第4話 なにコイツ
次の日、目を覚ますと、いつものように生活の音がする。
美味しそうな食事の匂いも。
少年がいた場所を見るとそこには何もない。
なんだ。やはり夢だった。
ため息をつきながら起き上がり、鏡台に座って髪の毛を梳かす。
ふと──。
自分の頭の後ろに窓のカーテンが映る。
そこには赤黒い血。
無造作に拭かれた血だ。
思わず驚きの声が上がる。
やはりあれは現実だ。
この塔の中には、ウオルフやブローはいない。
僅かな時間ではあったが恋心を伝えられた二人が。
それを殺した殺人鬼がこの塔の中にいるのだ。
この塔の生活の音。それはたった一つの足音だ。
こまめに家事をしている動きだが、やはりそれはあの少年。
知らない少年。
それの足音がこちらに向かってくる。
同じ人間といえども怖かった。
昨日の虚ろな目。礼をわきまえず寝てしまった無作法者。
よい感情は全くない。
それが今、扉を開けた。
「あ、おはようございます姫。塔の厨房に食料がありましたので食事を作って参りました。また保存のききそうなものを袋に入れました。少し旅になります。食事が終わり準備ができましたら出立いたします」
「え? 出立? そんな、急に……」
「ここは敵地です。グズグズしてはいられません」
な、なんなのコイツ。
勝手に来て、勝手に決めて。
さっきまで寝ていたクセに。
そしてなによこの食事は。
見たこともないスープと、飾り気のないパンとハムだけ?
フィンガーボウルもないじゃない。
まさか、カーテンで手を拭けと言うんじゃないでしょうね?
助けに来たのはこんな子どもで、嫌なヤツだなんて。
お父様は救助した者に私をヨメとして与えるなんて言ってないでしょうね?
「どうしました。姫。食べてしまいませんと体がもちません」
「……これは、私の口に合いそうもありません。そなたが食べればよかろう」
「……な、なるほどそうですか。気が付きませんで。私は出身が卑しいので高貴な方が食べるものを知りません。しかし、なにかを腹に貯めて頂きませんと、たとえ救出したとはいえ、餓死してしまうかも知れません。無理にでも押し込んでください」
は、はぁ??
なんて物言いよ。強引に食べろだなんて。
なんでこんなヤツが救助に来たのよ。
どうなってるの?
リカルドやパトリックはなにをやっているの?