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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
初めての反抗 B
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インフラの奪い合い

社長が何をしようとしているのか。それは、直ぐに解った。

 まずは治療。あの、キノコが酒精と合わさった、俺たちも手を焼く問題だ。


「早いね。これだけの人を並べてる。」

 酒精の毒は、キノコ毒でも特に厄介だ。ただ、アキサダはこの毒について一番長く関わっている。

 先日自身でも深い昏睡に陥っていたはずだ。


「厳密に言えば、まだ完治は仕切っていない。正常に活性化は行われているんだけれど。その原因は解っている。一種の神経麻酔物質。」

 横たわっている多くの患者を見て、俺はアキサダに言われるまま、その腕を突いて回る。


「キノコは感じない。」

「それなら、毒の部分だけを摂取した。或いは血中のキノコが極微量だったか。」


「神経麻酔物質、というのは何だアキサダ。まだぼんやりとしてハッキリ思い出せん。」

「ああ。要するに脳に送られ、脳から送られる、正常な命令を、毒が妨害している。」

 脳。イマイチ実感がわかない。

 俺たちには、今はまだ、人ほどの「脳がない」。そこにどうしても違和感が湧く。


「レセプターと呼ばれる、命令を横から奪い取る物質が、酒精毒の正体。」

「お前が起き上がれたのはどういう事だ?」


「フユミが陽の下に放り出して怒ってたからだよ。」

 なんだそれは、治療なのか?


「この身体には身体本来の脳と、キノコという補助脳がある。」

 補助脳?脳が二つあるということなのか?


「キノコの方の補助脳が、とても強い神経物質を出している。けど、例のキノコとはすでに別物になってる。身体の体質に近づいていて、似たような働きをする。」

「それは私達の体にあるキノコにも同様のことが言えるのか?」


「同じもの同じ様に食べて取り込んでる。元は例のキノコと同じでも、もう別種、進化してると言える。進化の変遷には個体差があるだろうけど。類似はしているはず。」

 どうやら、俺たちは今は正確には「虫」ですらないらしい。


「脳が二つあれば神経物質で受け取りも、排出も効率よく回る。だから毒を早く使い切った。」

「毒を使い切る?」


「実際には時間制限がある。その間は身体が動かせないのだから、栄養失調と脱水を起こす。人間は身体も大きいし、脳は一つ。対応を間違えれば、命を落とす事もあるかも知れない。」

「なるほど。連中は対応を間違えていた。それを社長が正したということか。」

 ナッキーが納得しているが、よく分からん。


「体内にキノコが大量にあれば、どうにかキノコを処置しないと絶対に間に合わない。」

「だから俺が、突いて回って確かめたわけか。」

 ここに横たわっている人間には、身体そのものからはキノコを感じない。


「キノコさえなければ、陽の下で毒の消化を早めるのが順当。薬があればより効果的。」


「神経物質を摂取すればいいが、それは望めないわけか。」

「それだけの技術があれば、この事態にはなっていない。自然治癒に望みをかけるしかない。」

 ナッキーが頭を捻って考えているが、その雲行きは思わしくない。


「まどろっこしいね。アタシ等にできることはないのかい!」

 黙って聴いていたフユミが痺れを切らして騒ぎ出す。


「人間の耳元で、フユミたちが羽音を立てる、とか?」

「アンタにやったことをやれっていうのかい。それはわかりやすいけど。」


「人間の体にどの程度刺激を与えられるかははっきりしない。」


 そうこうしている間に社長たちが何かを始めている。


「キノコを、燃やしている?」

「ああいうのだよ。ああいう単純なのならアタシにもできるってのに。」

 そのまま、社長は何人かとともに何処かへ向かう。

 その後ろを俺たちは小さい身体でこっそりとついていく。


「あれは、人の亡骸だな。仕事か?」

 まだ指示が出ていない。他の同族連中は呼び寄せられていない事から違うのだろう。


「ちょっと調べてみてきてくれないか、ハルタ。」

 俺は社長が何やらしている亡骸にこっそりと近づくと、口を打ち付ける。

 冷たい体液、硬い肉の中にキノコを感じる。


「キノコが混じっているな。アキサダが試している奴と似たような、死体だ。」


「身体にキノコがある状態で、酒精毒を摂取したか、酒を飲んだのだろう。」

 丈夫そうな身体であっても、キノコの毒の前には無力ということか。


「使えそうな身体だが、例の問題は解決していないのだろう、アキサダ?」

「今の所、まだ。」


「社長が行っちまうよ。早くしな。」

 何かの確認を終えたのか、社長はその場を後にして移動していた。

 俺たちは慌ててその後ろを追う。


 社長が患者たちの元へ戻ると、ちょうど人間が一人連れてこられている所であった。


「あの人間、まだ意識を残しているのか?酒精毒とは別か?」

 横たえられた人間に、社長が駆け寄ると、その身体をなにやら観察している。


『燃焼。』

 社長の声をはっきりと捉える。


「あれは何をしてるんだい?あれくらいならアタシだって。」

 フユミが社長の灯した火を見て、近寄っていく。


「どうした?ナッキー、アキサダ。」

 その様子をじっと見ている。


「毒の元になるモノをその前に横取り、すればいい。違うか?アキサダ。」

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アマテラス干渉システム Chimena
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