49話 尹光
「……ユキノ?」
俺の背中にもう一度、セーレが確認するように声をかけてくる。
堂々とした態度で話せば、間違いも正解に出来ちまう。
この低い声と威圧的な顔ならなおさらだ。
「まどわされんじゃねえよ、セーレ」
懐柔策に方向転換したってことか。
それにしちゃ、いかつい人材を派遣してきたじゃねえか。
もっとゆるふわ美女じゃないと。
「あいにくだが、俺はもうビートル人じゃない。だいたい、お前らのほうから追放してきたんじゃねえか」
転移してきた俺を速攻、不良品だと切り捨てた。
割とムカついてるが。
「確かに。だがあれはお前の実力を見誤っていたのだ。ならばこの質問はどうだ。お前は、ビートルバムから脱出して、代わりの居場所を見つけたか?」
「居場所なら、作った」
お前らが国を作ったのと同じく。
俺は俺の国を作った。
「しかも二大国の承認も得ている」
「うん……したかな」
「まあ、まあ、まあ、国土がないけど、まあ」
ほらな。
「このリアクションで、なぜそんなに強気に出れるのでしょう」
どっちの味方だ、ニコ。
「というわけで、お前らの情けなんかいらねえんだよ。今更ビートルバムなんてごめんだね。お前らにとっちゃ不良品でも俺は俺でしかいられないんだし。っていうか、むしろ」
セーレとリイの口ぶりから察するにユンクァンってかなり上位者みたいだ。
だからこいつにははっきりいっておこう。
「俺はお前らビートル人を全員、現代日本に送り返すつもりだ」
首がいてえよ。
ユンクァンにメンチ切って喋ってたせいでずっと見上げてた。
一方のユンクァンは俺を見下しながら、
「ビートルバムに反旗を翻す気か」
噴火直前だな。
何がスイッチだったのかは分からんが、どうやらユンクァンの怒りを買った。
「反旗って……だから俺はビートル人じゃねえっての。いたって一般的な日本人だし、お前もそうだろ」
「俺を日本人と、呼ぶんじゃあない!!」
激昂したユンクァンの拳が俺の腹に突き刺さった。
それくらい強いパンチだったという比喩ではない。
俺らしく、文字通り肝臓部分に突き刺さっていた。
そのままユンクァンは腕力で俺を浮かせる。
「痛ってえな。肋骨まで粉砕しやがって」
「なるほど、能力は確からしい」
俺はユンクァンを蹴って腕を引っこ抜こうとするが。
「ってめえ、中で手をパーにしてんじゃねえよ!!」
「口の減らない野郎だ」
どっちが。
俺本気で蹴ってんだぞ。
仕方ないからユンクァンの顔面に魔力障壁をぶつける。
つまり超近距離衝撃波。
その反動でどうにか抜け出せた。
「ユキノ!!」
「セーレか。俺なら俺だから大丈夫だ。だけどお前、今話『ユキノ』しか言ってねえぞ」
そんなんでいいのか。
もっと存在感をアピールするんだ。
「だけど、事態が急すぎて、ほんとに。ユキノはもうビートル人じゃないんだよね」
「当然」
「だったらどうしてユンクァンはあんなことを」
「頭吹き飛ばしちまった」
手からビーム出すときは顔面のスレッスレでぶっ放すのがいいとマンガで学んだ。
顔面のスレッスレで衝撃波をぶつけた。
「並の人間なら首から上が無くなってるくらいの威力だが」
「セブンをなめちゃダメ」
リイの忠告通り。
ユンクァンは倒れちゃいない。
それどころか。
一歩も動いてねえ。
「味方だったらどれほど心強いんだろうな」
粉塵の中からユンクァンが出てくる。
顔に傷1つついちゃいなかった。
散歩してるみたいにこちらに向かってきたユンクァン。
表情が鉄面皮に戻っていて、腹の底が読めない。
なんでこいつ、上下黒でオールバックなんだよ。
警官みてえなシャツだし。
「てめえ、さては堅気じゃねえな」
「お前に一つ確認しよう。フジオウは元気だったか?」
誰だそれ。
「知らないならいい。だがなおさらお前に愛国心がないのが残念だ」
「愛国心って何?」
セーレが俺に尋ねる。
「愛国心ってのは国民国家っていう概念を前提とした感情だから、中世ヨーロッパ風のこの世界じゃ分からんと思うよ」
「国を愛する気持ちってこと?現代日本の人は心が大きいねえ。一族とか里が豊かになることだけ考えてればいいんじゃねーの」
かつての覇権国の姫様がそんなこというなんて、やっぱ統一された国民意識ってのはこの世界にはないんだな。
「まー、カクラって言っても端と端じゃ言葉も通じないし」
「それで、その愛国心をユキノさんは持ってないんでしょう。転移の際に落としてきたんですか?」
「いや、愛国心はそんなイヤホンみたいなもんじゃない。っていうか、それはあいつも同じだと思うぞ」
だんだん、こいつの身の上がわかり始めてきた。
「えっと。どうしようかな。とりあえず謝罪すればいいのか?」
「何のために」
「なんて言うか、ひいおじいちゃんから続く因縁?顔知らねえし、俺にとっちゃ歴史だけど」
「ビートルバムを侮辱したことでないのなら不要だ」
んー、あっそ。
「ずいぶんとビートルバムがお好きのようで。やっぱりセブンだから?」
「お前も同胞になればわかる。だが、もう遅い」
そうだな。
それに。
「俺とお前じゃ立場が違い過ぎる。俺は、お前ほど国を考えたことがないから」
「残念だ」
「ってか、お前ぐらいじゃないの。ビートル人って年食ってて25くらいだろ」
そんなガキどもがもはや歴史になりかけている問題を意識してるとは思えんが。
「それにお前、今気づいたけど標準語だな。大阪出身じゃないのか」
「俺を怒らそうというのなら、やめた方がいい」
ユンクァンの右手が銀色の刃に変わる。
「なんだそれ?つっても教えてくれないか」
全身を武器に換える能力か。
いや、そんなもんでもないか。
「噂通り下らないことばかり言う男だ。ビートルバムに連れ戻す前に、まず黙らせる」
少しだが接してみて、鉄面皮の奥に感情が読めるようになってきた。
俺を怒らそうというのなら、とか言ってるが。
すでに俺の煽りに地味にブチギレてる。
正面切って闘ったって望みは薄い以上、もう一段階キレさせる必要があるが。
見境なくなられるのも困るんだよなぁ……。
前腕すべてが光る銀色の刃。岩をバターみたいに斬れそうだ。
だが、俺しか見えなくなれば、ドラゴンもセーレたちも安全にはなる。
やってみる価値は、あるか。
「いいぜ、ユンクァン。いや、伊東光。ルパンでも3世なのに、4世なんて引き延ばしすぎだ。飽きるぜ」
俺のあおりを聞いた瞬間、ユンクァンの顔が憤怒に変わった。
いかがでしたか。
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おおお、星2つの大台を突破している。ミシュランなら大したもんや。




