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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
予想される事件
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祭りの日の迷子は父を探す

「ご足労頂恐縮です。本日は幸いにも対応はございません。導師様。」


 職員の対応は折角足を運んだ就労意欲に水を差した。いや嘘だけれどね。就労意欲などさらさらない。


 昨日に続き晴天、涼しげに緩やかな風も吹いてすらいる。草木のざわめきすら聞こえてきそうな軽やかな朝だ。

 更に仕事をしなくていいとあれば、心にも花畑の一つや二つできてもおかしくはない。


 今夜は夜祭がある。夜間遊興と銘打っている。

 「山に降りた霜も溶け、芽吹き目覚める草木の恵みを祝う」といった趣向のものらしい。


「最初は、各々の家から蓄えの薪と食料を少しずつ持ち寄って、火を起こして、猟師の捕った獲物の肉を焼き、次の収穫までの英気を養おうとする、小さな夜会だったそうですけどね。」

 職員は部署を超えて担当を決めて、夜祭の設営や進行を管理するそうだ。


「歴史の中のお話になりますが、この地方ではお酒はそれほど造られず、飲まれなかったのです。それが、この夜間遊興を聴き、話の種に訪れた行商人が、お酒を多く持ち込んで変わっていったのです。」

 私はお酒があまり好きではない。そういった習慣や付き合いが始まる前に、この世界に足を滑らせてしまったのは大きいと思う。


 お酒を飲む人の気持ちはわからないでもないけれど、私はそういった意味での遊興とは縁がなさそう。むしろ美味しい食べ物の屋台に興味があるぐらいだ。


「この地域ではそのころ珍しいお酒を飲む行事といった意味合いで、少しずつ大きなものになっていったそうで。今ではこの街でもお酒は造られて、珍しいものではないのですけれどね。お酒を買うために蓄えを切り崩し、行商人を持て成し、また行商人もその歓迎を受けて、翌年もやってくる。」


 それはきっと、寒さが明けたのもあるのだろう。雪は降らなくても足取りは重くなるし、産物もない。燃料消費の多い鍛冶場も閉塞気味になる。

 農作物の収穫の乏しい霜の時期は工芸品や編み物が蓄えられ、それをこの地域では価値の高かったお酒を運んで割安で仕入れていく。

 その工芸品で、お酒の産出地から割安でお酒を仕入れるのだ。


「この辺りだと雨季の間に草木染の糸や材木の樹皮のなめしを作っておいてー、冬の編み物なんかをお酒と交換したのではー?」


「おや、ご存じでしたか。さすがは導師様ですね。」

 現代地理学の賜物である。とはいえそれを説明するのは面倒だから、「知っていた」という事にしておくのだけれど。


「山に霜の降りる乾季は乾いた風も吹くので、温かい時期に収穫した果実の皮や、香草の葉を乾物にする習慣もありますね。植物由来の染料、お茶などもそういった流れで多く作られ、ああ、庁舎で支給された石鹸をお持ちでしたね。試作品の。」


「あのいい香りの石鹸ですねー。」

 支給品としてあんなにいいものを貰えたのは役得だ。

 この仕事を受けているモチベーションの最大功労者である。きっと役所の人間はこの生産品にもっと感謝した方がいい。

 湯屋の汗を流した際、そのまま使い切ってしまうのではないかと思うくらい入念に肌になじませたし、肌に悪くもなさそうなので、翌朝から洗髪にも使っている。



「あら、司祭様。」

 庁舎の窓口で多少の交流ぐらいにと始まった世間話が底なし沼に落ちかけているのを感じていた時、幸いにもそれは突然の暗礁に乗り上げる。

 この機会にこの石満載の船から逃げ出さないといけない。


 こんないい天気、それも祭りを前にしたこの街で、不健康に屋内でお茶を飲んでいるもんじゃない。


「今夜の夜間遊興の折衝に参りましてな。」

 司祭、街の教会の責任者らしい。シワが刻まれた、初老の人のよさそうな顔をしている。

 そういえば、ゾンビ化が多いこの地域の遺族のために、入墓や魔素処理の心づけを融通しているとか聴いたのを思い出す。


「遊興には荒事がつきものですからな、いや、何事もないのが一番ですがの。」


 こちらへの会話が逸れたのを見計らい、庁舎をまんまと抜け出し、のんびりと街を歩く。


 今日ばかりは仕事の上りも早いのか、まだ昼前だというのに、食堂街は賑わいを見せ始めていた。


 街に荷を下ろす馬車も目に付く。もしかしたら、昨日の夕方辺りから増えていたのかもしれない。

 私が寝泊まりするような、半定住者向けの様な安宿はあまり変わらないように見えたのだけれど、大通りに近い旅客宿や行商人の御用達に宿は賑わっていたのだろう。


 そんな中を、今日もあの青年は走り回っていた。迷子になった大きな子供の様だから目に留まりやすい。


「父さんを見かけませんでしたか?」

 今も、屋台主や食堂街の店に、恐らく行きつけだったのだろう、訪ねて回っている。

 その顔には額に汗、前よりも必死さが漂っているように見える。


「五日目、ですかねー。確か。」

 別に話しかけるつもりもない。

 知っている事はないのだから。知らない顔の相手について、知る事が無いのは私のせいではない。


 青年の横を通り抜け、屋台を物色する。夜の遊興迄の間を埋める美味しい食べ物はないだろうか。


「見かけないね。あの日以来だよ。母さんの具合はどうなんだい?」

「あまり良くなくて。眠っていることも多いんです。食も細くなってきていて。」


 会話が聞こえてくる。あまり耳に入れない様にしよう。きっと良くない話だ。歩調を早めて距離をとる。

 そのうちに人の声に紛れて、聞こえなくなった。


 薄情と思われるかもしれないが、それは仕方のない事。


「五日目」という事は、何かの間違いや、ちょっとした事故ではないギリギリのラインだ。

 最期まで面倒を見切れない事はしない。私は私のことで、十分に手一杯なのだから。

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