第1部
リハビリ小説です。
たぶん、続きます。
よろしくお願いします。
喧騒の中を私は一人歩いている。私を機に留める者など誰もいない。
何故か? 私は死んでいるから。
若者たちの活気に溢れた声、老人たちの他愛もない談笑、けたたましい工事の騒音。その他全ての物事が私の五感を刺激する。
不思議と嫌悪感はない。まだ息をしていた頃は嫌で嫌で仕方なかったのに…
死とはそういう類のものなのだ。
死とは私という人間だったものを救済してくれる唯一の存在だったのだ。
話は少し前に遡る。私はとある大学で生物学を専攻していた。特段、生物が好きというわけではなかったが、高校時代の数少ない友人の一人に土下座までされては、無下に断ることもできず、流されるままに生物学部に入ってしまった。
友人は勉学よりも男遊びに余念が無く、いつも男の話ばかりを私に聞かせてきた。辟易しつつも、度重なる猥談を聞いているうちに私の心にも、性への渇望のようなものが湧き始めるのがわかった。
異性とは関わりを持たず生きてきた私にとって、それは青天の霹靂とも言うべきものだった。友人曰く、私は男が好む体付きをしているらしく、『勿体ない、勿体ないよ! 遊べるのなんて大学までなんだから早く男作りなよ』なんて軽口を叩きながら、両胸を鷲掴みしてくる。触れられる事には特段何も感じないが、言っている事については判らないわけでもない。
人生は短い、いのち短し恋せよ少女とはよく言ったものだ。私は早速、行動に移ることにした。