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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
決定的な対立
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使えるものは何でも使う

「さて、本題です。我々も、正直この時間までの相談で煮詰まっておりましてね。」

 ポンコツがこちらを見ている。正直納得できる事ではないけれど、彼が何を言わんとしているのか、それ自体は判る。後は本人が口を開いて、それを言うかどうか。


「導師様は、もしかして、人と怪物を見分ける手段を、お持ちだったりはしませんか?」


「持っているわけ、ない。」

 すんでの所で組み立て終えていた言葉を、被せる様にはっきりと伝える。

 そこから、一息だけついて、口の中に溜まった唾を、躊躇いと共に飲み込む。


「私は、持っていない。けれど、見分ける方法や探す方法は、多分、ある。」

 

 そう、私は多分、それを持っている。それを扱う力を持っている。

 その場の全員の視線が集まるのを確認して、また、息を飲み込む。


「うちの虫たちなら、恐らく、それを判別できる。おびき出すことも出来るかもしれない。」


 その答えに対し、納得の表情を見せる、そういう顔と、理解ができないといった表情の顔。それも予想ができていた。

 理解が及んでいない人たちは、恐らく、弊社職員たちや私の仕事を、見たことがなかったり、知らないのだ。


「首のない人間は、死んでいる。だから、それを食べる様に指示を与えれば、恐らく、襲いかかって食べかかってしまう。残っている部位は、生きている怪異、つまり、寄生しているあの大蜘蛛。」


 ずっと考えていた事だ。以前の事件、その司祭が、何故、先任のバグマスターを殺害したのか。

 確かに、彼が奥さんの病床についての責任追及をしただろう事も原因の一つかもしれない。


 ただ、それはあの時の考察だし、実際にその場面を見たわけじゃない。前提がなければ、むしろそれは無理筋のこじつけだろう。

 だから、他にも原因があったんじゃないかと、ずっと考えていた。


 教会はバグマスターに依る死者の蟲葬こそう下法げほうとして、あまり好ましく思っていない。それはきっと幾つか理由がある。


 あの蜘蛛に取り憑かれた人間は、蜘蛛が離れると、動かなくなる。これは死体そのものを、何かの手法で作り変えている、という訳では、恐らく無いのだろう。

 今回の例でもあるように、人を使い捨て、乗り換える事が前提の蜘蛛たちの行動があるのなら、その数は多いほど良い。直ぐに使って、直ぐに捨てる。


 その点では、教会の管轄外で死体を掃除してしまう、行政嘱託であるバグマスターの存在は気に入らない。そこも、或いは、そこが一番大きかったのかもしれない。

 その上に、悪事の追求などがあればこそ、露見の元ともなる、行方知れずの存在など作り出してしまったのだろう。


 生者を冬虫夏草にしてキノコを増やす上でも、それがあの夜、私に襲いかかってきた教会製のゾンビに繋がるとしても、死肉をみ、子実体を食べ残す、何らかの判別方法を、弊社職員は持っている事がわかっている。


 それに。弊社職員たちは、特別な存在だ。集団で、自我の様なものを持って、独自で考えて行動をしている。それに、大喰らいだし、お節介だ。猫や鳥だって、死体だって、使えるものは何でも使っている。


 その点では、あの怪異の大蜘蛛や、蝙蝠の様な大型の怪異によほど近い。


「一つだけ、問題があります。」

 そして、これは気付いていた事だ。今、弊社職員たちは、全員出社していない。


「具体的に言えば、今、羽虫の類の虫が手持ちにいません。だからどうしても、高所や遠い場所に対して、対処が遅れます。」

 弊社職員たちは大型化していってる。食量も増えたので、社員総出で活動をしていなくても、通常業務に支障はないし、余裕すら生まれてきている。


「なるほど、だからか。」

 ポンコツは納得したように一人で頷いている。これは、多分、ポンコツがそれを見ていたから、気づいたのだろう。

 羽虫がいないから、歌を唄って、光らせて街中に放っても、「地を這う光」となってしまった。ポンコツは、宙を舞う羽虫たちの発光を以前見ているのだから、違和感が残っていたのだろう。


 羽虫たちがどこへ行ったのかは、解らない。

 帰ってくるのかもしれないし、もう帰らないのかもしれない。

 ただ、羽虫だけ、一匹も残らず現れないのは、きっと何かを考えて、勝手にやっている、と言う事だろう。組織的な行動に、意味がない事の方が不自然なのだから。


「では、実際に何が出来るか、どういう行動をするか、それを考えていきましょう。」

 左腕にしがみついている彼女の手が、そうしなきゃいけない、という気持ちを駆り立てる。


 頼られている、依存されている、言い方は、色々あるのかもしれない。

 でも、彼女は、いつも生活をしている中で、私のこの顔を見ても、側に居てくれた。


 そんな子は凄く少ないのだと、私は嫌と言うほど知っている。


 ポンコツにしたって、この場にいる人達だって、頭ごなしに顔を歪めたりはしない。

 この際に、都合よく利用されてるのだって、解ってる。

 それでも、ここにいる人たちは、まだ、交渉ができる人たちだ。


 だから今は、生き残るために、使えるものは何でも使う。

 相手は、私に対して明確な殺意を向けてきている。生きていなきゃ、助けても貰えないのだから。

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アマテラス干渉システム Chimena
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