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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

俺のスキルは【異界釣り】 ~ そろそろ妻を娶(めと)って『愛妻弁当』というものを食いたいのだが…… ~

作者: 葛城遊歩

 山間(やまあい)急峻(きゅうしゅん)な谷川で(アユ)岩魚(イワナ)などを釣るのは渓流釣り、対して大洋を望む岸壁(がんぺき)からチヌこと石鯛(イシダイ)やグレこと眼仁奈(メジナ)などを釣るのは磯釣りという。


 では、【異界釣り】とは!?


【異界釣り】とは、異世界人を『異世界転移』させて、俺こと難波翔太(なんばしょうた)の住む日ノ本へと連れて来るスキルである。


 具体的には『釣り堀』に見立てた魔法陣へと思念の糸を垂らし、これはと思う異世界人を釣り上げるというものだ。


 より具体的にいうと、釣るのは異世界人の魂魄(こんぱく)のみであり、抜け殻となった肉体は現地に残るという仕様である。


 また、釣るタイミングについても厳しい制限が課されていた。


 その制限とは、異世界の神(?)が(くだん)の人物を不要と見做(みな)す必要がある。


 つまり……、釣るタイミングとは、その人物が亡くなった瞬間のことであった。


 肉体の(くびき)から魂魄(こんぱく)が解放された瞬間に釣り上げるのだ。


 そして魂魄(こんぱく)の緒が肉体から切れて、冥府や輪廻(りんね)の輪などに入った後には釣りあげることは叶わず、一瞬の判断が重要となる。


 更には、(くだん)の人物が生きたいという強い想いも必要であり、生きる意志のない者には垂らされた思念の糸を認識することができないのである。


 因みに残された肉体は、普通に遺体として処理される。


 一方、釣り上げた魂魄(こんぱく)は、魔法陣の力により仮初(かりそめ)の肉体を得て『異世界転移』を果たすのであった。


 そして魂魄(こんぱく)には肉体の年齢が刻まれているため、受肉した肉体の年齢は亡くなった時点でのものであることは自明の理だ。


 この場合『異世界転生』でないのは、輪廻(りんね)の輪を(くぐ)っていないからである。


 更にいうと、『異世界転移』を果たした者の肉体は、おおよそ一年を掛けて定着するのだが、その期間中に日ノ本人と異なる形質は徐々に退化し、最終的には日ノ本人と同じ容姿に落ち着くのであった。


