彼女の夢 十二
「アンコール、アンコール!」
ライブは大盛況のうちに終わり、「アンコール」のコールが会場全体から起こる。
そして、またも衣装を変えた風花が再びステージに上がろうとする前に、俺がマイクを使ってみんなに呼びかける。
「すみません、ここで風花への『サプライズ』を用意しています!」
その俺の一言に、周りは静まる。
「実は俺…、今まで楽器経験もなく、歌もカラオケで歌った程度しかないのですが、今日はステージに立っている間宮風花ちゃんのために、ギターの弾き語りを披露したいと思います!」
「オォー!」
「俺、このライブが決まってから、この日のために友達の家なんかで必死に練習して来ました!
まあ、さっきのやりとりの通り、俺の家は厳しいので…。」
「アハハハハ!」
俺はアドリブでそう付け加え、会場に笑いが起こる。そして両親の顔を少し窺うが、嫌そうな表情は見られなかった。
「まあそんなこんなで頑張ったんですが、ここにいる風花のステージがあまりにもレベルが高かったので、少し、いやかなり緊張しています…!
でも、聴いてください!」
そこまで言った俺はステージに上がる。
そこからの景色は…。
たくさんの観客とその熱気。そして自分に降り注ぐまぶしい照明。
『風花は、まさにそんなステージで、歌って踊ってたんだな…。』
それを思うとなぜか泣けてきたが、その涙はこらえながら、俺は歌い始める。
「…あれ、コード間違えました!」
「ハハハハハ。」
…俺は出だしからつまずいた。
しかし、その後俺はとりあえず順調に歌い上げ…、何とか「初ステージ」を終えた。
もちろん、風花のステージでのレベルと比べると雲泥の差ではあったが。
そしてその後、風花のアンコールが終わり、ライブは盛況のうちに幕を閉じた。




