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32話 見えない

「あ」

「あれだね」


 セーレとリイがほんとにあるのか、ひょっとしてただ歩かされてるだけじゃないのかとぶーぶー言い合いっていたときに、ついに目に飛び込んできた。

 だだっ広いホールにぽつんとそれはあった。

 この銀色の無機質な流線形が最初に降ってきた戦慄を3人は覚えていた。

ビートル人とともにやってきた大量破壊兵器。現代日本では見慣れたフォルムでも、セーレやリイたちにとっては原理不明の飛翔体だった。


「……たしかに、大きさからいってこのファクトリーを完全に破壊できそうですね」


 とことことニコがミサイルに近づいていく。


「あ、ちょっと、そんなうかつに触っちゃ」

「中の炸薬さえ刺激しなければ大丈夫ですよ」


 ミサイルとはいっても現代日本から来た少年少女が作った代物だ。高性能なセンサーがついてるわけでもない。

単に馬鹿げた威力の爆弾を飛ばすことができるだけだ。


「どう、いけそう?」

「ちょっと時間はかかりますが、大丈夫です。このミサイルは多分、ラクのイメージの産物ですね。構造がところどころおかしい‥‥‥」


 ニコがミサイルに手を振れて中の構造を読みとった結果、多くの無駄が見つかった。というより、よくわかんないところを適当に作った感があったのだ。

 そんな作り方で国を滅ぼせる武器が作れるのだからビートル人のチートは理不尽だ、とニコは分析しながら思う。


「もしかしてミサイルもニコが作ったの?」


 セーレがニコの背中に問いかけて、その隣でリイが息をのむ。

セーレさん、聞きたいから聞いたのは分かるんだけど答えがもしイエスだったらあなたどんな顔をするのか考えてる?

 

「………私は人を傷つける道具は作りません」


 一旦手を止めたニコの答えはシンプルだった。それだけ言って、また作業に戻る。


「そっか。そうだよね」

 

 この数秒間で一番緊張したのはリイだった。

 ほっと胸をなでおろしてなんとなくミサイルの脇に目をやって。


「え、リイ。敵!?」


 リイの目が黒く光っているのにセーレが気付いた。


「大丈夫。ニコちんは続けてて。セーレ」


 リイの意図を汲み取って、セーレがリイの視線の先に鎖を振るう。

 すると背景が揺らめいて、人型の何かが動いた。

 その現象を見てセーレもリイも本気で身構えた。

 ミサイルと同じくらい見覚えがあって、ミサイルと同じくらいの脅威だった。


「もしかして‥‥‥」

「見えないビートル人」



――――――

「あー‥‥‥景色が逆さに見える」


 天地逆さのゲームセンターが見える。

まるで星空のようだ。


「でたらめに身体をつなげて意識さえ飛ばないとは、いったい体の中で何が起こってる」


 ミジンコに気を取られてラクを見失った俺はあっさり死角をつかれ、またしても身体を人体の不思議展にされてしまった。

 まるでエグゾディアを適当に並べたみたいな身体になった俺は何もできず、ラクの感想を聞いていた。

 【ヒーリングファクター】のおかげで今度は気絶せずに済んだ。


「おかげでてめえにガン飛ばせるんだがな」

「口の減らねえ野郎だな」


 人間のスクラップみたいに横たわる俺はラクに足蹴にされても何もできない。

 いやちょっとまて俺の【ヒーリングファクター】。ちゃんと回復するんだろうな。まさか、意識飛ばさないのが限界とかその程度じゃねえだろうな。

 っと、そんな心配無用だったか。

 骨がベキベキ音を立てて、顔の隣にあった足の裏があるべきに位置に戻り始めた。


「切開、組み替え‥‥‥次は串刺しでも試してみるか」

「俺がいつモルモットになるって言ったよ」


 元に戻った2本の脚で立ち上がりラクにお望み通りの減らず口を叩いてやったら、今度はアオミドロみたいな微生物を俺に差し向けてきやがった。

 くっそ。体に巻き付いて身動きが取れねえ。

 焼くか。

 このままアオミドロに火をつけても俺自身はせいぜい火傷するぐらいだろっと、全身に火魔法を展開する。

 だが。

 

