表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/36

第9話 ラースを処刑に

ラースの導きにより、凍り付いた雪の尾根を進んでいるときだった。


「きゃぁ!」

「姫!」


足を踏み外した。私の体が雪山を滑る。いわゆる滑落というやつだ。

凍り付いた雪が痛い。

このままでは。



死──!


全身を雪の板にこすりつけられたよう。

冷たい雪の上が焼けるように痛い!

こんなことなら、塔の上の方がよかったわ。

国を失っても魔族のブローの妃となることができたもの!

ブローの方がラースよりも100倍ましよ!



その時。

山の上から蛇がうねるように雪が蛇行して舞い上がる。

雪崩の前兆のように見えるそれは猛スピードで私の方に近づいてきたのだ。



ガシ。


滑る体が下に引っ張られて痛い。

でも体はここに留まったまま。

伸ばした腕を掴んでいるのはラース。


雪に剣を刺してそれを掴み、もう片方の腕で私の腕を掴み込んでいた。


「姫。よくぞご無事で。今助けますので暫時お待ちを」


体が叫んでいる。痛い痛いと。

彼の行動に抵抗できない。

ラースは私を抱いて、山の上へと移動し、平らなところに私を置く。

でももう無理だわ。私はこのまま死んでしまうのかも知れない。


ラースは私を地面に降ろすと、なにやらブツブツと口を動かした。


「クリニク」


ラースの指先から光りが私にふりそそぐ。

その光りを浴びるとかつてない爽快感。

傷が痛くない。それどころか髪型までキレイに整っていた。


「こ、これは?」

「勇者の治癒魔法……らしいです。姫が治ったのならよかった」


「ち、治癒魔法? 私──助かったの?」

「ええ。しかし、私は許されない罪をしました」


「え?」

「姫の許しを得ないにも関わらず、姫の身に触れてしまいました。この罪、死に値しましょう。どうぞこの剣で私を成敗くださいませ」


ラースは自分の剣を抜いて私に背中を向けた。

私はその剣を握る。たしかにそうだ。

手を握って抱きかかえるなんて、ラースには過ぎたる越権行為。



でも──。

なぜだろう。このちんちくりんを殺すなんて。

心がダメだと言っている。


それはきっと、ラースがいないと国へ帰れないから。私をこんな雪山の上に置き去りにして自分は死ぬなんて逃げだわ。勝手よ。

それに私に人を殺すなんて!

そんなことできるわけがない。恐ろしいことよ。そんなことを私によくもさせられるわね。


「冗談じゃないわよ、ラース。私に死刑執行人の真似をしろと? 無礼千万よ!」

「は、はい」


「もういいわ。助けてくれたんだもの。それで罪を帳消しにします。しかし今度は滑落しないような場所を選んで歩きなさい。いいわね」

「は、はい!」


私たちはまた歩き出す。

国へと向かって──。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] かぐや姫的な要素を感じました。 でも、そこに姫の人間くささがあって良いと思います!血統付きのラース。めちゃくちゃ良い子なんですが! 落ちが気になります!
[一言] 流れが変わるきっかけ?
[一言] やっと姫が少しだけ素直に……!(感動)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