71話 剛速球と超特急
「はーっはっはっはっはっ!」
暗闇の中、果樹園に笑い声がこだまする。
声の主は木々の間を走り抜けて、タオユエンの街が見渡せる平地で来て立ち止まった。
タオユエンのど真ん中に、不自然な氷の壁が見える。
リッカの能力で、一層分厚くなっているところだった。
「デッドボール!ビートル人の高慢ちきに一発当ててやったぜ!」
マンゴーのそばで独り、アキナが勝ち誇った顔でふんぞり返る。
髪と瞳はリイと同じ紫だが、目がリイに比べてキッとしており勝気な印象を与える。
ただ、妹なので顔つきは幼い。
「はぁ、はぁ、はぁ……。やっと追いついた。アキナ様、夜は撤退ですよ。体を休めましょう」
「うっさいわねえ!私なら全然元気よ!それよりあの氷!私のボールを防ごうってあいつらの魂胆を見逃すわけない!」
鹿みたいな速さで山道を疾走したアキナに部下たちがようやく追いついて苦言を呈するも、アキナは聞く耳を持たない。
打倒ビートルバムに燃えるアキナの目にはコロアネデパートしか映ってなかった。
「長かった潜伏生活の果てに、ついにチャンスが来たのよ!私たちの逆襲はここから始まるの!そのためなら一回や二回の徹夜くらい、楽勝!!」
ウェストポーチから取り出したのは、丸い石。
「いっくわよ……振りかぶって……」
その辺で拾った石を握り魔力を伝達、そして足を大きく振り上げる。
アキナはその眼に、燃え尽きた街に浮かぶ氷の要塞を捉えていた。
「投げたああああああああ!!!!!!!」
アキナの手を離れた瞬間、小石は空を切り裂きコロアネデパートに飛んでいく。
まるでレーザービームのようなストレート。
マウンドからホームベースまでの距離は18.44メートル。
アキナからコロアネデパートまでの距離、直線で数キロ。
その数キロを一瞬で通過した小石が氷の壁にぶつかった瞬間、どでかい衝突音がタオユエンの街に響き渡った。
見ると氷の壁の一部が砕け散っていた。
ここから目を凝らさなくてもわかるくらいだから、かなり大きな破壊だ。
「ストライィィィィィィィィィィイイイイイイク!!!!へっへっへー、どうよ!!!」
「なんて馬鹿げた戦力だ……カクラの王女……」
「私がカクラを守るんだ……お姉ちゃんに代わって……絶対に……!」
その時。
アキナの横を一筋の光が通り過ぎた。
振り返るとそれは、火の矢。
その矢が運んできた火種が、あっという間に果樹園の草に燃え移る。
「うそ!?ウララの矢……」
「そりゃそうですよ!あんな派手な攻撃、我々の居場所をあいつらに教えるようなもんです!!」
アキナたちが夜空を見上げる。
星ではなかった。
全てウララの【リンダリンダ】の矢の明かりだった。
「それならそうと早く言ってよ!さすがにこの量は……」
少し迷ったのち、アキナはもう一発小石を振りかぶって投げる。
今度はカーブ。
大きく右に旋回して氷の壁の右側に突き刺さった。
それはアキナたちが潜伏する場所とは逆方向。
「諦めた!!撤退撤退!!このままじゃ燃やされるわよ!!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
アキヅキがイタミに微笑みかけた直後、コロアネデパートに耳をつんざく轟音が響き渡る。
「何が激突したっていうんだ……」
イタミが立ち上がるも、デパートに窓はないので外を確認できない。
「焦んなや新入り。リッカの氷を信じろ」
「でも、だいぶ壊されちゃった気がするな~」
イタミを落ち着けるケンだが、ネルは耳を横に向けて唸っていた。
その瞬間、ルナのスマホが振動する。
ヤマナミからの着信だったのでスピーカーにして出る。
「もしもしルナさん!すごい音だったので私たち外に出たんですけど、あの、ウララさんが、反撃していいかって」
「それを聞くってことは、アキナは果樹園から攻撃してきたのね。燃やしたくはないのだけれど、ナめた真似したクソガキなんか焼いてしまえ!」
「は、はい。で、ではそう伝えます」
自分を攻撃したことへの怒りを思い出しルナの声が大きくなったので、ヤマナミの返事は震えていた。
「ほんでどないする、ルナ。明日になったらムドウ呼ぶか?」
「呼ばないわ。アキナ相手に【99 luftballon】を使うと跳ね返される危険があるし。なにより、私の仕返しが終わってない!」
金剛力士像みたいな顔で他のビートル人を見回したルナは、自分の意見に反対するものがいないことを確認する。
もしかするとアキヅキが不遜な態度で正論をぶつけてくるかと思ったが、ソファに深く座ってリラックスしていた。
なんというかこの状況を楽しんでいるように見える。
その時。二度目の爆音。
ただし、一度目よりは音が小さい。
「方向が、違う」
「これは、デコイだね~。きっと逃げたのは別のほうだよ~」
「もしもしヤマナミさん、ウララに伝えてくれるかしら。もう見逃していい。夜のタオユエンは原住民に利があるわ。深追いしてもこちらが消耗するだけ」
通話したままルナがリッカ、ケン、イタミ、アキヅキを見渡す。
「明日は本気でこの街を鎮圧する!ビートルバムが現地民を制圧するのに2日3日もかかったなんて末代までの恥と思いなさい!」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ねえユッキー!!めっちゃ寒いんだけど!!夜の海めっちゃ寒いいいい!!」
「ヒータン!お前、魔力障壁展開してねえの!?そりゃ寒いぞ!!」
「ふぇーん!そんな器用なことドラゴンには出来ないっす!」
ニコが丸太から削り出したのはカヌーに乗って、俺たちはタオユエンに向けて出発した。ミリゥに引っ張ってもらっているおかげで、カヌーのスピードはとてつもなく速い。
ヒータンはカヌーに乗れないので、空を飛んで並走することになった。海を見るのは初めてだったそうで大海原とか沈む夕日感動していたが、夜になると急に元気がなくなった。
「なあ、ミリゥ。あとどれくらいで着く?」
「このペースなら、明日の朝には着きましてよ。でもヒータンさんがお疲れのようで」
「ああ、それなら俺が何とかする」
ヒータンに高度を落としてもらい飛び乗る。
そして俺の魔力障壁を拡大。
これでヒータンが凍えなくて済む。
「おお!全然寒くない!!すごいよユッキー!!」
「なんせビートル人の特級品だからな俺は。それより。そろそろあいつらお眠らしいぞ」
ミリゥが海流を操作しておくので眠っている間もカヌーのスピードは落ちない。
だがヒータンは徹夜で飛ぶことになってしまう。
そんなドラゴネットとチートのおかげで睡眠時間の短い俺は異世界の星の下、なんてことない雑談をした。
いかがでしたか。
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