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地味な彼女を食べてください  作者: くるまふ
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地味な私とアイドル生徒会長

寒かった長い冬が終わり、少しずつ暖かくなっている。

今年、高校一年生になる女の子がいた。黒髪ロング、丸メガネ、背は低く、細身である。大人しく、地味な見た目。彼女の名前は「神凪 亜沙」。


新しい制服に袖を通し、ため息をつく。


「面白いことが起きればいいのに」


つまらなそうに、小さな声で呟いた。

一人っ子。両親は、事故で死亡。それまで祖母に育ててもらっていたが、今年から一人暮らしを始めるのだ。


初登校。彼女にとって、それが憂鬱だった。初めは休もうかと思っていたが、何を思い立ったか、カバンを肩に下げ、黒い新品のローファーを履き、築何十年かのアパートを出た。


「この場所で、この学校で何か面白いことが起こるかしら」


そうやって何度も呟いていた。気づけば、正門前。躊躇いながらも1歩を踏み出したその時、「ドンッ」。

後ろから走ってきた新入生にぶつかられて、亜沙は倒れた。さっきの女子生徒は、とある集団というか、群れというか、そんな人集りに吸い込まれるように走っていった。よく見ると、その人集りは、女子しかいない。誰か有名人がいるのだろうと予想したが、外れた。その集団の一人の生徒が言った。


「晃誠先輩カッコイイー」


晃誠?先輩??亜沙には分からなかった。

倒れた亜沙は動けなかった。気づけば、左脚から血が大量に出ていた。集団の中から一人、男子生徒が出てきて、亜沙の方へ歩いてきた。


「大丈夫ですか?保健室へ行きましょう。さぁ、乗って」


亜沙は目立つことが嫌だった。とっさに


「嫌です。1人で行けます。」


亜沙は立ち上がって、左脚を引きずりながら歩いていった。


「保健室の場所は分かるかい?」


新入生にとって一番聞いてはいけない質問だ。


「えっと、靴箱入って左…の」


「そこは事務室」


「じゃあ、右に2回曲がって…」


「それは職員室。もういい、背中乗れ。連れてってやる」


他の生徒の目が痛い。ずっとこっちを睨んでくる。私の学校生活は、これで終わったなと思った。


「次は、生徒会長挨拶。生徒会長の飛田くんお願いします」


そう放送があった。教壇に上がったのは、見たことある男子生徒。私を保健室に連れ行ってくれたあの男子生徒だった。彼の名は「飛田 晃誠」。サッカー部キャプテン、頭も良く、容姿も文句なしの学校のアイドルだ。そんな人におんぶして保健室まで連れていってくれたと考えると、亜沙の頭の中はパンク寸前だった。何故、私を助けてくれたのか。分からなかった。


一番怖いのは、この学校に知り合いがいないせいで、生徒みんな、問い詰めてくる。私はそれが嫌だった。次の日から、生徒会長の飛田くんは私に声をかけるようになった。


「おはよう。そう言えば、君の名前は?新入生だよね」


「えっと、「神凪 亜沙」です。それから、私には関わらないでください。お願いします。」


「どうして?あ、もしかして好きな人いるとか」


「そんなんじゃないです。周りの目が嫌なだけです。それでは」


そう言って、早足で教室に向かった。今日もクラスのみんなと話すことなく一日が終わった。


「あ、いたいた。亜沙ちゃんだったよね。」


私の目の前に例の生徒会長がいた。


「またあなたですか、いい加減にしてください。」


「連絡交換したい。」


「部活はどうしたのですか。」


「今日は休みだ。ちょっと付き合ってくれ。」


私を連れて、学校近くのカフェに行った。なぜ、ついて行ったのだろう。中学まで、誰からの誘いも断ってきたからこそ、分からないことが多い。


「俺、好きな人がいるんだ」


「だからなんですか。私には、関係ないです」


「関係あるさ。一目惚れだったんだから」


「それとなんの関係があるんですか?私に相談しても何も出ないですよ」


「入学式の日、保健室に連れていった子だからね」


一瞬にして、亜沙の顔は驚いた表情になった。学校のアイドル、飛田晃誠の好きな人が「私」って言ってから。


「俺、本気だから。嫌だとは言わせない」


「強制ですか。嫌と言ったらどうしますか?」


「亜沙ちゃんの家に押しかける。いいよって言うまで」


「それは困ります。一人暮らしなので。私は静かに学校生活を送りたいのです」


もう既に、入学式の日から問い詰められている。だからこそ、これ以上のことは嫌なのだ。


「何してるのですか、先輩」


「君の写真。彼女って言えば、それで済む」


「そういう問題ですか」


「これでもう俺の彼女だ」


「まだ答え出てないです。」


「俺が幸せにする。絶対好きにさせる」


亜沙は、無表情だが、先輩の気持ちは本気だと感じていた。


「分かりました。期限は3か月ですよ。それまでに私が好きって言わなかったら、付き合いません。」


「分かった。約束する。」


カフェから出ると辺りは真っ暗だった。時刻は19時を回っていた。家まで送ってくれた先輩にお礼を言い、その日は別れた。


次の日、学校に行くと、先輩はほかの女子生徒から問い詰められていた。


「どうして、あの新入生なの」とか


「私の方が可愛いのに」とかだ。


その度に先輩は


「亜沙ちゃんの方が可愛いし、君たちはその良さを知らない」


って言うんだ。まぁ、彼氏にしたらいいんだろうけど私は苦手だな、と亜沙は思った。


「亜沙ちゃん、一緒に帰ろう。家まで送るよ」


誘ってきたのは、やっぱり飛田だった。


「あんたかよ。あんまり私のこと言わないでくれる?」


「先輩に向かってその言葉は良くないね。お仕置きが必要かな。」


「は?」


「明日、俺と喋る時は、語尾に『ニャン』を付けること」


ニャンなんて、私のキャラに合わない。敬語を使うのは、苦手だ。それに、先輩は一応仮氏で、敬語使わなくてもいいと思っていたが、先輩は先輩だ。しかも生徒会長。ちゃんとしておかないと罰が下る。


この時のお仕置きはまだ可愛かった。入学式前に呟いた「面白いことが起きたらいいのに」と願っていたことは叶うのだろうか。

これから亜沙にどんなことが起きるのだろうか。まだ知らなかった。

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