84話 はっぴぃえんど
「早くしてくれ。お前も見つかるぞ」
「ああそれなら大丈夫。見つからないから」
さっきドラゴニュートがリヴァイアサンのところに向かうと言っていたのをイタミは聞いていた。
だから今にこの雨も止んで、そうすればアキヅキがここにいるのもバレる。
そうだというのにアキヅキは変な自信でもってイタミの言葉を否定した。
「だってそうプログラムしたから。彼らは俺たちを認識できない」
「なに?」
今に止むと思っていた雨はどんどんと強くなる。
ぐるぐる巻きにされたイタミもそれを見下ろすアキヅキもびしょぬれで、雨が顎をつたってぽたぽた落ちる。
すると、セーレたちのところで羽ばたく音が聞こえた。
「ソコルル!どうしてミリゥは雨を止めないの!?」
「セーレ……結界を強化するんだ……」
「え……?」
「ミリゥはもう止めてるさ。僕が言ったらすぐに水ビームを止めてくれたよ……なのに、雨はあがるどころかどんどん降ってくる……!」
セーレはハッとして空を見上げた。
いつの間にか灰色の雲に覆われている。
「え、それじゃあ……急に天気が悪くなったってこと?」
「だといいが……それにしたって急すぎる……!僕はリイのところに戻る!」
ソコルルは再びリイとヒータンがいるビルへと飛んで行った。
残されたセーレとアキナとニコとロウセエネは、ウララの矢をよける塀の下で背中合わせの陣形を取る。
雨足はどんどん強くなって、伸ばした手の先も見えないほどになっていた。
「筋肉操作ってさ、シンプルイズベストな能力だよね。単純がゆえに可能性があるっていうの」
「今そんな話をしている場合じゃないだろう。十中八九これはアオミさんの能力だ。」
「人間はさ、自分に何か秀でた力があったらそれを有効活用するために目標が必要になる」
「いいから早くこの鎖を解いてくれ」
イタミが強く懇願しているというのにアキヅキは一向に鎖を解く素振りがない。
それどころか、明後日の方向を見て抽象的なことを呟いている。
「順序が逆なんだよね。ナイフは何かを刺すために作られるのに、僕たちはまず生まれる。どう生きるかは自分次第」
「いったいどうしたっていうんだ……」
「自由という刑の中でスキルは救いだよ。暗闇の荒野に進むべき道をナビしてくれるから」
おそらくあのセーレとかリイとかいうやつらの仲間にに何かされたのだとイタミは思った。
人格操作系の魔法を誰かが持っていて、それにアキヅキは嵌まってしまったのだと。
そう思い至ったイタミは芋虫のように這いずりアキヅキから離れようとする。
だがそれは叶わなかった。
何とか逃げようとしていたイタミは背中に衝撃を感じ止まる。
振り返って見たかったのは背中の真ん中だった。だがどれだけ首をひねってもその個所は見れない。
その代わり、セーレの鎖は破壊された。
そのおかげで自分の身体がよく見える。
「僕たちはみんな、結局ナビ通りに生きるしかないのさ」
「どういうつもりだ……寝返ったのか……」
背後に立つアキヅキの囁きに耳を傾ける余裕はイタミにはなかった。
ただ自分の胸から突き出たアキヅキの手刀の意味を理解するので頭は精一杯だった。
「今までの自分にサヨナラするんだ。変換をはじめるよ」
「変……換だと……?」
「これから君は異世界転移してきたビートル人のイタミから、名もなきこの世界の一般人へと変貌する。新たな君は筋肉操作なんてできやしない。この会話も覚えてないしビートル人の誰も思い出せない。ただ最初からこの世界にいた人として生きる」
「い……いやだ……!!俺が俺でなくなる……いやだ!!うわああああああああ!!!!誰か!!!誰か助けてくれえええええええ!!!」
滅多に感情を表に出さない男のイタミが、この時ばかりは力の限りを振り絞って叫んだ。
自分が自分でなくなるというのだから当然だ。
だがその声は、セーレたちにさえ届かなかった。この際敵に見つかるつもりで叫んだ声は不思議とどこにも響かない。
さすがにイタミも疑問に思う。
「ははは。意外だ。そんな必死な大声。僕はあなたのそんな面知らない。少なくとも今のあなたは僕の知るイタミじゃない。唯一の自分なんてないのさ」
「お前のチートは何だ……?壁をすり抜けるなんて嘘だ……何か別のどうしようもなく恐ろしい能力だろう……測り知れない怪物に心臓を握られている感覚だ……」
もうすでにアキヅキの手が銀色に変化して、イタミの身体を侵食していく。まるでコンピューターウイルスのように、イタミという情報を片っ端から書き換えている。
自分が自分じゃなくなっていく感覚にイタミの顔は恐怖で引きつっていた。
「じゃあ餞別として教えてあげるよ。僕のチートは【はっぴぃえんど】。この世界というプログラムを自由に書き換える能力さ。君たち異世界人をこの世界に馴染ませる。それが僕のこの世界で生きる理由」
「何だそれ……滅茶苦茶じゃないか……」
「僕たちのチートってみんなそういうものだよ。最も僕以外は一時的にしかできないけど」
だがイタミはもうすでに、アキヅキの言ったことも目の前の青年がアキヅキだということもわからなくなっていた。
「やばい!あのビートル人の鎖が壊された!!」
「え!?あの金玉蹴られの!?」
「アキナ様。そういった言葉遣いは止めるよう何度も忠告しているでしょう」
イタミとかいうビートル人が目覚めたのか、それともこの雨を降らせた何者かが助けたのか。
降りしきる雨の中向かった4人が見たのは。
「アキナ様!見てはいけません」
「ロウセエネ!ってことは死んでるってことじゃん!!平気平気!あっ、まだ慣れない……」
背中を一突きされ絶命したイタミだった。
たった今殺されたばかりなのだろう。血が雨に流されずまだ死体の周りに滞留している。
「間違いない。魔力が全く感じられないわ」
「セーレさん。今問題なのは」
「ええ……」
ニコが言わんとすることは、最後まで聞かなくても全員に理解された。
そう。
今考えるべきは、誰がやったのか。
拘束されていたとはいえビートル人を一撃で仕留めたのだから犯人は相当な実力者ということになる。
「味方……なんて楽観的なこと言ってちゃいけないわね」
「さようです。まったく得体がしれない……!!」
「その人は今どこに行ったの?」
誰しも思っていた怖れをアキナが口にする。
その言葉を発端に、4人はそれぞれ戦闘態勢を取る。
お互いがお互いを背中合わせに感じて、みんなこの状況にゾッとしていることがわかった。
「……俺の仕事に……」
「ニコ!上!!」
張り詰めた緊張を破る声が、ニコの頭上から聞こえた。
「俺の仕事に狂いはない……課された仕事は完璧にする。たとえそれがやりがいの無い労働でもだ」
「あそこ!!」
アキナが指さす先にいたのは。
宙に浮かぶ上半身だけの男。
「お、お化け!!」
「アキナ様、違います……。あれがあやつのチート。どこにでも一瞬でワープできるビートル人の中でも指折りの厄介者……!」
AWLが空中から半身だけ身体を出して、4人の様子を窺っていた。
いや、窺っているのはもっと広く、この今の状況だ。
「俺の仕事は、仲間たちの撤退。ただワープを繰り返すだけの簡単な仕事だ……だがしかし……この状況をどうする?仲間が殺されたのをわざわざ見過ごすなんて、とてもできないぞ」
いかがでしたか。
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私たまたま読んだだけですしっていう方は、また気が向いたら読みに来てください。今より面白くなっているはずです。




