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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
街影に潜むモノ
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医療崩壊の現場に起こる事件か事故か

「生死の分かれ目は、大きく分けて二つ、でしたね。一つはハッキリとしています。」

「何かわかっているのですか?」


「ええ、対応した者が違うのですよ。何しろ一度に八十名も昏倒した方がいた訳でして。」

 確かにそうだ。私がいた世界であったとしても一度に八十人も倒れれば、医療は一時的に崩壊する。そこから何らかの手段で立て直しを図って、沈静化なり、死亡につながっていく。


「現場の保全、調査と同時で対応を行いましたし、治療にあたる職員も事前に待機をしていたとはいえ、崩壊しましたよ。夜間遊興もその場で運営を停止。解散誘導を含め、最悪の予測に沿って職員は対応を始めました。」


 その流れは私も、あの塀の上から遠目に見ていた。混乱が発生、そして沈静化していくまで。

 街の職員による誘導や、現場で対応に追われる声、解散対応への不満を漏らす声。

 あの夜、大通りから逃げる人がしばらく続いた後、解散を促され、理性を取り戻した人々は「家に帰っていった」のだ。私はそこまで、あの塀の上で確認をしている。


「お祭りの性質もあって、抗議の声も大きくてですね。ああ、こっちは本当の酒乱、悪酔いといった類いです。そこで、救援を要請しました。最悪の想定に基づいて『教会に』です。」

 それは、ごく当たり前の対応だろう。


 この世界では「教会」は、何も死者の処置や墓苑の管理をしているだけではない。

 慈善事業、冠婚葬祭、行政で補えない就学事業、貧困層への支援事業など、宗教としてそれを維持するために手広く行っている。

 世界が違ってもやっている事や事業や展開の仕方まで同じことに、驚いたのを思い出す。


「確か、司祭様がこちらに打ち合わせにいらしていましたねー。」

「そう、貴方もご覧になっていたそうですね。形式的とはいえ協力を申し出てきていましたので、事態を鑑みて、言葉に甘える事になりました。結果は最悪でしたが。」

 最悪の結果。つまり死者が出た原因は、教会の対応だった、という事だろうか。


「教会への要請は限定され、昏倒者、この時点では酒精による意識昏倒という判断でしたから、それらに対する看病をお任せする形になりました。現時点での死者はこの割り振りで決定してしまいました。」


「つまり、教会に任せた人が死んでしまった数なんですね。」

「いえ、十八名です。」

 死者の数が合わないぞ?その疑問が顔と素振りに出てしまっただろう事に気付いて、慌てて平静を装う。


「全くの別件、でしょうね。振る舞い酒を飲んだのだと思われない本当に泥酔した人が後から一人担ぎ込まれたんですよ。十七名のキノコ毒、そして一名の酒精泥酔が、同じ対応を受けて亡くなりました。」

 ああ、教会は黒だ。少なくとも、十八名は、「キノコの毒の入った酒」を飲んだから、死んだわけではない。何かをした、のだ。


「あくまで調査の段階です。司祭様が、酔い止めの薬を教会より持ち込み飲ませたそうです。」


「それが生死を分けてしまったのですねー。」


「ええ、それは見事に。その薬で悪化、そのまま亡くなられました。」

 犯人はその場で自白と。医療ミスで亡くなった、それまでなら。


「お薬が同じで、症状が違う人まで亡くなった、ですか?」

 そうだ。そこがおかしい。一人はキノコの毒ではなく、酒精で倒れたのだ。


「司祭様は『薬』を間違えたと仰られています。毒を飲ませてしまったと。司祭様の贖罪まで頂いています。」

 犯人は自白済みだった。事故、という事になるのだろう。言ってしまえば、人災だ。


「つまり、一つの事件と一つの事故が起こったのですねー。」

「今現在は、そういう方向で調査が行われています。今現在は、ですけどね。」

「何か、疑問点があるのですかー?」


「残り四名のキノコ毒の死者です。こちらの死者は、その薬を飲んでいないのですが、ね。」

 ああ、そうか。薬ではない、けど症状が悪化して、死んでいる。少なくとも現段階で。


「他の意識昏倒された方と、違う点が見つかったのですかー?」


「そうですね。そうなります。ああ、話が長くなっていますね。お茶、飲みますか?」

「え、あ、はいー。」


 お茶を濁す、という表現が正しいのか、一服を入れるという表現が正しいのか。


 美味しい。

 水出しだが、この間、窓口で飲んだ柑橘類と発光茶葉の粉末を戻したもののようだ。


 頭に休息を。事件に深入りさせられているのは間違いない。でもきっと、深入りさせているという事を誤魔化している意味もある。

 成程、私の住んでいた世界の様式は、こちらでもなぜか似ている。考える事は同じなのかもしれない。


「そのお茶に、毒の種が入っているとしたらどうします。勿論冗談ですが。」

私は咳き込んだ。御免だ。もう御免だ。この話を聞く前に出ていきたい。


「毒を飲む前に、毒の種を仕込まれていた。毒を飲んだ段階で、種が芽吹いて、爆発した。」

 何を言っているのだろう。

 そんな事よりも折角の休息が台無しになったのを、はて。そこまで考えて、違和感を覚える。


「四人の犠牲者は、体の何処かに、切り傷がありましてね。薬を塗っていた様ですよ。」

「薬ですかー?」


「ええ。塗り薬。驚いたのですけどね。恐らくこれ、キノコと同じものです。」

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