日報課内ミーティング
アタシは空が好きだ。この真っ青な空が。
どこまで飛べるだろうか。アタシは羽を振って、甲羅を持ち上げ、時折、自分を試したくなる。
あの空を、あの青を、どれだけ自分だけのモノにできるだろうかと。
けれど飛んでも飛んでも、空は広がっていく。地面に居たあの頃には掴めそうだったあの空はまさに「バケモノ」だ。手を伸ばせば、羽を伸ばせば、その分だけ大きくなる。
あの空はきっと、空になんてない。嘘つきの嘘っぱちで、手に入れようと思ったら近づくんじゃだめなのさ。地面に居る小さいうちにこの手に掴めないと、手に入りはしない。
きっとどこかに、あの空の本当の姿があるに違いない。アタシはずっと、それを考えて生きてきた。
アタシよりもずっと小さい、この手でつかめる砂粒よりも小さい、嘘つきのアイツの情けない姿。
それを見つけて笑ってやりたかった。それ見た事か、アタシの目は誤魔化せないよ、と。
それは社長に助けられて、この鳥の目を、体を、モノにしてからも、ずっと変わらない。この世のどこに隠れていようとも、見つけ出してやると今も思っている。
そんな事がずっと燻ぶっているから、あの時、アタシは生き残れたのだろうと思っている。
キノコが体に根を張って、アタシの頭を食い破ろうとしたあの時。アタシはほら見た事か、やっぱりこういう奴がいるじゃないか、と感心すらした。
あの大空の青もまた、どこかにその小さな体を隠して、アタシらにそれがバレないか怯えてる。それを暴き出して、笑ってやるまでは死ねないのさ。
社長はアタシにそれをさせるために、力をくれた。
普通なら飛び回らないと得られない肉を食わせてくれて、時間すらもくれた。命だって、社長がくれたようなものだ。
あの青い空を見るたびに思うんだ。楽しみは最後に取っておいてやるとね。その小さい体を草の陰に隠して待っていろと。
そんな事もあって、アタシはより、小さいものに目端が利くようになった。
あのキノコの件があってからは尚更だった。大きい奴らはナッキーやアキサダが、その陰を、姿を捉えてくれるだろう。
大きい奴からは逃げさえすればいい。怖いのは気付かないくらい小さい奴の方だ。
鳥の目を巡らせると、ハルタの猫が社長の背中をコソコソと追い回しているのが目に入る。
アイツは面白い奴だ。何も知らない、分からないと言いながら、周りをよく見て、仲間が一番うまく回る様に考えている。
社長がアタシたちの事をよく思っていない事は分かっている。
だから気取られない様に静かに振舞っているのだ。
猫は都合がいい。あの大きな成りでも、それを気づかせない妙な所がある。
社長はああして、日の高いうちはふらふらと歩き回り、日によってアタシらに飯を食わせては、日が落ちてくると息を潜める住処へと戻っていく。
ナッキーやアキサダが思うように、クモの奴は直ぐには社長をどうこうはできないだろう。
けどそれがいつまで続くかわからない。
社長の事を悪く言うつもりはないけど、大きい連中は後先を考えない所がある。
気を違えて社長に突然襲い掛かる様な気がしてならない。
あれだけの大きい巣を作るクモだ。相当な自信家だろう。
そういう奴は、何で火が付くかわからない。
社長を追って空を巡っている間に日が暮れていく。
鳥を解放し、アタシはその背を離れる。
いつも通りならこの後社長は、住処で朝までジッとしているはずだ。
ハルタもそれを見張っているだろう。
「フユミねえさん。」
「遅くなっちまったね。そろってるかい?」
迎えの仲間に誘われてアタシは森に潜っていく。
ここからはアタシらの時間だ。
「方々に散っていた連中は粗方戻ってきやした。社長の番についている連中はそちらに。」
ハルタにだけ任せる訳にもいかないだろうから、同族を交代で社長の住処に張り付かせている。
何かあれば知らせが飛んでくるはずだ。
「あのクモの巣の主は分かったのかい?」
「相変わらず姿を見せやせん。本当にまだこの辺りに潜んでるんですかね。」
「居るだろうさ。これだけの餌場だよ。手放さず、巣を彼方此方に張ってるのさ。」
森の奥に飛び込むと、いつもの様に、仲間たちが待っていた。
「いいかい。律儀に待っている必要はないよ。巣を見つけるんだ!見つけたらその場は捨て置いて、クモが現れるか見張るんだ!姿を見かけたら、夜の集まりに話を持ち帰るんだ!いいね?」
クモが自分の巣を張り巡らせるように、アタシらは仲間で「目」を張り巡らせる。
これはクモの様にアタシらを襲い、被害を与えてきたハチどもの手だ。
アタシは目的のために有効なら何でも使う。
「しかし、フユミねえさん。自分たちにどうにかできるモンなんでしょうか。」
「どうにか出来る出来ないじゃない。どうにかするんだよ!さぁ!今夜でモノにしちまうんだ!」
弱音なんて聞きたくない。聞いている暇はない。
こうしている間にもキノコの連中は社長に迫っている。
クモの話は早く片付けるに越したことはない。
「いいかい!寝静まった鳥共を片っ端から乗っ取りな!寝ている内に根を張って、自由に動かす感覚を覚えるんだ!最初に出来た奴は、社長の飯を一番に食わせてやるよ!」




