俺の絶望的なセンスをモデルのクラスメイトにズタボロにけなされた結果、なぜかデートが始まったんだが
作者のファッション知識は男子中学生に毛が生えたレベルです。
ファッションの描写で間違っているところなどあれば、指摘していただけると幸いです。
普段、休日はあまり外には出たくないんだが、それでも出なければいけないときがある。
それは、新発売の本を買うとき、靴を買うとき、そして、服を買いに行くときだ。
今の俺には服が足りない。
だから、俺は仕方なく周りから変に思われない程度に身支度をして家を出た。
最寄りのショッピングモールへはバスに乗って数分で着いた。
向かう店はいつもの、し〇むらだ。あの店は俺のようなインドア派にも入りやすい上に、安い。
そして何より店員が話しかけてこない。
俺は休日に他人と会ったりするのが苦手だから、このメリットは大きい。友人はいるが、そいつらと会うのもせいぜい学校の中ぐらいだ。
なんてことを考えながら店へ向かっていると、俺の正面から要注意人物がこちらに向かってくるのが見えた。
彼女は中西彩華。俺のクラスメイトで、モデルをしている。
手入れの行き届いた艶のある黒髪がトレードマークで背も俺と同じか、それよりも高いかもしれない。
モデルをしているだけあって、スタイルも抜群。ファッションのことは俺も詳しくないが、全身を黒で揃えて、ワンピースを着ている彼女は他の客とは別のオーラを感じるほど際立っていた。
彼女とはやたらと同じ班になるせいで話す機会も多い。友達と言えば友達かな、ぐらいの関係だ。
まあそれも学校での話だが。
一歩学校を出れば他人。それが俺の中での感覚だ。
俺は下を向いて彼女に気づかれないように横を通り過ぎようとする。
「え、もしかして青柳?」
まさかバレるとは。
仕方ない。適当に話して会話を終わらせよう。
「中西か。こんなところで会うなんてな」
俺たちはショッピングモールの通路の隅に移動しながら、言葉を交わす。
中西は俺の足元から頭までを、なぞるように見た。
モデルだから、他人のファッションにも興味があるのかもな。
「青柳、あんたその恰好、何かの罰ゲームだったりする?」
「――え?」
「ずいぶんと陰湿な罰ゲームがあるのね」
彼女は同情の視線を俺に送る。
「いや、全然罰ゲームとかじゃないけど」
「へ? じゃあまさか、本気でその格好してるってこと?」
今度は、彼女は信じられないとでも言うように後ずさった。
「こういうのが普通じゃないのか?」
まさか俺の服装、ダサいのか。
最近よく見るYou〇ubeの動画広告みたいに、自分がダサいのに気づいてない痛い奴だったのか。
そんな俺を見る彼女の目は険しい。
「本当に酷すぎて、どこから突っ込んでいいのか……もしかしてあんたタイムトラベラー? 未来ではそういうのが流行ってるの? それともハロウィンの仮装? あと開いてる」
彼女は遠慮なく俺の服装をズタボロにけなしていく。
俺はひとまず、社会の窓だけは大急ぎで閉める。
「……そんなに駄目なのか」
「ランダムに服を選んだ方がまだマシね」
おそらく、服装のセンスに対する最大級の侮辱の言葉だろう。
「まじかよ……」
俺はショックに打ちのめされる。
ここが外じゃなかったら多分泣いてると思う。
「青柳、今日は服買いに来たの?」
「うん。ちょっと買い足そうと思って」
正直、俺は服なんて着れればそれでいいと思ってたが、ダサいと言われたからにはもう少し気を使った方がいいかなと思い始めてきている。
今日も適当に服を選ぼうと思っていたけど、ちょっとは考えよう。
「はぁ……じゃあ私がスタイリングしてあげるわ。どうせあんたが服選んでも、ろくなことにならないだろうし」
中西は腰に手を当てながらため息をついた。
「わざわざそんな。別にいいよ。俺なりにダサくない服選ぶからさ」
「青柳に将来できる彼女がかわいそうだから言ってるのよ! 制服のときは普通にいい感じなのに、私服はなんでそんなに絶望的なのよ! 詐欺じゃない!」
なぜか俺に怒り始める中西。
絶望的とか言われると、割と傷つくんだよな。
「俺、詐欺師かよ」
「そうよ。もうこれから外出るときはずっと制服でいて欲しいぐらいよ」
「なんか本業の奴に言われると結構へこむな」
ものの数分で俺は自分への自信を失ってしまった。
モデルが言うんだから、俺は本当にクソダサいんだろうな……