 この日ノ本人への形態変化は、【異世界転移】した者がこの世界で安寧(あんねい)な生活を得るために、神(?)により(もたら)された恩寵(おんちょう)であるらしい。


 日ノ本の帝都たる大江戸の一等地に、(ぜい)を尽くしたお屋敷が立っている。


 この屋敷は没落した華族が所有していたものだったのだが、金の力で俺が買い取った。


 大都会に在って広大な敷地を有し、良く手入れされた南蛮風の庭園の中に、煉瓦(レンガ)造りの瀟洒(しょうしゃ)なお屋敷が立っているのだ。


 何と言うか……、御伽噺(おとぎばなし)の舞台のような場所である。


 現在、お屋敷に住んでいるのは、俺こと難波翔太(なんばしょうた)と雑務を(こな)外道(げどう)瀬場巣(セバス)に、お屋敷暮らしが似合う美少女がひとりの3名だった。


 俺は27歳の若造であるが、政財界や高級官僚たちとも太いパイプを持つ、財界の風雲児として知る人ぞ知る存在である。


 それは俺の取り扱っている特殊で得難い商材と深い関係があった。


 俺が取り扱っているのは、清楚(せいそ)で高貴な(たたず)まいの美少女たちや、(かぐわ)しい色香を放つ豊満な美女たちであったからだ。


 俺の仕事は、そんな美少女や美女たちを嫁や(めかけ)など政略結婚の駒として斡旋(あっせん)する人材コーディネーターである。


 最初の頃は有力な客筋との伝手(つて)が無かったことから、(いや)しい女衒(ぜげん)として娼館に娘たちを売っていたので、現状とは隔世の感がある。


 だがしかし、苦界へと落とした娘たちは、不思議と上流階級の紳士に見初(みそ)められて身請けされ、現在では全員が幸せな生活を送っている。


 恐らく、『異世界転移者』に対する神(?)からの粋な計らいでもあったのだろう。


 俺のみるところ、日ノ本を統べる神(?)は、()つ国からの稀人(まれびと)を歓迎しているようなのだ。


 そして、そんな彼女たちは俺のチートスキルである【異界釣り】によって『異世界転移』させてきた者たちだった。


 但し、連れて来られる者は、その世界が不要と見做(みな)し、死すべき運命にあった者のみであり、更に釣れるタイミングも亡くなる瞬間に限定されていた。


 つまり肉体から脱離した魂魄(こんぱく)の緒が切れた瞬間、【異界釣り】によって垂らした思念の糸と魂魄の緒を(から)めて釣り上げるわけである。


 その上、彼女たちは死の間際まで生への飽くなき足掻きをした者でなければならないという、厳しい制限が課されていた。


 何となれば、生への執着を無くした魂魄(こんぱく)の緒は、思念の糸で(から)め捕ることが出来ないからだ。


 つまり生きようとする強い執着が、魂魄の緒を思念の糸に絡ませるからである。




「旦那様、無事にミィーシャ・クランベット嬢の嫁ぎ先が決まりました」


「そうか……、無事に売却できたか。では新たな美少女を釣り上げるとしよう」


「ご健闘をお祈り申し上げます」


 この一年、俺と瀬場巣(セバス)は、【異界釣り】にて釣り上げたミィーシャ・クランベットの仕込みに専念していた。


 ミィーシャは、『なろう銀河』と呼ばれる最大規模の星雲に属する数多(あまた)の異世界の中から見出(みいだ)して釣り上げた美少女である。


 彼女の住んでいた異世界は俺たちの住む世界で表現すると、中世の暗黒時代の南蛮に相当する世界であった。


 (もっと)も、あの世界には魔法があり、勇者や魔王まで存在していたらしいのだが……。


 一般民衆の生活レベルを考えると、魔女裁判が行われていた当時の南蛮を想起させる世界であった。


 その世界にあってミィーシャは、とある豪商の娘として生を()けた。


 彼女は順風満帆(まんぱん)な人生を謳歌(おうか)していたのだが、豪華客船に乗って海外旅行をしている最中、時化(しけ)で船が座礁(ざしょう)した際に海に投げ出されて(はかな)くなったのである。


