流れで目覚める百合
「ほらほら、上がって上がって」
「お邪魔しまーす……」
「スリッパはそれ使って。私の部屋は階段上がってすぐだから先行って待ってて。お茶入れて来るから」
「あ、うん。わかった」
今日は中学生になって初めてできた友達の優ちゃんの家に遊びに来た。友達の家って初めてだから、少し緊張してる。
私は言われた通りスリッパを履いて優の部屋へと入る。扉の前に「優のお部屋」と書かれたプレートがぶら下がっていたから間違えることもない。
そのお部屋に入ったとき、「あっ」と小さく声が漏れた。
視界に入ったのは、左奥のベッドの上に放り出された、小さな楕円球の形をした紫色のそれ。先から線が伸びていてスイッチのようなものがコードの途中にあり、反対の先にはUSBがついている。
これは何かと考えた時、1つ思い当たるものがあった。……確証はないけれど、USBで充電できるタイプのそれを、私は知識として知っている。
もちろん、インターネットで少し画像で見ただけで、本物を見るのは初めて。でも、だからこそ私は少しだけそれに興味を持った。
それでつい、ゆっくりとそれに近づいてツンと人差し指で触れた時。
後ろでガチャリとドアが開く音が聞こえた。
「おまたせ〜、あれ、何見て……………っ!?」
ハッとして私が急ぎ振り返れば、先ほどお茶の乗せていたお盆を抱え、羞恥に頬を真っ赤に染めた優ちゃんがいた。彼女は一瞬固まった後、口早に言いわけをした。
「ち、違うの! これはえっと……そ、そう! 最近疲れが溜まってて……」
「……性欲も、溜まっていたと」
「そうじゃなくて! ホントにまだ未使用だから!」
「……別にわたしは、気にしてないよ? ほら、私だって、全く興味がないってわけでもないし……」
「……本当? 軽蔑しない?」
「そんな、軽蔑なんてしないよ」
「……うん、ありがと! ねえ真由ちゃん。私、真由が好き」
「私も優ちゃんが大好きだよ」
――――だって大切な友達だもの!
そう続けようとした私の言葉は、強制的に途切れた。
とっても近くに優ちゃんの顔があって。私の頬を、優ちゃんの髪が撫でて。私の鼻を優しい香りがくすぐって。やがて私の唇に触れていた柔らかな
「……優、ちゃん?」
「好き。真由が好き」
「っ〜〜〜〜!!」
私の顔が真っ赤に染まっていくのが分かった。耳元で囁かれた好きの二文字が私の頭の中をぐるぐると回って、止まらない。
「……真由?」
少し不安げに私の顔を覗く優の顔が見えた時、鼓動がどんどん速まっていくのが分かった。
……好きって、そういうこと?
「……真由の好きと私の好きって、違った?」
私の好きと、優の好き。たぶん、少しだけ……ううん。
「……同じ、だよ。私、優が好きだから」
だから、今度は私の番。
「真由……ん」
優しく抱き寄せて。今度は私が、彼女の口を閉じさせる。
強制的に、柔らかな感触を感じながら。
「優、私の恋人になってくれる?」
「うん、喜んで」
私たちはこの日、友達から恋人になった。そしてもう一つ……。
「それで優ちゃん、このバイブレーションなんだけど……」
「これは見なかったことにしてぇ!」
「……でも私、優がこれ使ってるところ見たい」
「えっ? あの、えっと、本当に?」
「大丈夫。優ちゃんはいつだって可愛いから」
――――私はこの日、何かに目覚めた気がした。