77話 桃の天変地異
ミリゥの体長は少なくともシロナガスクジラくらいあります。かつ、フォルムがゴツゴツしているので、並べると余計にでかく感じます。ちょっとしたマンションくらいあります。
―――タオユエン 港―――
ミリゥが起こした波はすっかり引いたが、港は荒れ放題となっていた。
四方にひっくり返ったコンテナや重機。
「うーん、元通りではなさそうですわね。わたくし、またユキノさんに怒られるんじゃないかしら」
ゆっくり波を引くようユキノに忠告されたので、その通りにしたミリゥだったが、港は大きく破壊されてしまった。
だがミリゥにはいまいち実感がない。体長が20数メートルあるために、人間の感覚が掴みづらいのだ。
これでいいのか確認しようにも、ユキノはビルの合間に消えてしまった。
これからどうしようかと首をかしげていたら、目の前に小さな氷のドームがあることに気づいた。
こんなものあったかなと鼻先を近づけると。
「いったい何が起こったっちゅうねん!!って、うおおおおおおおおおおおお!!バケモン!!!」
中から人間2人とフェンリル1匹が飛び出してきた。
人間もフェンリルからもどこかユキノと似た匂いがする。
「はじめましてですの。あなたたちはいいビートル人なのでして?」
「このモンスターはリヴァイアサンだよ~!」
「下がってろ!リッカ!」
お姫様らしい悠長さで挨拶をしたミリゥにフェンリルが攻撃を仕掛けてきた。
切れ味鋭い竜巻がミリゥの鼻を切り裂く。
「GAOOOOONNN!!GAONGAON!!!」
「よっしゃ効いてるで!!」
「どうして、リヴァイアサンが来たのかな~」
ケンとリッカにはミリゥの言葉は鳴き声としか聞こえない。
だからこの「痛い、痛いですの!!あなたたち悪いビートル人ですのね!!」という怒りもただの鳴き声としか聞こえていない。
「そこのフェンリルさん!どうしてあなたはこんなビートル人に付き従っているの!!?何か弱みを握られているのでして!!!?ベヒモスさんはこのことを知ってらして!?」
「s:□no@ah:r★oh:;akl…nrl5おy!!」
「あら…‥言葉がわからなくてよ……?まるでビートル語のようですね……?」
同じ神獣であるフェンリルとコミュニケーションを取ろうしたミリゥだったが、返ってきたのはまるでビートル人が話すような言葉だった。
ネルはもともと現代日本の犬だったのだから当然だ。
「なんか、怒ってるみたいだよ~ケン?」
「せ、せやな……威力が弱くて逆なでしてもうたか……」
「じゃあ私が抑えるよ~」
自分の顔より大きなミリゥの鼻を前にしても、リッカはマイペースを崩さない。
そして凍結。
ミリゥの身体を一瞬にして凍らせた。
「GYAOOOOOOOOOOOOONNNNN!!!」
さすがのリッカでも神獣リヴァイアサンを全身凍結させることは叶わなかったが、急に身体のあちこちが凍ってしまったミリゥは悲鳴を上げて海中に潜った。
「よしっと。これでもう、襲ってこないんじゃないかな~」
「おおきんな。次は他のやつらの無事や」
「それと氷だね~」
そう言ってリッカは再び海面を凍結させる。
さっきは援軍を着岸させないためだったが今回はミリゥを封じ込めるために。
一方、水中にもぐったミリゥは。
「あ、ああ……また海が凍ってしまいますの!!!わたくし、こんな仕打ちを受けるのは初めてですの!!!ユキノさん以外のビートル人はやっぱり嫌い!!!!!うぅ……屈辱で涙が出てきましたわ……。でも泣いてはダメ。泣くのはおやめなさいミリゥ!わたくしは偉大なるリヴァイアサン族の王女、リヴァイアサン・ミリゥ!!!海の敵を、打ち滅ぼす者!!!!!!!」
涙目になったミリゥがついに怒りを爆発させた。
ミリゥを中心に周辺の海流が渦を作りはじめる。