「だっだから、一緒に選ぼうって言ってるのよ。私が選べば大丈夫だから。さっきも私、ちょっと言いすぎたし、そのお詫びとしても……」
いきなり彼女の語気が弱まり、声も小さくなっていく。
俺がガチでへこみはじめたのを少し気にしてるのかもしれない。
流石にそんな顔をされると断れないな。
「わかった。お願いするよ」
「うん。やるからには徹底的にやるわよ」
「何か怖いな」
一瞬で調子を戻す中西を見て、俺は少し後悔した。
◇
俺たちは、し〇むらではないが、安くて品質のいいことで有名な、大手の服屋に到着した。
店舗に入って中西に連れられるがまま歩いていると、気づけば俺たちはメンズ用の服売り場まで来ていた。
「まずはボトムスからね。あ、下に履くやつのことよ」
「これ親父からのお下がりなんだけど、駄目なのか?」
割と生地もしっかりしてるし、これを着ていれば間違いないと思ってたんだが。
「服自体は悪くないわよ。でもサイズが全然合ってないじゃない。とりあえず、自分に合ったジーンズでもチノパンでも履いてれば普通にはなれるはずなのよ」
「なるほど、ためになる」
このダボっとした感じが良いと思ってたけど、今は違うのか。
「とりあえず、これとこれかな……」
中西は服を物色しながら、二つほどジーンズなどをカゴに入れた。
「次はトップス……じゃなくてシャツね。青柳はカジュアルすぎるのは似合わないから、ポロシャツとか、開襟シャツとかがいいわね。色は初めは単色のほうがいいわ。紺、白辺りが無難ね」
そう言って中西は俺の首元にハンガーを合わせて、サイズがあっているかの確認をする。
正面から見つめ合ってるみたいな構図になって、少し緊張する。
「あ、Tシャツも、最初はガラとか文字入ってるのはやめなさいよ。とにかく無地だけ着てれば失敗はしないから!」
「そうだったのか……」
バリバリ文字の入ってるシャツを着ていた俺には衝撃の事実だ。
「はい。青柳、身長私と同じぐらいだからこれで入ると思うわよ。ちょっと試着してみなさい」
中西は俺にカゴを手渡す。
中にはちょうどシャツ、ズボンなどが一組ずつ入っていた。
俺が着る服を迷わないようにしてるのだろう。
他の服は、彼女が手に持っていた。
「ありがとう。本当に助かるよ」
「まだ礼は良いから。とにかく着てみて」
「分かった」
俺は店員に言って、試着室を借りる。
彼女が渡したカゴには白いTシャツと、少し明るめな紺の開襟シャツ、黒スキニーが入っていた。
「着替え終わった?」
外から声がした。
「終わったよ」
俺がそう答えると、彼女はゆっくりとカーテンを開ける。
「やっぱり私の予想は正しかったわね。青柳はちょっとフォーマルな方が似合うわ!」
彼女は初めて笑顔を見せる。
「本当?」
「モデルの私が言ってるのよ? あ、鏡の方向いてくれる? 少し手直しするわ」
彼女は靴を脱いで、試着室へ上がり、俺の背後から服装をいじり始めた。
「ここの襟はちゃんとして、ここのボタンは止めた方がいいわ。あと、ボトムスの丈は……ちょうどいいわね」
手際よく細かいところを整えていく中西を凄いなと思いながらも、彼女との近すぎる距離感に少し焦る。
というか、なんならさっきからちょっと当たってる。
「何よ。変な目で見て」
彼女が俺の顔を不機嫌そうに睨む。
「ごめん、ちょっと距離近くて焦った」
「はぁ。こんなんで勘違いしないでよね。あんたは私にとって水みたいな感じだから。無味無臭で無害な水に変な感情を抱かないでしょ? だから、私との距離が近くてもあんまり気にしないことね」
多分、俺が青柳拓水だから、水に例えたんだろうな。
だがまあ、俺とて彼女に恋愛感情があるかと言われると違う。
「無害だと思ってくれてるならそれで十分だよ」
「はいはい。ああもう、普段私こんなにしゃべらないのよ。のど渇いてきちゃったじゃない」
彼女は不機嫌なまま立ち上がると、靴を履いて試着室から出る。
「何か買ってこようか?」
「後でいいわよ。それより、これ次の服」
中西が俺にまた服のセットを手渡す。
「あ、まだやるのか」
「当たり前でしょ。こういうの面倒くさがるからダメなのよ」
彼女は呆れたように、試着室のカーテンを閉めた。
その後も彼女に言われるがまま、何度も試着をし、結局シャツなどもろもろで六つほど買うことになった。
「じゃあ、お会計に行きましょ。それと、この服を着て帰れるようにお願いしましょ。流石に私も元の服を着た青柳と一緒に歩くのは……」
「悪かったよ。にしても、買った服を着て帰るなんてことが出来るのか」
