落としたスマホ 二
「入学おめでとう、正人。」
「これからも、しっかり勉強するんだぞ。」
その高校の入学式の時の両親の顔は、息子を本当に誇りに思う顔で、俺はそんな両親と自分自身を、誇りに思っていた。
…しかし、高校生活は、そんなに甘くはなかった。
もちろん高校に入ってから、俺には友達はできた。そいつらは本当にいいヤツらで、例えばカラオケやボウリングなど、一緒につるんで遊ぶことも多かった。それに、(他の人は知らないが)俺はいじめのターゲットになることもなく、青春まっただ中を走っていた。
それに関連して、俺には高1の時、彼女ができた。その子は本当にかわいい子だったが、高2に上がる頃、「他に好きな人ができた。」と言って、振られてしまった。(そして、それ以降俺には彼女はできていない…まあ振られた時は傷ついたが、今となってはそれもいい思い出だ…俺はそう思えるようになっている。)
そう、俺の今までの高校生活は、順風満帆に見えるようなものだ。少なくとも、他人から見ればそうであろう。
しかし、俺の内面は、違った。
そのきっかけは、高1の秋ぐらいだったであろうか?そして、その気持ちを一言で表すならば、「劣等感」という言葉だ。
繰り返すが俺は中学時代トップクラスの成績で、高校は地元一の進学校であった。
そして、クラスメイトたちはみんな勉強ができた。
そう、そのため俺は、高校ではトップクラスの成績を収めることができなくなっていた。
最初のうちは、それでも良かった。
『ここは、地元一の進学校だ。トップクラスの成績が出せないなんて、当たり前だ。
それに、俺は中学時代、特に高校受験の時は精一杯勉強したんだ。だから…ちょっと遊びてえな。』
俺はそんな風に思い、成績のことを深刻には考えていなかった。