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第1話 幽閉王女は恋をしたい

人類と魔族の融和が図られてから幾百年。

互いの境を尊重しながら共存していた。

人類も魔族も互いの都市で珍しい品々を商売するなんて当たり前。

珍しいものでは魔族と結婚するものもいた。


しかしそれは昔の話だ。

魔族の指導者の権力が少しずつ削られ、新たに立った権力者は人類を嫌った。

そして長きに渡って守られていた秩序も境も破られ、一方的に盟約は解除されたのだ。


あれから数十年。牙を研いた魔族は強かったが人類にも底力があった。

奪われた町や砦を回復し、国境では睨み合いが続いた。

そこで魔族がとった手段は国王の娘、ルビー王女の誘拐。

あわれルビー王女は、魔族の領内にある高い塔の最上階へと幽閉されてしまったのであった。



──というわけで、軽い前置きにあったルビー王女なんですけれども。

この人っ子一人いない魔族の雪深い領内にあるキュールの塔に幽閉されてはや数ヶ月。

一応、上からの指示なのであろう、不自由はない。人質を丁重に扱えっていう命令がでているらしい。

食事も満足いくものだし、塔の中であれば散歩は許されている。


そこで。

この塔の情報は結構集められたわ。バカね。敵に手の内を見せるなんて。


まず!

この塔は全部で16階のフロアにわかれているわ。

私がいる最上階以外の、それぞれ1階1階に屈強なボスによって守られている。

私の見たところ、5階の巨人バース、10階の狼獣人ウオレフ、そして15階にいるこの塔の責任者にして魔族の大幹部ブロー准将軍。これらを倒すのはかなり難しい。魔族もよほど私という人質が大事だということが伺えるわね。


巨人バースは、身長6メートル。大きなハンマーを持ってる怪力よ。おだてたら、自分の鉄の胸当てをくにゃりと曲げて見せてくれたわ。

狼獣人ウオレフは、力はもちろんのこと、その素早さが並じゃない。トリッキーに爪や牙で攻撃できるのが自慢らしいわ。聞きもしないのに自分から言ってたもの。美人は得ね。

そしてブロー准将。黒く分厚い鎧と兜に身を固め、手には身の丈ほどの大剣。

剣術は魔族最上位らしい。兜をとってみせてくれた顔はかなりの美形──!

もしもこのまま人類が負けてしまったら、彼にどうされてしまうのやら。


「陛下。拙者が守っていたルビー王女殿下をください」

「よかろう」


なんていうのかしら?

キャー! なんてこと? あのたくましい腕に抱かれてしまう。魔族に身を任せなくてはならないなんて、なんて屈辱なの?

いや、魔族とは言え、人とはそんなに変わらない。色黒でちょっと角が生えてるくらいじゃないの。

もしもも頭の中にいれておくべきだわ。


……まぁブロー准将なら?

都には大きな邸宅があるらしいし、独身。この戦が終われば貴族の地位をもらえるんじゃないかしら。

その彼に嫁ぐのならばそこそこの生活は約束されるはずよ。

問題は、私を愛してくれるかどうかってことだけど、戦いばっかりで恋とか知らないっていってたし。一番身近にいる私に気があってもおかしくない。

そしたら、いくら憎い人類とはいえ大切にしてくれるんじゃないかしら?

敗戦国の王族でもハクはあるものねぇ。



はぁ、話し相手もいないから色んなことを考えちゃう。

ルビー16歳は、囚われてはいても恋をしたいお年頃なのよ。


ん──。

いやいや、ブロー准将だけが私を狙っているとは限らないわ。


巨人バースにいいよられたらどうしよう。どうしましょう。

べつに結婚はできるかもしれないけど、体格差がありすぎるわ。こっちは160cm。むこうは600cmよ?

受け入れられるかしら。いや、これはほんの独り言よ。


狼獣人ウオレフだってどう思っているか分からない。たまに塔の上から遠い目で下を眺めているのも陰がありそうでねぇ。魔族とはいえ、獣の人なわけだから一番体の相性があるかもしれない。

いや、体だけのことを考えてるわけじゃないわ。もちろん気持ちだって。同じような感性があるかもしれないわよね。

いやぁでも、あの毛深い体はないわね。ないない。それにちょっとクサいもんね。


その時、部屋のドアがノックされた。食事時間以外のノック。

まさか引き出されて処刑とかじゃないわよね?


「ど、どなた?」

「ああ、ルビー殿下。私ですウオレフです」


「あ、あの、どんなご用かしら?」

「実は先ほど、塔の外にでまして雪割り木イチゴを摘んで参ったのです。殿下の口にあいますか分かりませんが、ドアの前に置いておきますので食べて下さいませ。私はこのまま任務に戻ります」


雪割り木イチゴ──ッ!

そりゃ、けっこうゲットするのが大変だと聞いたレア・フルーツ!

それをとってくるとわ!

ひょ、ひょっとしてウオレフは私に気があるのかしら……。


「殿下──」

「は、はい。ウオレフ。な、なにかしら」


ま、まだいたのね。まさか私をどうにかしたいとか、そんなことじゃないでしょうね。

好きとか?

告白?

いやん。どう答えたらいいの? ルビーわかんなぁい。


「私が守ります。殿下のことを。きっときっと──」


ウオルフの階段を下りる音。

どういう意味かしら。やっぱり、私を守り通して嫁にもらいたいとかそういうこと?


いやんいやん、どうしましょ。どーしましょ!

囚われの身なのに、自由がきかない身なのに、このままウオルフの元に降嫁することになるのかしら──?


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― 新着の感想 ―
[一言] いやもう。姫様。楽しそうで何よりです。
[良い点] 視点の切り替えが、挑戦的で良いと思いました。 最初の堅苦しい文章から一転、一人称へ。 世界観や姫の立ち位置が、第一話で語られているから、あとは、物語についていくだけ。取っつきやすいです。 …
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