彼女の夢 十四
ライブの後片付けが終わり、俺は家への帰り道を歩く…が、全く帰る気がしない。
なぜなら、そこには今の今までやり合った両親が先に帰っているからだ。
しかし、家出をするわけにもいかないので、俺はとりあえず家路につき、そのまま家に到着する。
「正人、おかえり。」
「おかえりなさい、正人。」
両親はダイニングルームに座っており、俺を出迎える。
「正人、お前が帰って来るまでの間、父さんと母さんは少し話をした。
…正人、今日の正人はいい出来だったぞ。まあギターの弾き語りは余計だったけどな。」
それは冗談のつもりで言ったのだろうが、俺は笑えず妙な沈黙が場に流れる。
そしてそれを隠すかのように父親が軽く咳払いをして、続ける。
「それに、風花さん…だったかな?あの子のパフォーマンスはなかなか良かったぞ。」
「…ありがとう。」
「それでお前に質問だ。お前はあの子のことが、本当に好きなんだな?」
「うん、大好きだよ。」
「…分かった。
ならお前の好きにすればいい。」
「…えっ?今何て!?」
「何度も言わせるな。『好きにすればいい。』って言ってるんだ。」
その言葉を俺は理解するのに時間がかかり、少しの間沈黙したが、その後言われた意味に気づく。
「お父さん…。」
そして俺は父の言葉を反芻しながら喜びの表情を見せる。
次に口を開いたのは母だった。
「あとね正人、私たち、お父さんとお母さんのこれからのことも、さっき話をしたの。
私たち、もう1度向き合ってみることにした。
やっぱりあんなキラキラした正人の顔を見てると…ね。
だから、当面の間は離婚はしません。」
「当面って…おい。」
父がそう言い、そこでこの場で初めての笑いが起こる。
「でもな正人、お前は二階堂病院の人間だ。だから眼科医になるにしろ何にしろ、やるからには真剣にやれ。中途半端なことはするな。
あと、成績を落とすんじゃないぞ!」
「分かったよ。ありがとう、父さん、母さん。
じゃあ俺勉強してくるね。」
俺はそう言って、自分の部屋に向かった。