 波の(まにま)で必死に助けを求めたが、その甲斐(かい)もなく(おぼ)れ死んだ。


 俺は偶然にも、その場の近くに思念の糸を垂らしており、【異界釣り】で釣り上げられたというわけだ。


 ミィーシャは桃色のふわふわ髪に透明感のあるコバルトブルーの瞳を持つ、容姿端麗なお嬢様だった。


 年齢は十六歳であり、異世界基準では成人と見做(みな)されていた美少女である。


 そして釣り上げられて仮初(かりそめ)の肉体を得たミィーシャは、肉体が定着する一年でふわふわの黒髪と黒瞳をもつ(うるわ)しい日ノ本美人に変化していた。


 ミィーシャの嫁ぎ先は、由緒ある華族の側室だ。


 但し、その前に同格の華族である大道寺家の養女となり、名前も大道寺(だいどうじ)美夜(みや)と改名して嫁ぐことになっている。


 更に、嫁ぎ先の華族のご当主には政略結婚で得た正室が居るものの、子供を(もう)けることができなかった正室は石女(うますめ)として冷遇されているらしい。


 つまりミィーシャには、正室に成り上がる可能性があるということだ。


 俺としても、一年を掛けて教育してきたので、彼女には幸せになってもらいたいと考えていた。


 勿論(もちろん)、報酬となる斡旋料も破格な高額であり、随分と儲けさせてもらったものだ。


 一時期は、売上を上げるために複数の少女たちを釣り上げて教育していたこともあるが、ここ数年はひとりに絞って丁寧な仕事をしている。


 因みに雑用を引き受けている外道(げどう)瀬場巣(セバス)であるが、実のところ彼も【異界釣り】によってこの世界へと『異世界転移』してきた人物であった。


 但し、彼の場合は俺が釣ったというよりも、臨終の間際に近くを通過した思念の糸に食らい付いて強引に『異世界転移』を果たした(ごう)の者であった。


 つまり、釣りでいうところの『外道』である。


 『外道』とは、目的としていた種類ではない魚などが掛かることをいう。


 例えば磯釣りで石鯛(イシダイ)を釣ろうとしていたのに、(ウツボ)が掛かるようなものだ。


 だがしかし、『外道』であっても簡単に捨てることが出来なかったことから、外道(げどう)瀬場巣(セバス)という名前を与え、雑務を任せることにしたのであった。


 それから俺のお気に入りの釣り場は、『なろう銀河』に属する異世界だ。


 何となれば、釣り上げた美少女や美女の取り扱いが容易であったからだ。


 所謂(いわゆる)、『チョロイン』という奴である。


 彼女たちとのスキンシップは頭を撫でる程度で良く、最悪でも(ほお)とか口唇とかに口付けるだけで満足してくれるお手軽娘が大半であったからだ。


 ところが『なろう銀河』の近くにある『ノクターン銀河』や『ムーンライト銀河』から釣り上げた娘は、積極的に夜這いしてくるから困ったものだ。


 俺も健康な成年男子であるため性的欲求がないわけでもないが、売り物に手を出す心算(つもり)はない。


 そして『ノクターン銀河』と『ムーンライト銀河』の周辺を丹念に探ると『ミッドナイト銀河』と呼ばれる小銀河が見つかるのだが、あの銀河に属する異世界ではバイオレンスが渦巻き、精神的に病んでいる娘が多く、釣り上げた後のフォローが大変なので無視することにしていた。


 だから俺は『なろう銀河』をメインの釣り場としているわけである。


 そう言えば、それらの銀河から離れた場所にも幾つかの銀河があるようだが、俺としては未開拓だ。


 というか、『なろう銀河』だけでも数多(あまた)の異世界があるので、そこまで手を出す必要がないという判断であった。




 俺の仕事場は、お屋敷の地下にある。


 お屋敷の地下には倉庫などが造られていたが、ワインカーゴの一角を整理して、【異界釣り】用の魔法陣を設置していたのだ。


 魔法陣の横には俺が座る椅子などが準備されており、椅子に座りながら思念の糸を異世界へと垂らすことになる。


 そして【異界釣り】は、長丁場のお仕事であったりする。


 釣り上げるタイミングがシビアであることと、幾ら多くの異世界があっても美少女や美女の死に目に巡り会うことは稀であったからだ。


 だからこそ、思念の糸を垂らしながら弁当を食べたり排泄行為をしたりする必要があった。


 排泄行為に関しては、簡易トイレのオマルで我慢するしかない。


 対して食事に関しては瀬場巣(セバス)が買ってくるコンビニのお弁当や飲み物で(しの)いでいた。


 俺としては職場環境を改善するために、愛妻弁当を作ってくれる美少女を釣り上げることにしたわけだ。


 そんなことを考えつつ、俺は何時(いつ)ものように椅子に座ると、スキルで創った釣り竿を振って思念の糸を魔法陣へと投げ込んだ。


 思念の糸は魔法陣の真ん中へと向かうと、水面(みなも)に沈み込むように潜っていく。


 俺は瞳を閉じて精神集中を図ると、思念の糸を通じて『なろう銀河』が視えてきた。


 初めは渦を巻いた星雲の如き姿をしていた『なろう銀河』であるが、接近するに連れて異世界が形成されている惑星のようなものが見えてくる。


 惑星の規模は様々であり、恒星の如く輝き発展している異世界もあれば、人類が滅亡して時が凍っている異世界もあった。


 中には古代人が考えていたような平面世界が在ったり、その世界を聖獣が支えている異世界が在ったりした。


 あれらの異世界では、物理法則が()じ曲げられているのではないだろうか?


