第3話 救助がやって来た! だけど
足音……。この足音は分かる。
ブローの足音だわ。いつもよりも足早で、息荒くドアをノック。
「ルビー殿下。拙者ブローにございます。実は5階のバースが敗れまして。彼にも油断があったのかもしれません。なかなか面白い人間のようです。しかしこの戦、遊んでなどいられなくなりました。任務は果たさねばなりませんからな。我々は10階のウオルフの階で迎え撃つつもりです。なぁにすぐ片付けてしまいますよ。吉報をお待ち下さい。あなたにとっては凶報かもしれませんが、あなたを幸せにするのは拙者でございます故、すぐにこんなことは忘れますよ」
え?
そんなすごい人間がいるのかしら?
いや私が知らないだけかも知れない。
あのリカルドもパトリックも私が知らないだけで、ものすごい剣術とか超能力を持ってたのかも?
でもでも、どうなの?
あのブローやウオルフにかかったらリカルドだってパトリックだって殺されてしまうのかも?
そしたら私はブローの嫁?
うぐぉー!
どうしよう。それならそれでしょうがないけど、どっちかと言えば人間のほうがいいなぁ。
10階での激しい剣撃の音がここまで聞こえる。
そして魔法に寄る爆発音や炎上音。
これは11階と14階にいた大魔法使いルーカスとエマのものに違いないわ。それぞれ自分の魔法を自慢してたもん。やっぱり物理攻撃には人は弱いもんね。
これじゃリカルドやパトリックもダメかしら〜?
やだやだ〜。二人が焼けこげたところなんて見たくないわ〜。
駆け付ける足音。
これは──!
ブローだわ。きっと救助隊を殲滅したって報告ね……。
ああ、リカルドもパトリックもダメだったかぁ……。
「ルビー殿下の元へはいかせぬ!」
え? どういうこと?
ブローが回れ右をする靴のこすれる音。
息が荒い。緊張に震えるのか、大剣と柄の小さな隙間がカチャカチャと鳴っている。
「クソォ! たった一人にここまで追い込まれるとは!」
たった一人?
救助隊じゃないの?
それとも、兵士たちは死んで、奇跡的にここまでこれたってこと?
誰?
リカルドなの?
パトリックなの?
ああ、ファーガスでだけはあって欲しくない。
でもそれ以外の誰かなの?
ブローがいる位置よりも奥から声がする。
それはそれは若い声。
「大神よ 大神よ お力をお貸しください わたくしのそばにきて 仇を討ち果たしてください ヒューレの子ボルーダよ きみはうち余る 大神のお力をおさえ わたくしの友人たちを 傷つけないでください 来たれ雷龍の門!」
「クソぉ! またその魔法! ああ魔族に栄光あれーーーッ!」
「ギドライガーッ!」
若い声が塔全体に響き渡るよう。
そしてドアの隙間から漏れるまばゆい光り。
膨大な熱量。全てが焦げて灰の香りがする──。
部屋のドアがゆっくりと開く。
そこには。
私よりも背が低い少年が一人。
体中に返り血を浴びてすぶぬれ。
当然年下であろう彼は部屋に入って、一礼。
「姫。助けに参りました。私はアウリットのラース。ご無礼ですが、血を拭くことと、一時の休息をお許し下さい」
そう言って焦点定まらない目で私の後ろにゆらゆらと進み、窓にかかる絹のカーテンで全身の血を拭き、壁によりかかって寝息を立てて寝てしまった。
全く意味がわからない。この少年はなぜここに来れたのか?
しかも、あのブローは跡形もなく消えている。
ラースという少年が寝ている間にこっそりと階下に降りて驚いた。たくさんいた各階のボスたちが消えている。
どいういこと?
ブローもウオルフも倒してしまったというの?
あんなちんちくりんの年下の子どもが?
どうやって?
あんな小さい子どもに魔族を斬れる膂力があるなんて思えないわ。
そして、無礼にも部屋に押し入って女子の部屋で寝るなんて。
意味がわからない。
これなら、ウオルフやブローのほうがまだ礼儀正しいわ。
アウリットなんて、都から離れた片田舎の村の名前じゃないの。
そんな子どもが私を助けに?
塔の中は生活の音がなくなった。
魔族が誰もいなくなってしまったからだ。
ここにいるのは私と壁により掛かって寝ているラースという少年だけ。
見ればかなり大きいマントを羽織り、頭には鳥の尾羽がついた紫と金のカラーリングの兜。虹色に輝く鎧、腰には古めかしい剣。
装備だけは由緒正しいような気がするけど、それだけで魔族の領内に入り込めるだろうか?
無理な話だ。ひょっとしたら自分はもうすでに寝入っていて、くだらない夢を見ているのかも知れない。
夢ならばしょうがない。
きっと誰かに助けて欲しいという思いが、ヘンテコな夢を見せただけだ。
私も寝てしまおう。
どうせ夢なのだからどうでもいいと、少年はそのままにしてベットに入り込んで眠った。




