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ウメコのテンプル 並行世界の風水導師  作者: うっさこ
事の発端
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急遽案件を抱えても

「それじゃ、よろしくお願いします。」

 嫌だ嫌だ。何が嫌だって。それはそう、この生業だ。

 先日もそう思っていたはずだが、今日も今日とて遺体の処理である。


 空腹に腹を鳴らし、未明のうちに口にしていたの正解だった。

 昨日のこぼれ話を当てにして、役所が開くのをうかがって足を運んだところ、開示されたばかりの依頼をもぎ取る様に手渡されて、こうして役所の安置所に梯子することになった。


 どうせ梯子するなら美味しい料理の屋台がいい。仕事とはいえ、なぜ遺体を梯子しなければならないのか、それも三体も、である。


「渡りに船、というのも言い方が悪いのですが、お受けいただいて助かります。」


「ええ、まぁ。報酬を頂けるのでしたら、構わないのですが。」

 目の前の産業廃棄物に対して手を向ける。

 魔法の発動と同時に、ぞわりとした悪寒が働く。まもなく、弊社職員の皆さんが出勤して来るだろう。


「導師様にはあまり話すような話ではないかもしれないですが、行政としては助かるのですよ。予算も無尽蔵ではありませんので、バグマスターによる遺体の処理は頼めれば頼めただけ。」

 この近隣には、あまり同業者はいないのだろうか。もう少し大きな都市であれば、遺体と就業者の逸していない限り、そこそこにそれを生業にする人が定着するのだと思うけれど。


「この辺りは古くから、多いんですよ。ゾンビ化されるご遺体が。魔素の影響でしょうかね。」


「なるほどですねー。身元不明の遺体が多いと、教会への心づけも大変そうですねー。」

 予算だけを考えれば、一度にまとめて焼却するのでもなければ、バグマスターの処理で自然に返すのが一番理にかなっている。あくまで、バグマスターへの負担を考えなければ、である。


「お恥ずかしい話、この時期は突然、旅に出られる導師様が多いのです。そのまま帰ってらっしゃらない方もおられます。今年もそんな感じでして。」

「あららー逃げられちゃいましたか。」


 ぞわぞわとした感覚とともに、虫の大群が、安置所になだれ込んできた。ご到着である。


 早速、大小の虫たちが、お仕事を開始し、見るもおぞましい食事会を開始し始める。死後硬直した硬い肉を食い破り、皮をかみちぎり、漏れ出した黒く濁った血液を弊社職員たちがのたうち回っている。

 社長としては、重役出退勤で職場放棄したいのだけれど、あいにくまだ営業時間中である。監督責任があるため、逃れることはできない。


「ゾンビになってしまったらしまったで、被害も出ますからね。ですから、どうしても間に合わないとですね、教会に依頼して処理を行うのです。うぐっ、うっぷ。」


「ご無理をなさらずに、どうぞー。」

 職員は青白い顔で駆け出し、安置所を飛び出していった。逃げ出したいのはこちらもなのだが。諦めて割り切って、そして仕事の顔になる。


 そういえば、こう虫に食い破られてわからなくなってしまったが、遺体には目立った外傷がなかった。ああした遺体がゾンビになると、結構手を焼くのだ。夜などでは、腐敗や裂傷が瞬間的に見分けがつかないため、初動で遅れて逃げられずに犠牲になる人もいる。


 この世界ではゾンビというのは厄介で、死後硬直の影響か、刃物は通りづらく、その硬直と体躯を利用して暴れまわる。原理の解明などというものはされていないが、未練とか怨念のようなものではなく、魔素が残された生体機関に影響を及ぼして、誤動作するような話だという。


 ゾンビに限って言えば、意思を見せたり、言葉を発したような例はまずなく、そうした例があるとするならば、魔法により自ら人間の体を捨てた、吸血鬼や『魔生物』と呼ばれる例なのだそうだ。