 と思えば文明が進んで宇宙に進出している異世界や、天界、人界、魔界などと多重世界を形成している異世界もみられた。


 そうこうしていると、突然に異世界のひとつが消滅した。


 その様な超新星爆発は、『垢BAN』と呼ばれているようだ。


 此処(ここ)では、異世界の誕生と消滅は日常茶飯事(さはんじ)でもあった。


 消滅した異世界は、基本的には何も残らないのだが、時々、『なろう銀河』から消滅した異世界が『ノクターン銀河』などへ転移するという現象も観察したことがある。


 時には星雲を(また)いで、瓜二(うりふた)つの異世界が同時並行で存在することもあるようだ。


 そして、思念の糸の先端が異世界へと近付くと、俺の嫁候補となる人物の発する、生きようとする想いが伝わってくるのだ。


 俺は感じた(まま)に思念の糸を操り異世界から異世界へと渡り歩いたり、時にはお目当ての異世界に固定して念入りに釣り上げるべき人物を追い続けたりする。


 そうして思念の糸の先端は、無事に『なろう銀河』へと到達し、数多(あまた)の異世界が漂う宇宙空間のような場所で、微弱な想いを拾い上げる。


 すると、前方の異世界から「死にたくない! 誰か助けてぇえぇぇ~~!!」という年若い女性の切迫した思念が送られて来た。


 俺は、その想いを発した相手を最初の嫁候補と定めて思念の糸を垂らしてゆく。




「魔王アナスターシャ、お前の野望も此処(ここ)までだ。さっさとくたばりやがれ! この腐れ魔王め!!」


「む、無念……」


 想いを辿(たど)って到達した異世界では、妖艶(ようえん)な容姿の美女魔王が勇者によって討伐されるところであった。


 美女魔王こと魔王アナスターシャは高位の攻撃魔法の遣い手であり、部下の四天王も強大な魔力を持つ猛者たちだったようだが、思念の糸を垂らした時、アナスターシャは勇者の剣によって胸を貫かれて瀕死の状態だった。