RPGで言うところの「ここで装備していくかい?」みたいなやつか。
「お店によるかもだけど、大体はできるんじゃないかしら。私もたまにやるわ」
「そうなんだ。知らなかった」
今日だけでも色んなことを知れたな。
意外と世の中には俺が知らない常識もいっぱいあるのかもしれないな。
その後、俺たちは会計を済ませ、店員に少し同情したような目で見られながらも、買ったばかりの新しい服を着て店を出た。
「ひとまず、プラスマイナスゼロぐらいにはなったわね」
店の前で中西がうなずく。
「これでゼロなのか」
「初めは背伸びしないほうがいいから、このぐらいでいいのよ。もっとオシャレしたいならまた聞きなさいよ」
彼女はそのまま歩き出す。
まだどこかへ行くのか。
「さて、私の買い物にも付き合ってもらおうかしらね」
「俺なんかいても邪魔なだけじゃないか?」
ファッションセンスゼロだぞ俺。
俺に頼むぐらいならランダムに選んだほうがマシだぞ。
「自分の服は選ばせといて、それが済んだらもう私は用済みなのね」
中西が悪戯するような、残念そうな瞳で俺を見る。
「そういうわけじゃ……わかった。行くよ。でも本当に何の役にも立てないからな」
「荷物とか持ってくれるでしょ?」
「それしかできないぞ」
そんな会話をしながらも、目当ての店に着いたみたいだ。
店内は黒を基調としていて、俺には絶対に入れないような、おしゃれな雰囲気が広がっていた。
「これいいわね。あっこっちも……」
気づくと、彼女はすでに服を物色し始めていた。
「……この中だったら何がいいかしら」
唐突に、中西が俺の方へ振り返る。
彼女の手には三つのハンガーが握られていて、どれも中西に似合いそうなものだったが……
「あっ青柳に聞いちゃいけなかったわね」
彼女はハッとしたように言って、悪戯っぽく笑った。
それが少し癪だったので、俺なりに答えてみることにした。
「……そうだな、中西に似合いそうなのは、これかな?」
俺は向かって左側の服を指さす。
「ああ、これ? へぇ……」
しかし彼女は俺が真ん中のものを指さしたと思ったらしく、それを持ち上げて眺めていた。
「いや、それじゃなくて」
左、と言おうとしたのだが……
「意外とセンスいいじゃん」
じゃあもうそれでいいです。
「ちょっと試着してくるわね」
「うん。荷物見とく」
彼女は残りの二つの服を元に戻して、試着室まで向かって行く。
俺は何だか口数が少なくなった彼女を後ろから見届けた。
偶然とはいえ、正解を当てられたみたいだから結果オーライだ。
そんなことを考えている内に、中西は着替えを終えていた。
「どう、かしら」
試着室の中に立っている彼女は、さっき俺が選んだ青をベースにした、色んな模様が混ざった、少し派手めなワンピースを着ていた。
彼女がさっき来ていた黒のものよりも生地が薄く、透明感がある気がする。
「凄い似合ってると思う。透き通るような感じでいい。あとは……きれい! 凄いきれい!」
俺は誰かと服を買いに行ったことなんてない。
だから人に「どう?」と聞かれたときに、なんて答えればいいかなんて全然分からなかった。
「そんなに必死に褒めなくてもいいわよ。にしても、青柳はこういうのが好きなのね……」
中西は小悪魔のような笑みを浮かべる。
「いや、ちがっ……」
「青柳ってほんと分かりやすいわよね。中学生じゃないんだから」
彼女は呆れながらも、口元はにやついていた。
「いくつになっても恥ずかしいもんは恥ずかしい」
「ちょっとドキッとしちゃった?」
くすりと笑って首をかしげる中西。
モデルだけあって、ポーズがあざとい。
「……まあ」
俺の前でそんなに可愛い姿を見せても、もったいないだろうに。
「素直でよろしい。お水くん」
「なんだよお水くんて。俺は拓水だよ」
「あれぇ、そうだったっけ? じゃあ私、お会計済ませてくるから」
一着だけでいいのか、と思ったが、俺が口出しすることでもないか。
「待ってる」
そう言って俺は、高速で着替えを終えて試着室から出ていく彼女を見送った。
会計から戻ってきた彼女は、ついさっき試着していた服を着ていた。
「え、もしかして着てきたの」
「そう。せっかくだから」
彼女はなぜか上機嫌だった。
「あ、あっちのお店もいいわね。行きましょ」
中西が俺の手を引く。
「――ちょっ!」
彼女はいったいどこまで俺の情緒を危機にさらす気なのだろうか。