 また極わずかな例であるが、バグマスターの様にアンデッド化した存在を操る『ネクロマンサー』という禁呪の例もあるそうだが、これに限ってみれば、国や国家レベルでの討伐業務となり、公募される依頼とはならない。この場合はスケルトンなど白骨化した死体まで観測される。


 その僅かな例としての『ネクロマンサー』の討伐業務を、この世界にきてこれまで一度見たことがある。あれはそう、まさにこの世の地獄だった。


 おびただしい白骨とゾンビがぞろぞろと夜を徘徊し、街の外壁に張り付いていたのだ。


 蓋を開ければ、その事件の原因も人の命を捨てた吸血鬼が魔素を媒介に起こした大災害で、早々起こる事ではなかったらしい。あれを見て、その後始末に駆り出されるバグマスターを見たことが、私のこの世界での転機のひとつではあったのだけれど。


「失礼しました。申し訳ない。」

 未だ青白い顔をして職員が戻ってくる。


 うん、本当に失礼だ。私がこうして業務に携わっているのに、委託者が監督をしていなくていいのかと問いたい。交代して私が嘔吐に出たいくらいだ。この所業も私の仕業なのだけれど。


「けれど職員さんも大変ですねー。既に死因調査などもされてらっしゃるのでしょ?」


「そう、ですね。こちらの方たちは一昨日夜に、発見された方々なんですがね。この街で、働いている職人の方々、だったそうです。街の郊外で、酔いつぶれて、そのまま眠ってしまったのでしょう。見立てでは、酔った体で、そのまま体を冷やして、お亡くなりに。」


「おやー?山の遭難者だとかではないのですか?」

 今この地区の流行の問題とは別で、ただの酒飲みの不養生だったのか。


「家族もなく、過去に3人で朝まで飲んで回っている話も、裏付けが取れまして。ただ、身寄りも引き受け人もなく、それぞれの雇い主も、面倒は見れない、とのことでして。」

 世知辛い事である。行政にそういった処理が回ってくることは、少なくはないのかもしれない。


 私がそうなるとは考えたくないが、当然身元も引き受け人もないのだから、もしかしたら行政のお世話になってしまうかもしれない。そうなる前に、早く救助が来てほしい。


 おや。昨日窓口で身元不明遺体は案件が二つと言っていたような。


「実は、もう一件、調査していた案件があり、そちらが遭難者の方、だったのですが、そちらは幸いにも、ご遺族が見つかりまして。先ほど、ご遺族の依頼で教会へ。」

 街の富裕層だったのかな。教会へ運ばれるという事は、アンデッド化の抑制処置を施されるという事だろう。


 そうこうしている間に、熱心に働く弊社職員の奮闘で、完全犯罪が成立しようとしていた。既に凄惨な光景から、白骨をかじる虫を残すのみとなり、現地解散を始めたようだった。


「先ほどゾンビ化が多いと申しましたが、それもあって教会はそういった依頼も多く、司祭のご厚意で、他の街に比べ、比較的安価で、墓地に入られる方も多いのです。ご家族がいて、ある程度収入があった方は、故人の名前を惜しまれる方も多いのです。」


「そうですねー。お墓があった方が、お名前も残りますしねー。」

 役所により行政の遺体処理は、私たちの世界にあった合同葬に近いものがある。こうした場合、いちいち故人の名前は残されないし、余程でなければ忘れ去られる。


 けれども、家族が残され、埋没された墓があれば、関係者は割と覚えていることが多い。

 そうすると、例えば、気にかけてくれたり、遺族の就職に役立ったりもする。富裕層が富裕層であり続けられるのも、そういった小さな事が詰みあがった結果なのだ。


「お疲れ様でした。依頼料は明日の昼には準備できているかと。庁舎窓口へいらしてください。」


 そうなるだろうと思って下宿屋から出てきたものの、案の定仕事を終え、その引き換えに食欲をなくした私は、まだ昼を前に、下宿屋へと引き返していくのであった。


流石に夕食の食材については、下宿屋で調理できるものを考え、調達していく必要はあるのだけれど。

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アマテラス干渉システム Chimena
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