落としたスマホ 五
…それよりも何よりも、と言うかその劣等感から物事はスタートしているのだが、俺はずっとブルーな気分で、虚しさを常に感じている。もちろん、俺には自殺願望はないが、「何のために生きているのか?」といった類の問いには、ずっと答えを出せないでいる。
「父さん、母さん、ただいま…。」
それは、学校に通い、その後塾に通って家に帰ってきたとある日のこと。
「おう、おかえり正人。」
「おかえりなさい。ご飯、できてるけど。」
俺は父、母にそうあいさつし、両親も何気なしにそう答える。
そして、俺は母の作った料理を食べる。
そこで…、
「正人、最近学校や塾の成績はどうだ?
ちょっと、たるんでいるんじゃないのか?」
俺は、父にそう訊かれる。
「え、いや、その…。」
「父さん、正人に限ってそんなことはないわよ。
ちょっと調子が上がらないだけよね、正人?」
「え、あ、うん…。」
繰り返しになるかもしれないが、俺は中学時代に比べて、高校での成績は明らかに落ちている。しかし俺の両親は、
『それはたまたま。高3、受験生になれば、正人は中学時代の時のような好成績を収めることができる。』
と、思っている節がある。
「でも正人、お前はもう受験生だ。だから本腰を入れて、勉強しないといけないんじゃないのか?」
「だから父さん、正人もそれぐらいのこと、分かってるわよ、ね?」
「うん…。」
その時、俺は叫び出しそうになるのをこらえた。
「分かってるならいいんだが…。
お前はうちの『二階堂病院』の大事な跡取り息子なんだ。だからしっかり勉強して、医学部に入って医者にならないといけない。
もちろん一浪するくらいは構わないんだが、できれば現役で医学部に入って欲しいしな…。」
「大丈夫よ父さん。正人はやればできる子なんだから。
ねえ正人?」
「分かった、父さん母さん、俺、いや僕頑張るよ。」
俺は自分の気持ちを押し殺し、そう両親に告げる。