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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
街影に潜むモノ
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歯車の掛け間違い

「昨晩はこの庁舎ですこーし雑談をした後、街の屋台でお買い物をして、お祭りの雰囲気を味わっていましたよ。」


 用意していた回答を切り出す。急いで歯車を噛み合わせていかなければならない。

 容疑を薄めて、平穏を勝ち取るために手札の一枚目を切る。


「庁舎にいらしていたのは私も拝見しました。窓口にいらしていましたね。ちなみにどんな雑談を?」

 ここも、恐らく本当の事を伝えていい辺りだ。行動を怪しまれるようなことはしていない。何よりも庁舎の職員が証拠を補完してくれるはずだ。


「昨晩のお祭りの由来を少し。お酒の取引に使われる特産のお話などをー。あ、香料や石鹸の話ですよ、支給されていますー。」

 そう、石鹸の話をしたのだ。香料や染料が作られる。生地が織られる。その副産物で石鹸やお茶などができたという話。この辺りに事件につながる要素はない。


「導師様は、この街のお祭りについて詳しくご存じなかったと?」


「そうですねー。張り紙に出ているものや雑談で得た知識など、アンジュに来るまではまるでー。」

 会話の流れは恐らく、ここに立ち寄って短期滞在している理由などに移っていくはず。そこへ行くか、昨晩のアリバイについて流れていくか、分岐がある感じだろう。


「庁舎を出たのはいつ頃の事で、屋台街へはお昼のお食事ですか?」


「窓口に教会の司祭様が、お祭りの打ち合わせでいらっしゃったので、ご迷惑にならないように退散をー。お仕事もなかったのでその後、職人街を経由して、屋台街へー。」

 そう、屋台の戦利品を肩掛けかばんに入れるために紙袋を求めて職人街へ向かったのだ。ここも本当の事を言っていい。まだ誤魔化すところじゃない。


「こういった紙袋をですねー、買ったお饅頭や焼き串を入れるために買ったのですー。」

 肩掛けから、使いきれず余った紙袋を取り出し差し出す。騒動が起こる前に大通りを離れるために、屋台を厳選した結果だ。本来なら使い切る予定だったが、行動の証明には何かの役に立つ。


「成程。お祭りを楽しむおつもりだったのですね。お酒は嗜まれないので?」


「好きではないのですよー、飲めないのでー。」

 世間話に見えるが、ここも追求だろう。お酒を飲まない事は、被害を避ける事に繋がる。飲んだといえばその裏を取られる。嘘が袋小路になっているのだから、ここは正直に。


「それは幸いでした。被害者の中に導師様がいらっしゃらなかったのは幸運でしたね。」

 少しの違和感。少しの疑問。だがここは、大丈夫。足を止めなくていい場所だ。


「まだきちんと聞いておりませんでしたね。導師様はどうしてアンジュへ?何か目的が?」

 事件そのもののアリバイについてはここで一旦、休止といった所だろう。

 隣の歯車が回りだす。噛み合う言葉を探して、繋いでいかなければならない。


「中央の方から、流れ落ちる様に一時滞在に。物価が高くて住みづらい街は中央側に多いですからねー。」

 言葉を慎重に選んでいく。アンジュを目的地にしていた訳ではないのだから、そこは慎重に。


「一時滞在とはいえ路銀は必要ですから、日当で職を求めて庁舎に伺いましてー。」


「それはどのくらい前で?」

「三十日と少し前ですねー。」

 ここは少しだけ嘘を混ぜる。二十日程の期間だが、この街を探っていた期間はあるのだ。


 この期間は怪しまれると思う。

 この地域の虫たちの隷従化、物価の調査、飲食の品質調査、住んでいる人たちの気質、救助が来るまでどれぐらい時間が稼げるかの逆算。「一時」滞在に適している場所かどうか。


「そうですか。となると、この街を去られる予定も?」

「その予定は、お仕事の嘱託で保留になっていますねー。」

 このアンジュは、程々にいい場所だと個人的に結論は出来ていた。

 環境が変わるようなことがなければ、である。だからこそ、下宿屋ではなく、住居を考え始めていた。ただ、それはまだ未確定だ。


 仮に住居を手に入れても、財産としてのそれではなく、散財防止の打算である。

 賃貸住居辺りが候補になるだろう。下宿屋生活でも、滞在としては究極的に問題はないのだ。

 まぁ、強いて言うならば家の庭でのお風呂には惹かれるものがあるのだけれど。


「最後に、昨晩の事をもう少しだけお伺いしても?」

「最後、ですかー?」

「昨晩は、いつごろまでお祭りに?」

 ここの返答で、裏付け捜査が行われるかどうかが判断されるのだろう。

 あくまで「余所者」に対する形式的な質問だと思う。

 だからここを誤らねば、私に追及が及ぶことはこれ以上ないはず。


「夕方前、大通りに肩が触れ合う程の人が来る前にはそちらを離れ、滞在先でご飯を食べていましたよー。」

 嘘だ。滞在先には戻っていない。私は聞き耳を立てていたのだ。目を光らせていたのだ。

 あの荒れ屋敷の塀の上で。

 だが、「それを知る者」は居ないはずだ。そういう風にしたはずなのだ。


「解りました。導師様。今はそういう事にしておきましょう。」


 え?

 失敗した?聞き間違え、と思いたい。


「導師様。昨晩の事件について、もう少しお話ししましょう。」

キメナよりゲーム開催のお知らせ。

https://twitter.com/Chimena_LalkaOS/status/1329820333054935040

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