彼女の夢 四
その、今回の体育祭主担当の先生は体育の女性教師で、年齢は50を超えたぐらいか。一応生徒の間では、
「話が分かる。生徒の悩みなんかも真剣に聞いてくれる。」
と評判の先生だ。またその先生は俺たち生徒に対しても敬語を使うことで有名で、決して悪い先生ではない。…のだが説得となると話は別かもしれない。
…というわけで俺は心して、先生に話を持ちかけるため職員室のドアをノックする。
そして一目散に、その先生の所まで行く。
「先生、実はお願いが…。」
そこから先は、早口になりながらの説明であった。
…そして先生は、
「分かりました、そういうことなら場所は貸しましょう。」
と了承してくれた。
「ちょっと待ってください先生!そんな一生徒の個人的な企画を簡単に通していいのですか?それに西高の3年生は今受験を控えた大事な時期なんです!生徒には学業に専念してもらわないと困ります!」
…傍から俺の話を聞いていた他の先生が、そう口を挟み反対する。
「ご意見はもっともです、先生。でも…、」
そこで体育の先生は俺の方に向き直る。
「ところで二階堂君、私は体育の教師で他の教科に詳しくはありませんが、あなたは最近まで、どこか覇気がないように感じていました。」
うわっ図星だ。と俺は心の中で思う。
「でも今のあなたは違います。それは最近上がってきたあなたの成績だけを見てそう言っているのではありません。今のあなたには、『大切なものを守りたい。』という、意志が感じられます。
そしてその『意志』があれば、これから先の受験勉強、いやそれだけでなく、あなたが卒業後の人生で困難な状況に陥った時も、あなたは道を間違えることはないでしょう。
いや、少し言い間違えましたね。二階堂君、誰だって道を間違えることはあります。でも大事なのは、今のあなたが持っているような『強い意志』です。その気持ちさえあれば、たとえ道を間違っても、すぐに軌道修正もできます。
そして何より、あなたの人生を、あなたらしく生きることができるのです。
ところで二階堂君、あなたは医学部志望らしいですが、将来の夢はありますか?」
「はい、先生!」
そこまでの先生の話を聞いて感動してしまった俺は、風花のこと、そして将来は眼科医になりたいことなどを一気に話す。
「そうですか。それは良い志ですね。
先生方、これが二階堂君、いや他の生徒も含めた、若い人たちの意志です。我々大人は、その若者たちを応援し、導くことが責務ではありませんか?
それに、他校の生徒と交流を持つことも良い社会勉強になりますし、3年生にとっても良い気分転換になると思います。
この二階堂君の申し出、受けてもよろしいですか?」
するとたまたまそこに居合わせた校長先生が、
「若いというのは素晴らしいですね。分かりました。場所は貸しましょう。」
と答える。
「その代わり二階堂君、そのイベントが終わった後は、受験勉強を頑張るんですよ。
医学部、現役合格を目指してください。」
「そうだ二階堂。成績を落とすようでは駄目だぞ。」
体育の先生がそう言い、そのすぐ後でさっき反対していた先生も付け足し、一応了承してくれたようだ。
「ありがとうございます!俺…いや僕、ライブ準備も受験勉強も、一生懸命頑張ります!」
そう言って俺は、職員室を後にした。