この世界の人類が1年で使う水の量をはるかに上回る莫大な水が回転し、すさまじいエネルギーを貯める。
その天地をひっくり返せるほどの大渦はすでにタオユエンの大陸を削り始めている。このままタオユエンごと沈没させてやるとミリゥは一瞬思ったが、ユキノたちに免じてそれはしないことにした。
代わりにあの憎きビートル人たちを港ごと削り取って海底に沈めることにした。
そろそろ充分なエネルギーが溜まりそうかというその時。
海上を塞いでいた氷河が何者かに破壊され、聞き覚えのある声が響いた。
「ミリゥ殿!どうかご機嫌を直してください!そんなことをすればユキノにまた怒られるぞ!」
ソコルルだった。
砕け散った氷の上に乗っていた。
「あら、あなたはソコルルさん。でもわたくし、怒りが収まりませんのよ!!あのビートル人めはこのミリゥの身体に傷をつけたうえに海を汚しましてよ!」
ようやく知り合いに会えたので少しうれしくなったミリゥが海上に顔を出す。
「ビートル人なら私が制圧しました。ミリゥ様が直接手を下すまでもありません」
そう言ってソコルルが示す先には。
「おい、お前!!いきなり出てきてどういうつもりじゃアホンダラ!!」
「砂が、服に入って気持ち悪いよ~」
大量の砂に埋もれて身動きが取れなくなっているケンとリッカがいた。
ネルも動けなくなっており、もがけばもがくほど砂に嵌まっていっている。
「あら……ざまぁ!ですわ。ソコルルさん、これがうわさに聞くざまぁという状況ですのね!」
「ざまぁとは一体……まあとにかく、ユキノと我々のお礼の品です。受け取ってください!」
そう言ってソコルルはミリゥの口の中に何かを放り込んだ。
すると。
「あ、甘くておいしいですわああああ!!」
その甘美な味と芳醇な風味が口に広がって、ミリゥは美味しさのあまりに倒れこんだ。
倒れこんだせいで小波が港を襲い、ケンたちの砂が泥へと変わる。
「これは一体なんですの?」
「桃という果物です」
「はて、カクラ王の献上品にもそんなものはなかったように記憶しておりましてよ。それにしてもユキノさんたちは気が利くこと。もう渦を起こす気持ちは無くなってしまいましたわ」
その言葉を聞いた瞬間、ソコルルは肩の荷が下りたような安ど感に包まれる。
(あ、危なかった……。僕がミリゥの言葉を聞き取れなかったらタオユエンは沈んでいた……)
ユキノたちがコロアネデパートに墜落してから、ソコルルは1人空中から街の様子をうかがっていた。
戦局を空から俯瞰して見れるのが自分しかいないからだ。
そんな時、聞こえてきたのがミリゥの悲鳴。
目を凝らしてみると、ビートル人がちょっかいをかけたせいでミリゥを激怒させている。
その後海底から感じた膨大なエネルギー。
だから慌ててデパートから最高級品の桃をパクって、すっ飛んでなんとかミリゥをなだめたのだ。
ちなみに、ユキノのお礼品というのは方便である。
その時、タオユエンの空に火の雨が降り注いだ。
コロアネデパートに集中して降り注ぐ火は、ユキノが建てた新国旗を焼失させる。
「あら、なんだか変な天気でして。ユキノさん、傘は持ってらして?」
「おお、ウララのやつ流石やで!!」
「ウララ……だと!?」
ケンの喜びの声にソコルルが反応する。
ウララの能力については、ソコルルも知っていた。
だが、ソコルルはリヴァイアサンの力も知っていた。
「ミリゥ王女!!」
「あら、急に改まってどうされまして?」
「もう一つ桃をどうぞ」
「わーい、ありがたき幸せですのよー!!」
「それと、ユキノと私たちのお願いを聞いてはくれないでしょうか」
「まあ!あなたも油断できない人!でもいいですのよ、ユキノさんのお願いなら何でも言ってよろしくてよ」
いかがでしたか。
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