 魔王アナスターシャと勇者が戦っているのは魔王城の玉座の間であり、既に四天王は勇者の仲間たちによって(たお)されていた。


 アナスターシャは緋色の長い髪と、切れ長の漆黒色の瞳をした美女である。


 側頭部には魔族らしく山羊(ヤギ)のものを彷彿とさせる立派な角が生えており、瞳孔も縦に裂けているが顔の造り自体は俺好みであるようだ。


 ところが今は、胸を貫いた剣身による激痛で顔が歪んでいた。


 衣装は胸元が際どい部分まで開けられた煽情的(せんじょうてき)なものであったが、(こぼ)れそうなおっぱいはギリギリ収まっているという感じである。


 そんな魅惑的な胸部に、無粋な剣が刺さっている。


 アナスターシャの想いによると、彼女は父親から魔王の座を襲名したものの、本当のところは料理を作ることが大好きな可愛らしい性格の女の子であるらしい。


 けれども、暴走した四天王が人族の領域へと侵攻したことにより、(くだん)の勇者が()ったというわけだ。


 そして勇者は仲間を集め、侵攻してきた魔族どもを蹴散らし、現在に至るようだ。


 それにしてもアナスターシャは料理が好きな美女というか、18歳という実年齢を考えると美少女といっても差し支えないだろう。


 アナスターシャは、俺の嫁に相応(ふさわ)しいと思う。


 彼女の魂魄(こんぱく)を釣り上げるため、思念の糸を近付ける。


「滅びろ! 魔王!!」


「や、止め……う、うぎぁあぁあぁぁぁ……――」


 ところが思念の糸が到達する前に、勇者が剣を(ひね)って傷口を広げ、更に剣に込められていたらしい炎の魔術によって、アナスターシャの身体は消し炭となって崩れ去った。


 結局、アナスターシャの魂魄(こんぱく)は、あっと言う間に地獄へと墜ちていった。


 あのアナスターシャのおっぱいは、一見の価値があったのだが……。


 逃した魚は大物だったということらしい。




 今度は少し離れた異世界から「わたくしは無実なの。殺さないでぇえぇぇ~~」というお姫様っぽい悲痛な想いが聞こえて来た。


 今度こそ、俺の嫁を釣り上げるのだ。


 俺は想いの(こも)った声が聞こえてきた方角へと思念の糸を伸ばしていく。


 次に到着した異世界では、高飛車系の豪奢(ごうしゃ)な美少女が火刑台に(くく)り付けられていた。


「この毒婦め。汚物は消毒するに限る!」


「わたくしを無実の罪で火炙(ひあぶ)りにするというの! 元とはいえ婚約者への(なさ)けがあっても()いでしょう。お願い……命ばかりは助けてぇえぇぇぇ――」


「お前が僕の婚約者だったことは黒歴史だ。骨も残さず焼き尽くしてやる! では刑を執行しろ!!」


「はっ! それでは、元侯爵家令嬢にして婚約者の王太子殿下とご友人を亡き者にしようとして、国家反逆罪が確定したラシャール・ハスハ・ド・リッチェルの処刑を執り行います」


 足元に(まき)が積まれた火刑台には、質素な囚人服を着せられた美少女が(くく)られていた。


 金糸の如き輝きを放つ髪は縦ロールに巻かれ、碧眼からは大粒の涙が(あふ)れている。


 豊かに膨れた胸元には縄が打たれており、膨らみが強調されてエロい恰好(かっこう)だ。


 絵に描いたような高位貴族のご令嬢であるが、ラシャールは民衆の罵倒(ばとう)から『悪役令嬢』であるらしいことが判明した。


 『悪役令嬢』というのは、『乙女ゲーム』の舞台を再現したかのような異世界で見いだされる敵役の美少女のことである。


 ただ、俺としては食指の伸びない相手であった。


 何となれば、『悪役令嬢』の大半が『異世界転生者』であったからだ。


 (うるわ)しい容姿をしている反面、前世の記憶を持っている。


 つまり釣り上げた後の教育が難しい相手であったからだ。


 魚に(たと)えるならば、スレた魚ということができるだろう。


 同様に俺tueeee系のチートスキル持ちや知識チートをひけらかす奴は無視することにしていたのだ。


「ひぃいぃぃぃ……熱い! (けむ)い! 苦しいのぉおぉぉ……――」


 俺が躊躇(ちゅうちょ)している間に、火刑台に火が放たれ『悪役令嬢』は燃やされてしまった。


「い、いぎぁあぁあぁぁぁ……――」


 ラシャールの着ている囚人服が燃えて美しい裸体が晒されたと思った次の瞬間、豪奢な金髪に燃え移り、そして煙で何も見えなくなった。


 直ぐに絶命したらしく、魂魄(こんぱく)は肉体から脱離して天界へと昇っていった。


 煙が一瞬晴れたのだが、(くい)(くく)られた遺体は酷く焼け焦げていた。


 この酷い処刑劇も、王太子殿下が本当に愛した少女に意地悪をした報いだとの暴言が投げ掛けられている。


 中には小石などを投げている者も散見される始末だ。


 しかしながら、(くだん)の被害者と目されている少女からは「邪魔者が始末されて清々した」という邪悪な想いが()れている。


 如何(どう)やらラシャールは、この少女に()められて処刑されたようであった。


 『異世界転生者』ならば華麗に『ざまぁ』して欲しかったところだが、ヒロイン枠の少女の方が上手であったらしい。


 そんな結末を見るに、ラシャールは助けた方が良かったのかも知れないと後悔したが、時すでに遅しであった。


 今回は何だが調子が悪い。


 こんな調子では、俺の嫁を釣り上げることは困難かも知れない。


 俺の嫁は何処(どこ)に居るのだ。


 併せて、新たな商材の仕込みも必要である。


 思念の糸は『なろう銀河』を巡って、死すべき定めの美少女の熱き想いを手繰(たぐ)っている。


 お読み下さり、ありがとうございます。


 【異界釣り】は有用なチートスキルではありますが、釣り上げる条件が(いささ)か厳しいようでもありました。


 同時に難波翔太(なんばしょうた)自身も優柔不断であったようです。


 翔太は嫁候補を釣り上げることが叶うのか!?


 そして釣り上げた美少女は、『愛妻弁当』を作ることができるのか!?


