし仮に、キノコと蜘蛛が、同じ物事の上に乗る、ならば。」
そしてそれが、人の手を介しているとするならば。それは人同士の仲違いという事もあるのかもしれない。
そうであるならば、人には「それ」を見分ける手法が必要だ。
「社長たちと、社長たちに危害を加えようとしている『人』、この二つを見極める手段が必要だ。」
土を掻く足に自然と力が籠る。この調査が握る意味は大きい。
それだけに急がねばならない。急ぐ意味がある。
出入り口を覆う草や葉をかき分け、地上へと繰り出す。
地上を包んでいた暗い影は、落ちてくる月の明かりの前に退けられていた。
「好都合だ。あたりの様子をよく気をつけろ。足の力が近いもの同士で組み、自分だけで調査しようとするな。」
辺りを見渡す限りには、蜘蛛の影はない。
この明るさを避けて、再び何処かへと潜んだのか、或いは何か獲物を見つけたのか。
それならば尚の事、好都合だ。あの「人」らしき存在を探し出しさえすればいい。
先程はその姿をはっきりと見る事は出来なかったが、この明るさならば、目に焼き付ける事も可能だろう。
草や石の陰に隠れながら、周囲を伺う。
土の中と異なり、地面には先程までの雨の名残が残っている。
草に滴る大粒の雨水、地面に出来た大きな水たまり、石も月の光を受けて黒く輝き辺りを照らしている。
だが蜘蛛の巣一つ、蜘蛛の糸一本見つける事が出来ずにいる。
それは喜ぶべき事なのだろうか、或いは機を逃したと嘆くべき所なのだろうか。
フユミの怒鳴り散らす声が聞こえてきそうだと内心に思いながら、まだ見ぬ人影を探る。
やはり、もう何処かへと行ってしまったのだろうか。
不意に、何か気配を感じとる。
どこからだ。辺りを見回す。
こちらを見ている様な恐怖感ではない。「何かの存在感」だ。
体の中でキノコが熱を持ち始める。こういう事は、最近増えた。
自分ではない自分、自分の中のキノコが、自分の気づかない何かを感じ取る。
それは例えば、キノコの群生であったり、蜘蛛の巣であったり。
段々と震えるような感覚、体中を体液が駆け巡るような緊張感が支配する。
周囲の仲間をみると、それもまた同様に見える。
「アキサダ様。様子がおかしいです。」
不安から近寄ってくる仲間もいる。こうした時は周囲を見る多くの目が必要だ。
そして危険を察知するならば呼びかけ逃げる機会を伺う。
自分だけでは気付かない事を誰かが気付くことを信じて。
「散った仲間をこの辺りに集めよう。離れず、慎重に調べるんだ。」
連絡役を選んで回す。緊張感と同時に、これは絶好の機会でもある。
「あれを見ろ!」
散った仲間が集まりきらないうちに、視界にとらえたそれを、理解するよりも先に周囲と共有する。
理解は遅れてやってくる。
「あれは、『人』でしょうか?」
にわかに信じられない存在。そこにたたずむ影が二つ。
大きさは「人」であるから、「人らしき」もので間違いはないだろう。
だがその姿は異常を極まっている。
「キノコ。キノコでしょうか?」
そうだ。そうと言われても違和感が沸かない。
二つの影のうち一つから目が離せない。
雲が月の明かりを隠すように流れてくる。辺りは薄暗く、静まり返っている。
半面、体のキノコがドクドクと脈打つ中、目の前には「人の大きさのキノコそのもの」が立っていた。




