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第一話 「影流たちは異世界に飛ばされたらしい」

「あぢぃーなあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーまじ〇ねファ〇ク」


 8月20日。

 都内アパートの一室にて、胡坐をかいた体勢で、ゲームのコントローラーを持ち、邪魔な前髪を視界に入らないようにタオルでおでこ回りを巻き、とっくに食べ終わったアイスの棒を噛みながら、一人暴言を吐き叫んでいる少年がいた。


 彼の名前は小室(こむろ) 影流(かげる)絶賛独り暮らし中の17歳引きこもりニート。


 影流は夏休み限定の引きこもりニートではない。


 というか、もしも仮に影流のためのカレンダーを用意するなら、毎日が赤で染まってることだろう。


 高校にも行かず、去年の10月には両親からも完全に見捨てられ、両親に一人暮らしをされるならまだしも、しまいには家を影流にはわからないところに引っ越し、携帯電話番号すら変えてしまう始末だ。


母が残した最後の言葉は___


「今からニ年間分だけの生活費しか払わないから!このバカ息子!これが私の子供って思うだけでも恥ずかしいわ!!!」


 影流が高校に通わず引きこもりを始めてきてから何度も見てきた母の憤怒する顔だったが、今日は少し違和感を感じた。


 母の顔を見て、なんか蔑むような、もう影流を息子として見ていないような、そんな違和感を彼は感じた。


 高校にも通わず、自室のモニターの前でゲーム生活をしていた当時の影流は一瞬ですべてを悟っただろう。


『これはガチの眼だ。ちょうど二年が経ったら、電気は止まり、水道も止まり、そこで俺の人生は詰む』


 恐怖のどん底に立たされた影流だが、言ってしまえば二年分もの生活費を払ってくれるってことは、まだ両親は自分を自分の子供だと思ってくれてるのだろう。


 そう都合のいいことを考えて『本当に実の子供を見捨てる親がどこにいる。アニメの世界じゃないんだから』と余裕全開で両親から追い出され、独り暮らしの幕が上がった。


 数ヶ月後、影流はなんとなく一旦母の機嫌取りとして、両親からの仕送りの金で買った少し高い化粧水を片手に家に赴くが、表札に書かれてるはずの『小室』という文字がなかった。


 というか表札すらなかった。


 家のチャイムを何度か押してみるが、人が出てくる気配がないので、最後の手段とポケットの中からスマホを取り出し、母に電話をかけてみる___


『お掛けになった電話番号は現在使われていません』


「はぁ?」


 思わず化粧水が入った紙袋が力が抜けていくように左手からずるりと落ち、口から出てしまった間抜け言葉は意識して発っせられたものではないから影流自身気付いていないだろう。


 しかし、耳元から流れる少し不気味な機会の声だけが現実との命綱。


 そこで影流は本当に(・・・)すべてを悟った。


 とまあそんな感じで今に至るわけなのだが、影流はそんな出来事があったにも関わらず今日も今日とて引きこもりニート中。


 あれから家に戻った影流だったが、『二年もありゃ何とかなるだろ。とりあえず今は今を楽しもう』と完全に余裕をこいているわけだが、これが一般学生の夏休みあるあるになる未来もそう遠くはない。


