彼女の夢 十一
「…何が言いたいんだ、正人?」
「もう1度言うよ。こんなって何?
父さんは、西高の生徒は賢くて、定時制の北高の生徒はレベルの低い奴らだ、って思ってるかもしれない。でも、それは違うよ!
俺は、その北高の友達と出会って、自分らしくいられるようになったんだ。
この際だからはっきり言うよ!俺は西高に入ってから何のモチベーションも持てなかった。常に周りと『できない』自分を比べてしまって、劣等感ばっかり持ってた。
それに俺は二階堂病院を継ぐ気なんてなかった。いいやそれだけじゃない。医者になる気も、将来の夢も何もなかったんだ。
でもそんな俺を、このステージに立っている風花が変えてくれた。
俺たちの出逢いは偶然からだった。でもそんな偶然のおかげで、俺は『本当に大好きな人』と巡り逢うことができたんだ。そして、俺はそんな風花と、これからも真剣に付き合いたいって思ってる。」
「何をバカなこと言ってるんだ!そこの子も定時制の子だろ?そんな子とお前が付き合えるわけが…、」
「父さん、最後まで聞いて!
俺は風花のことが大好きだ!それで、風花は目の病気を持っていて…、だから俺には夢ができたんだ。
俺は将来眼科医になりたい!そして、風花の病気を治したい!いいやそれだけじゃなくて、風花みたいに目のことで悩んでいる人たちの手助けをしたいんだ!」
「おい!二階堂病院に眼科なんてない…、」
「ちょっと待って、お父さん!」
ここで、今まで黙っていた母親が口を開く。
「お父さん、正人のやってること、最後まで見てあげない?」
「おいお前まで、何言って…、」
「父さん母さん、俺は知ってるよ!」
俺は両親の言葉を遮って両親に伝える。
「父さんと母さんは、今は離婚を考えるほど仲が悪いんだよね?それに関しては2人の関係のことだから、俺は何も言わない。
でも、できれば俺たちのやってること、最後まで見て欲しい。俺、最近成績上がったよね?それはこのステージの上の風花、いやそれだけじゃない。西高も北高も含めて、俺の周りにいる友達のおかげなんだ。
だからそんな友達を侮辱する奴を、俺は絶対に許さない。
それで、父さん母さんには、そんな俺を分かって欲しいんだ!」
その後、少しの沈黙の後、俺の父親はこう言う。
「…分かった正人。今日は最後までここにいよう。
ただし、家に帰ったら勉強しなさい。」
「ありがとう!父さん母さん!」
そして、ライブは再開する。