 釣り人の戦いは孤独でありました。


 『愛妻弁当』への道は厳しいのかも……。


設定資料

難波翔太(なんばしょうた) 27歳 俺は……だ 

 名前の由来は「なんばしょっとか!」

 一見して冴えない容貌をした日ノ本人の男。

 【異界釣り】というチートスキルに目覚めて人生が変わった。

 財も成したことだし、今度は可愛い嫁が欲しいと願っている。

 『愛妻弁当』を作ってくれる器量よしの美少女を『異界釣り』で探している。


外道(げどう)瀬場巣(セバス) 45歳 私は……で御座います

 白髪交じりの銀髪をオールバックに撫でつけた執事のような存在。

 翔太の投げた思念の糸に食らいついて『異世界転移』を果たした。

 釣りでいうところの『外道』である。


ミィーシャ・クランベット 16歳(釣り上げた当時) わたし……です

 『なろう銀河』内のとあるテンプレート異世界生まれのお嬢様。

 桃色のふわふわ髪に透明感のあるコバルトブルーの瞳を持つ、容姿端麗なお嬢様である。

 父親は豪商で裕福な生活をしていたが海外旅行の船旅の途中、嵐に遭い海に投げ出されて死亡したところを翔太に釣り上げられて『異世界転移』した。


大道寺(だいどうじ)美夜(みや) 17歳 わたし……です

 日ノ本でのミィーシャの名前。

 華族である大道寺家の養女なり、その後、同格の華族の側室として嫁いでいった。

 容姿はふわふわの黒髪に黒瞳と、日ノ本美人に変化している。


アナスターシャ 18歳 我は……である

 『なろう銀河』内のとあるテンプレート異世界における魔王様。

 父親から魔王位を襲名した直後らしい。

 四天王が勝手に人界へと攻め込んで討伐された。

 そのとばっちりで勇者によって討伐されてしまったが、本当のところは性格も良く、料理好きの美少女であった。

 緋色の長い髪と、切れ長の漆黒色の瞳をした美女であり、側頭部には魔族らしく山羊(ヤギ)のものを彷彿とさせる立派な角が生えており、瞳孔も縦に裂けているが顔の造り自体は翔太好み。

 釣り上げる前に勇者によって殺されてしまい、魂魄(こんぱく)は地獄に落ちた。

 なお、地獄に落ちたのは部下の不始末の責任を取らされたため。


ラシャール・ハスハ・ド・リッチェル 15歳 わたくしは……ですわ

 『なろう銀河』内のとある『乙女ゲーム』世界の『悪役令嬢』。

 侯爵家令嬢にして、王太子の婚約者だった。

 金髪碧眼の美少女で、髪は縦ロールにしている。

 15歳という年齢にしては胸も大きかった。

 『異世界転生者』で前世の記憶があるらしい。

 ヒロインに()められ、火刑に処されて魂魄(こんぱく)は天界へと昇った。

 『異世界転生者』ということで食指の伸びなかった翔太だが、素直な性格をしていたことを知り、釣り上げなかったことを後悔することになる。

 なお、天界に招かれたラシャールは無事に輪廻(りんね)の輪に入り、今度は単なる転生者として『悪役令嬢』を務め、来世では華麗に『ざまぁ』を決める覚悟である。


異界釣り

 翔太の持つチートスキル

 詳細はまえがきを参照のこと


なろう銀河

 数多(あまた)の異世界が集まって星雲のようになっていることから銀河に(たと)えられる。

 『なろう銀河』は、最大規模の異世界が集まった場所である。

 近くには『ノクターン銀河』、『ムーンライト銀河』それから『ミッドナイト銀河』が存在している。

 翔太の『異界釣り』をするメインの釣り場でもある。

 その理由としては、釣り上げた美少女や美女に『チョロイン(笑)』が多いかららしい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 江戸時代という所に焦点を当て、そこに異世界要素をぶっ込むというのはとても意外性がありました。所々に別のジャンルも散りばめられていたので楽しく読ませて頂きました。 語彙の多さにも感嘆しました…
[一言] 続きが読みたかったのですが……
[良い点] 主人公さんが苦しみぬいて死んでくれたらより良いバッドエンドだった。
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