彼女は俺を水だと言ってたけど、俺にとって彼女は、甘いジュースのように魅力的な存在だった。
俺が気付いたときにはすでに、彼女は店から出ていた。
「うーん……あんまりよくなかったわね……次行きましょ」
また彼女は当然のように、俺の手を引いて歩きだそうとする。
「中西、ストップ!」
「――ひゃっ!」
俺は前方にクラスメイトがいることに気づき、急いで彼女の手を引き寄せた。
「あいつら、俺たちと同じ学校の奴らだよ。見つかったら何言われるか分からない。中西はモデルだろ。変な噂とか流れたらヤバいだろ」
「そうね……盲点だったわ。ありがとう」
中西は自分の心臓を落ち着かせるように、胸に手を当てながら息をつく。
俺は彼女の腕を掴んだままだったことに気づき、すぐに離した。
「仕方ないわね。今日は帰りましょ」
「俺を置いていって一人で買い物続けてもいいのに」
俺と一緒にいるから問題なだけで、彼女一人で買い物をする分には問題ではないだろう。
「別にいいわよ。冷房で体もちょっと冷えてきてたし」
彼女は腕を組むようにして、手で摩擦を起こす。
そういえば、女性は冷えやすいと言うしな。
「わかった。そうしようか」
俺たちは、クラスメイトの奴らが通り過ぎたのを確認すると、出口に向かって歩きはじめる。
「私、お手洗行ってくる。ちょっと待ってて」
「ならその荷物持つよ」
「え、ありがと」
彼女は少し意外そうに俺を見る。
確かに、彼女の荷物は少なかったけど、それでもあったら邪魔だろう。
彼女を待っている間、俺は飲み物でも買うことにした。
彼女は寒そうだったし、ホットのやつがあればいいんだけど。
自販機には、奇跡的にあったかい、レモン飲料が売っていた。
もう夏になりかけているから、ギリギリといったところだな。
俺は迷わずそれを購入する。
「お待たせしたわね。行きましょ」
彼女が帰ってきたみたいだ。
「うん。あとこれ。さっきのどが渇いたって言ってたでしょ」
俺は飲み物を手渡す。
「あ、確かにのどは渇いてたわ。しかもあったかいのね。ありがと……」
中西は、少し熱いペットボトルのフタを開けるのに少し手間取っていたが、パキッという音とともに開けることに成功すると、一口だけ飲料を飲んだ。
「甘い……」
彼女がペットボトルを両手で抱えながら、つぶやく。
「そりゃ甘いでしょ」
中西ってたまにちょっと変な言葉遣いするよな。
「水の癖に」
「え? 何か言った?」
水が何とかって聞こえた気がするけど……
「なんでもないわよ! そうだ、次も付き合ってもらうから、絶対来なさいよ!」
彼女はもう数口飲んでからペットボトルのフタを閉めると、いつもの調子を取り戻す。
「ええ?」
「今日買った分だけじゃ足りないでしょ。また私が選んであげるから」
「……わかったよ」
その言葉を皮切りに、俺たちは並んで歩き出す。
正直、クラスメイト達も怖かったけど、俺が彼女と距離を取ろうとすると、彼女の方が寄ってくるんだから仕方がない。
――突然、彼女が俺の左手に指を絡めてきた。
自分の指に触れるのとはまた違ったくすぐったさが俺の情緒をグラつかせる。
いや、俺は水だったんじゃ? 中西?
「え……?」
俺は驚きのあまり声を漏らす。
「馬っっっ鹿! 荷物取ろうとしただけよ! 流石にそんなに持ってたら邪魔でしょ!」
俺が中西を見つめると、彼女は顔を真っ赤にしながら答えた。
「あ、返してなかったな。ごめん」
俺は彼女に袋を手渡す。
「はぁ……なに顔赤くしてんのよ。ほんとあんたって分かりやすいのね」
彼女は手で顔を仰ぎながらこっちを向く。
「中西も真っ赤だけど」
「うるさい!」
そう言って俺の肩をひっぱたくと、彼女はすぐにそっぽを向いてしまった。
そうして恥じらいを見せる彼女はとても可愛らしかった。
「服を買うときだけと言わず、ずっと隣にいられればいいのにな」
あ。声出てた。
「はぁぁぁ? その言葉の意味、分かってて言ってるの?」
超高速で振り向く彼女に、俺の方がたじろぐ。
「えっ」
どうやら、口のチャックは閉められなかったみたいだった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
甘い! ツンデレ可愛い! 口のチャックもどんどん開けてけ! と思ってくれた方はぜひ、下にある☆☆☆☆☆から応援していただけると嬉しいです!
ラブコメ短編はこれからもどんどん書いていくつもりなので、そのときはまた、よろしくお願いします!