 『まだやらなくても大丈夫』の積み重ねで、気付いたら8月31日で慌てて課題をやろうとするも間に合わない。


 何万人もの学生がこのような体験をしたことだろうか。


 しかし、影流にとっては代償が違う。


 先程の例ならば、学生たちは怒られ成績が少し下がるだけで済むのだが、影流の場合は人生が終わる。


 と言ったように、影流は『まだ大丈夫』を積み重ねていくと、確実にそこで人生のゲームオーバーの文字が現れるだろう。


「さてと、飯でも食いますか」


 影流はコントローラーをその場に置き、めんどくさがりつつも立ち上がって冷蔵庫に向かう。


 冷蔵庫を開けると見事なまでに何もなく、その場にうなだれる影流だが、腹の空腹を満たさないとそれこそ死にそうなので、財布を持ち、コンビニに行く。


 玄関を開け、外の地獄を目の当たりにした影流は、その場にい立ち尽くす。


 太陽はまるで外にいる人々を焼き尽くしてしまうんじゃないかと思うほどに照り付け、10分その場に直立不動で立っているだけでも熱中症になってしまうほどの暑さだ。


「あ……?」


 アパートから眺められる景色に視線が向いていたので、ふとした拍子に視線が足元にいくと、そこには金髪碧眼のロリがじっと影流の方を見ていた。


 しかし、異様なのはその格好。


 その小さい体には似ても似つかない鉄の鎧を身にまとっていて、腰には彼女の背丈より長い剣を提げており、右手には体全体を守れそうなほど大きい盾を重そうに持っていた。


 何のマネか知らないが、とにかく中二病をこじらせた小学生ということで影流は一人納得していた。

 

「俺は早く飯が食いたいんだ。そういうごっこ遊びは他をあたってくれないか」


 さも痛々しい碧眼のカラコンを入れたであろう眼を見るたびに「可哀想な子だな~」とこの子はもう手遅れだと思う影流だが___


「ごっこじゃあありませんなの!今異世界に飛ばされてきたなの!ここは………どこなのっ……!」


 最後は涙目で訴えかけてきたが、異世界ってここのことか?と内心わけのわからないことを言われて戸惑っていた影流だが、そもそもこの子は完全に自分の世界に入り込んでしまった中二病の小学生なのだと再認識して、彼は適当に受け答えする。


「そうかい、それが知りたかったらそんな装備外してまともな服を着て学校に行くことをお勧めするよ」


「ほんとうなの!……………ほんとうなの……ほんとうなの………神様おねがいなの……この状況をどうにかしてなの………」


「え……………?」


 すると、影流の視界がゆがみ、すると瞬間、浮遊感を覚え、

今自分は落下していることに気付く。


「うわあああああああああああああああああ!!!!!やめてえええええええええええええええええええええええええええ!!!!!落ちるうううううううううううううううううううう!!!!!!!死ぬうううううううううううううううううううううう!!!!!!!!」


「きゃあああああああああああああああああああああああなのおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!死んじゃうなのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!神様おねがいなのおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 影流たちは喉がつぶれてしまうほど叫び、しかし落ちる速度がますます早くなっていく。


 そして、ただただ恐怖に怯えていた影流たちは地面に衝突し……………………なかった。


「へ………?」


 確かに今衝突したはずだが、影流はもちろん少女の方も無傷できょとんとした顔が窺える。


 そもそも、衝突した衝撃すらなかったのだ。


 つまり、衝突する寸前に止まった。


「どうなっているんだ?」


 しかも、影流は辺りを見渡してみても見もしたこともない街が広がっていて、頭が追い付いていってない。


 それは中二病小学生も同様で、何が起きたのかわからず、頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。


 しかし、今起きた急に視界がゆがむのと、衝突しなかったのに共通点があることに影流は気付いた。


 そう。少女が言っていた『神様おねがいなの』。


「お前、何をした?」


「わたしはなにもしてないなの!ただ、今の状況がどうなっているかわからないなの………」


 急に起きた出来事に理解が追い付いていない彼女を見ると、自覚していないということなのか。


 しかし、彼女が『神様おねがいなの』と言ったことによって起きてしまったのは間違いないと確信づける影流だが、そもそもこんなことが現実世界のごく普通のニートが巻き込まれていい問題じゃない。


「こんなことが起きている時点でおかしいだろおおお!!!なあ中二俺をつねってくれ!!早く!!!」


 わけがわからなくてとりあえず叫ぶ影流に恐る恐る近づく少女は___


「じゃあ失礼しますなの」


「痛いいいいいいいいいいいいい!!!どうなってんだこれは!!!!!!」


 悲痛な叫びとともに影流はそのまま気絶してしまった。


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