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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
追うものと追われるものと
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無知覚の容疑、無知覚の事件

「どうぞ。」

 登庁するなり、通された聴取室で差し出されたのは蓋つきの木の器に入れられた軟膏だった。


「昨日の様に渡す前に帰ってしまわれては申し訳ないと思いまして。」

 この空間を取り巻く空気は、日に日に悪くなっているみたいである。


 昨日は人払いがあったけれど、今日は目の前の性格の悪い職員に合わせて二人。


「それ、はそのままで結構です。宜しいですよね、お二方も。」

 それとは何を指しているのだろうか。念入りにかけている認識阻害の事、でいいのだろうか。


「別にお二方の自己紹介などは求めておられないでしょう。こちらも、導師様とだけ、でよろしいですね。」

 傍でこちらを伺っている二人は無表情に頷いている。

 それで、私はこれから何が始まるのかわかっていない。気分優れぬまま、義務感として登庁をしているだけである。仕事がないのなら帰って眠りたい。


「この軟膏は、何ですか?」

 いきなり差し出されても困るので、念のために聞いてみる。毒という事はないのだろうけれど。


「昨晩、足を痛めておられた様でしたので。ご不要かもしれませんが。」

 そういう事ならばと、気にせず貰っておこう。

 捻った足は、相変わらず痛いには変わらない。下ろした肩掛けにそれをしまう。


「こちらの二人は、導師様がおいでにならないと言い張っておりましたので、こうして来ていただきました。御用も済んだでしょうし、人払い致しましょうか?」

「構いませんよ。どうせそれも、試されているのでしょう?」

 虫の居所は悪い。だから体裁をとりつくろわず、強めの言い回しになってしまう。

 軟膏一つで軟化する程、気分はよくはない。


「なぜあちらに?」

 尋問が始まる。私に話せる事なんて何もない。だから本当の事を伝えていくしかない。


「叫び声が聞こえて、逃げるように大通りに出たのです。」

 猫を追って、という部分は避けておく。それはきっと正常な思考では理解できないから。


「何か、誰かを探すような声、と足音、それから後に、叫び声です。」


「あんな時間に外で何を?」

「日中に疲れて、そのまま床に入って寝てしまったので、体を拭きたくて、井戸の水を汲みに。」

 そして疲れさせたのは、目の前の性格の悪い職員だ。そういう主張も兼ねておく。


「あの蜘蛛を操っていたのではないのか?」

 二人のうちの一人が口を開く。クモ。あの化け物の事だろうか。


「お伝えしたでしょう。導師様にそれをする理由はないのですよ。」

 理解できてきた。そうか、これは惨状の容疑としての尋問なのか。

 またしても疑われているのだ。

 バグマスターという生業が、蜘蛛を使役するというならば、筋は通る。


「導師様は使い魔をお使いです。勿論虫も扱いますが、ことこの一連に関してはとても協力的ですよ。」

 意味の分からないフレーズが飛び出してくる。何を誤解しているのだろうか。この誤解は解かねばならないのではないだろうか。この職員はポンコツなのだ。


「こちらで把握しているだけで、昨晩のあの猫、火を扱う鳥、それと亀。あの蜘蛛は恐ろしい生き物でしたが、導師様はこれらであのクモを退けられていらっしゃった。」

 猫。火を扱う鳥。これが何を指しているかは分かる。

 でもそう、カメ?それがなぜ出てきたのか全く分からない。見た事すらない。


「教会の司祭の失踪と、殺害については?」

「少なくとも、庁舎に連行した司祭殿については直接的には存じ上げていないはずですよ。殺害についても、あちらはまだ検案中ですが、昨日今日の殺害ではないと報告が上がるはずです。」


「どういうことだ?司祭は昨晩亡くなったのではないのか?」

 全くもって意味が分からない。なぜこの場にいるのか。早く帰りたい。

 容疑払拭の基準を早く探し出すしかない。


「恐らく、殺害は随分日が経っているでしょう。その情報の参考文献を提示くださったのも導師様です。」

「あの、死体の顔を持った何者かが、街に潜んでいるという報告か。」


 死体の顔。そう、確かに夜、それを見た気がしたのだ。

 けど、それは幻覚だったのか、あのクモだったのか。


 今となっては確かめようがない。


「串刺しになっても人語を叫びながら、息絶えるまで糸を吐き続けたあの化け物蜘蛛を見るまでは、ふざけた報告だと一蹴できたのだが。」

 何それ怖い。あの鷹だか鳶だかに連れ去られた後、クモはそんな事になっていたのか。


「導師様はどこまでご存じでいらっしゃるのです、一連の事件を。」


「何も知りません。」

 そう答える以外他にない。一連も何も、「何が起こっているのか」すら知らないのだから。


「私たちも、それを信じるほど愚かではないのです、導師様。」

 堂々巡りだ。


 私はどうやら彼らの中で、重大な事実を知っている何らかの能力者になってしまっているらしい。

 こんな誤解、どうやって払拭したらいいか見当もつかない。


「知らない事を話しようがありません。何が起こっているのか、何が解っているのか、そこから話してもらえないと、何を求められてもお答えしようがありません。」

 とりあえず情報を広げよう。知りたくない事もあるかもしれないけれど。


取り残されて知らないまま、魔女裁判にかけられるのはゴメンだから。

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アマテラス干渉システム Chimena
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