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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
災害の爪痕 B
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社屋建設予定地の課題

「何もかも足りんな。どう思う、アキサダ。」

 地を滑りながら、背に乗ったアキサダに漠然と問う。


 まず、時間が足りない。これはどの側面から見ても明らかだ。

 社長を取り巻く環境、我々の支援体制、そのための設備、何もかも間に合っていない。


 次に、資材が足りない。我々は所詮は、虫に過ぎないという事だ。

 文明が幾千年と積み立てて築き上げたインフラという財産がなければ、それをなし得ない。

 環境構築に必要なものを作るための、事前環境そのものがないのだ。


 ひいては、我々には歴史が足りないのだ。

 せいぜいに有るのは、ヒトとして生きていた頃の記憶と、この生を受けてからの記憶。

 この身体でどれほどの事ができて、それにはどれほどの時間がかかるか。

 そしてそれらを測る基準や、記録を行うための手段がない。


 地面に文字らしきモノを書いても、誰かがその上を歩けば、消え去ってしまう。


「今のままでは、一体どれだけできるのだろうね。」


 ヒトとしての記憶を、揺り戻した同胞は増え続けている。

 そしてその記憶を頼りに、実践と実証を繰り返している。


 しかしそれは未だ、人類が記録を知らない頃に行っていた、言わば、口伝を主体にしたプリミティブテクノロジーに過ぎない。


「でもまぁ、火起こしなんてのをするなんてさ、思いもしなかったことだよ。」


 石ころを打ち合わせて、必死に木を燃やしていたアキサダを思い出す。

 あれは、本格的に地下を掘り起こし始めた頃だったろうか。


 今では、高炉が何本も立っている。地下の外壁も、驚異的な速度で文明化が進んでいる。


 土を焼き、煉瓦を組み、通風口を固め。排気係が必死に歯車を回している。

 現実的に、金属を得られる目処も立ってきた。ヒトのサイズにすればミニチュアの街を作っているようなものだが、やはりその利便性を記憶に持っている以上、その記憶に依存している以上、何をするにも、そのインフラがどうしても必要になってしまう。


 そんな事に食指を伸ばしていれば、時間など湯水のように消えていく。道楽と知的好奇心を満たす、そんなお遊び程度のものを、まだ逸脱できないでいる。そう簡単に行くはずもない。


 結局我々は、ヒトだった事もある虫に過ぎない。虫の範疇で大差がない。


「でも、楽しさと、勢いは有ると思わないかい。」

 そして、アキサダは楽観的だった。その言葉には否定はない。

 脚を止めると、アキサダが背から飛び降りる。


 それでも時間は進んでいく。我々には時間が圧倒的に足りない。

 その事を、フユミはヤキモキとしている。そういう奴だ。


 ハルタは、この状況をちゃんと把握しているのだろうかと、心配になる。

 生返事を続けていて、それが、更にフユミの気持ちを苛立たせている。


「ココロは、そんな簡単には一つにならないんだよ、ナッキー。」

 身体を起こし、顔を突き合わせて、まっすぐ目を見てアキサダが言う。


「ここには、沢山の仲間が居る。沢山のヒトだった虫たちが居る。やり残した悔いを抱えたまま虫に生まれ直した仲間もいれば、虫として、ヒトだった頃の記憶に頭を抱える仲間もいる。」


「だから、まずはそういうものを整理する時間は必要なんだと思うんだ。その点で、ハルタの方針には賛同している。ナッキーもそうだろう?」

 私の顔に脚を器用に伸ばし、コチラをじってみて、アキサダが言う。


「しかし、悠長な事を言ってもおれん。」

 我々の記憶に遺された爪痕は、深い。決して楽観できるものではないのも理解している。

 しかし、実際に、視認できる形で問題は差し迫っている。社長にも、我々にも。


「問おう。アキサダの優先事項は何だ。」

「ナッキーと過ごす時間だよ。そう言ってあげれば、喜んでくれるかな。」


「笑えない冗談だ。悪い気はしないが、今はそういう話をしては居ない。」

「そういう話だよ、ナッキー。君を助けたいんだ。」


 アキサダは背を向けて、前へ進む。その足取りは、ノロマという他ない。


「行くんだろう?フユミに頼まれた件。手伝うよ、個人的にね。」


 雨が降り始める。大粒の水滴が落ちて、水面に大波を起こす。それがアキサダに盛大に降りかかる。


「もう一度、私の背に乗れ。いくぞ。」

「助かるよ。」


 自然と表情が分かるものなのだなと、感心をする。

 あの頃の『秋定』と同じように、アキサダは困ったようにうなだれる。


「連中はいいのか。」


 社長の家の地下で、今もアキサダの同胞たちは、土の壁と悪戦苦闘していることだろう。


「今日ぐらいは問題ない。好きな事、必要だと思う事、それぞれに有るものさ。それに気になっているのも確かなんだ。あの蜘蛛。あの時の声。あの事件。あのキノコ。」


「アレで終わったなんて事はあるまい。現にこうして、フユミが動きを嗅ぎつけてきている。」

 規模の大きさからして、ヒトの墓地と言えるだろう場所。

 そこにキノコの温床があり、あの事件ではその敷地を中心に、様々な問題が発生していた。


 長らくヒトの出入りがなかった。封鎖されていたと認識していた。

 串刺しにされていた蜘蛛の亡骸も、干からび、枯れて、いつしか朽ちていった。


自分たちがヒトとして生きていた時代。

 「教会」と呼ばれた施設に酷似した、街の雰囲気にあっていない、異質に感じるその建物は、今、目の前にある。

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アマテラス干渉システム Chimena
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