「あっつ!ってめえ!!この微生物になんかしやがったな」

「さあな。ただ言い忘れただけだ。その紐みたいな微生物はよく燃えるんだぜ」


 自分の肉が焦げる匂いがする。

フライパンの上の豚肉みたいな音が体のあちこちから聞こえる。

 しかもこのアオミドロ。燃えた自分の身体を俺に突き刺して内臓まで焼いてきやがる。

 ラクには俺が人間松明に見えてることだろう。

 【ヒーリングファクター】がなけりゃどんだけ仏教に帰依してようが耐えれる気がしない。


「……はぁ、はぁ‥‥‥ふう」

「アオミドロが燃え尽きるのが先立ったな。だが、今のお前は炭人間だぞ」

「ああ、確かに全身が焦げて真っ黒だな。だが実は、これは服だ」


 袖をこすって炭を落としてすでに回復している布地を見せてやる。

 当然皮膚はそれより早く回復していた。


「ふっ‥‥‥ふふふ」

「何笑ってんだよ」


 俺の超回復チートを馬鹿にしてんのか。

 いや‥‥‥あの笑い方は、うれしくて仕方ないって感じの笑い方だ。

 まるで目当てのものを発見したかのような。


「ははははは!これは流石に認めざるを得ないよ!49番、君のチートは最高だ!俺たちビートル人はさらに永遠だ!!」

 

 高々と笑っていた。

 それはそれは楽しそうに。

 俺が切られたり燃やされたりすればどうしてビートル人が永遠になるのかは謎だが。


「そりゃどうもありがとよ。こんどはこっちからいかせてもらうぜ」


 治りたての脚に力をこめる。

 ラクが1つ見過ごしてることがある。

 俺だって何も黙ってあいつのモルモットになってたわけじゃない。

 俺の身体は傷つけば傷つくほど強くなる。


「速い!」


 余裕ぶった笑いが瞬間消えるくらいに俺の踏み込みは速かった。

 そのままラクの顔面に右ストレート。

 人差し指に鼻の潰れる感触が伝わる。

 パンチを喰らったラクは数歩後退。拳のめりこんだところからは血が流れていた。


「……くっ、てめえ拳に何仕込んでやがる」

「友情のナックルダスターだ」


 セーレが発現させた鎖をニコが俺の手に馴染むよう改造した。

 見ろよ、奥歯を刈り取る形してるだろ。


「何と素敵なことに、左手にも仕込んであるぞ」

「それがどうした」

「別に見せびらかしたいわけじゃない」


 視線の誘導だ。

 おかげでてめえの足を踏むことができたからな。


「あっ、いって‥‥‥」

「次もっと痛えよ」


 足に気を取られて隙のできた後頭部に今度は左フックを放つ。

 人体の中で一番硬いんじゃないかと思うくらい硬くて左手指もひびが入った。


「がはっ‥‥‥」


 うめき声を上げたラクは腰から崩れ落ちて、そのまま尻餅をついた。

 さっすが。

 人を傷つける道具は作らないってニコがポリシーを曲げてまで作ったんだからそれくらいの威力はあってくれなきゃな。

 


――――――

「変だね…」

「そうだね」


 作業中のニコを背中にかばいながら、セーレとリイは確認し合う。

 視界の端で景色が揺らめいたのに気付いてセーレが鎖を振るう。

 そこに居たはずのビートル人はまた逃げる。


「怯えてますね」

「それがおかしいの。私たちの知ってるあいつにリイの魔眼は効かないから」


 もしあの透明人間が私たちの知るあいつならば、リイの魔眼なんて跳ね返せるはずだ。

 なのに今目の前にいるあいつはひたすら怯えて逃げるばかり。


「ほんとにあのビートル人か?」

「ひょっとして人違い?」

「まさか」


 だとしたらなんでFeel Good Inc.の体内にいるの、と言いかけて。


「たしかにあいつ。透明っていうほど透明じゃない」


 どういうことだ?リイは恐怖の魔眼を光らせながら考える。

 その時。見えないビートル人が動いた。

 だが、今度は逃げなかった。

 腕から先を不透明に戻して、フィンガースナップ。

 その瞬間辺りに炎が広がる。


「え!!」

「うそだ!」


 2人の叫びに答えることなく透明人間は壁に手をかざす。すると今度は壁が燃えて人が通れそうな穴が空いた。

 そこに飛び込むのが見えて、穴は再び元に戻った。


「いったいどうしたんですか。ただの火魔法じゃないんですか」


 ひとまず3人で辺りを消火しながらニコが問いかける。


「ちがうよ」


 リイはとても悲しそうな顔をして、セーレを見ていた。

 セーレとリイが驚いたのは火ではなかった。


「そうじゃないの‥‥‥あの、あの魔法はね‥‥‥」


 魔力を火に変換して体外に出すのが火魔法だから、あの魔法は似て非なるものだ。

 手首のスナップを合図に何もないところに火を出現させる。

 あるいは壁みたいにその辺にあるものを火に変える。

 そんなチートじみた魔法をセーレは幼いころから知っていた。

 正確にはあのフィンガースナップさせる癖を知っていた。


「あの魔法は‥‥‥お父さんの魔法なの‥‥‥」

いかがでしたでしょうか。

おもしろかった・続きが気になるというかたは評価、ブックマーク等をお願いいたします。

また「てめえの小説よりこっちのがはるかにおもしれえよバーカ」という小説がありましたら是非教えてください。一旦ムカついた顔をしますが、その後しっかりパクります。

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