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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
半定住の新生活
117/193

街の新たな面倒事

「明確な、殺人です。被疑者と思われる人物は逃走。こちらの亡骸は身元がわからぬまま安置期限の数日を迎え、検分も終えているのでこちらに回されました。」


 亡骸の裸体には腹部から大量の出血をしたと思われる裂傷があった。

 ここまではっきりした「殺人とされる遺体」は十数日、見ていなかった気がする。


「暗がりとはいえ、争う声、逃走する被疑者、亡骸の状態まで含め多くの証人が居ますが、全容の解明と被害者の身元の判明には繋がりませんでした。街の門外で発生したもので、被害者のものと思われる身元不明の馬車も発見されています。」


「この街の関係者ではない、外部から持ち込まれた殺人、ですか。」

 甚だ厄介な話だ。面倒事を持ち込んだ上に後始末まで押し付けられている。放置しているとゾンビ化される可能性もあるので、尚の事問題である。


「本来であれば、こういった遺体の処理や確認は、教会の協力を得て行われるのですがね。我が街は既に教会と疎遠関係にある。で、あればこそ、この街が殺人に用いられた可能性すらあります。非常に扱いづらい問題です。背景がわからぬまま、死体を捨てに来る、死体を作りに来る、その後処理をさせられ、片棒を担がされる可能性など、思慮の範疇外だったかもしれません。」


 ポンコツは頭を抱える。だがこの街の嫌な背景を無理やり見させられた私の気持ちにもなって欲しい。その死体を処理するのは、今の所、私なのだ。


「勿論、今回の処置にあたっては、街で責任を持ちます。導師様に及ぶことが無いよう書類上の記録も残しています。」


「嫌ですよー。切り捨てられて、容疑者一味に含められるのは。」

 本当に面倒だ。

 

 嘱託役人が勝手にやった事などと言われた日には、このポンコツも道連れにする覚悟である。

 弊社職員に厳命して生きたまま拘束し、囮にして、私はその空きに逃げるしかない。こいつが犯人だと書き記しも残していくしかない。


 弊社職員たちが最期の亡骸を貪っている。

 面倒で危険な死体だが、職務放棄をすれば、何をされるかわからない脅迫概念も存在する。

 非常に短期的で、刹那な案件ではあるが、今、私はこの街に関わり過ぎ、恩恵も受け過ぎている。

 非常に遺憾だが、仕事をしない事で影響を受ける範囲が広がり過ぎてしまった。


 今はポンコツの言う責任関係を信じるしか無い。

 この手の問題は時間経過で消えていくだけまだいい。判明しないなら判明しないで、闇に消えていってくれれば良い。この一件だけに限るならば。


 問題なのはこういう案件が今後続発するだろうという懸念だ。

 ポンコツが言う「教会が関わらなくなる」事に関しての問題というのも、確かに存在し、現に発生してしまったのだ。


「今後、この様な案件がどの様に推移していくかわかりませんが、導師様だけを頼る他無いのが現在の街の実情です。勿論、それを鑑みて、報酬のお約束はさせていただきますが。」


 頭の痛い話だ。

 他の街からバグマスターが流れてくる可能性は、繁忙期とも言える雨季では考えづらい。何処も手放さす、往来も少なくなくなる。

 可能性があるとしたら比較的に穏やかな乾季であるが、この街が外でどの様な評価を受けているかを考えれば、わざわざ足を運ぶ価値が増えているとは思えない。


 イロモノ都市政策が加速すれば更にその度合は増すだろう。

 全てポンコツが企てた結果であり、不幸な事件の連鎖の結果であり、私にとってはただの迷惑だ。


「どの遺体の調査にしても、手は足りないのです。街や近郊に何か起こっている可能性を、複数の問題を抱えながら探っていく、そんな余裕は現在、この街の役人にはありません。導師様がお気づきの事があれば、何でもおっしゃってください。導師様のご進言には既に、実績がありますからね。」


 ポンコツの言い振りに、深いため息をつく。勿論聞こえるようにだ。認識阻害も意図的に薄くして、言葉にこそしないものの、ハッキリ、面倒だと伝えてやる。


 その悪態とも言える様子を見てか、ポンコツはチラチラとコチラを見ている。やや珍しい挙動である。妙な違和感を感じるが、私個人はそれどころではない。


「今日の所は以上です。追って何か判明すれば、こちらも情報共有致します。」

「情報共有というのなら、早く、あの柑橘の香りの味噌の出処を提供してください。石鹸についても早く商品としての流通を。」


 あの焼きおにぎりに使われた味噌もどきの出処は未だに解っていない。

 このポンコツが持ってきたのだ。

 あの時提供された味噌玉も、屋台の饅頭もどきに塗って早々に食べきってしまった。


 情報の秘匿があるとするならば、まず最初に要求するのはあれだ。


 しかし、再三の要求にも関わらず、未だにポンコツは口を割らない。

 あの事件以来、幾度もの要求と尽力にも関わらずである。


 出処が開かせない事情があるのだろうか。それとも交渉の切り札にされているのだろうか。

 しかし屋敷以上の切り札かと言われると、その価値については常識的な疑問があるのだが、実際それは現在進行系で起こっている。


「明日、報酬に窓口で受け取れるよう計らいましょう。」


三体目の遺体の骨がコトリと崩れる。今日の仕事はこれで終わりだと思いたい。

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アマテラス干渉システム Chimena
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