安心した夜は裏世界で買えますか?
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今までは私のものだったのに。その位置も、声も、優しさも、全て私が最初に惚れ込んで独占できていたのに。
今ではその隣にヘライト様がいた。その位置も取られ、声は、優しさは、全てヘライト様にかけられている。
「マキナ様、湯浴み終わりました。空腹が襲う前に寝ましょう」
「うん、そうですね。空腹は来る時は来るけど……先に寝た方がいいですもんね」
本当は起きてこの時間をゆったりと過ごしていたい。前世だったらいくらでも起きていられたし、誰かに襲われる心配も正直あまりしていなかった。
しかし今世は矢張り敵が多い。そして強い、体力もある。転生したからと言って私の病弱体質は少しも変わらない。
足が速くても持久力が無ければ意味が無いのと同じように、どれだけ強くても病で倒れたりしたら私は今度こそ見限られる……かも。
「ノア」
いつもなら何か言葉が続くのに、何もない。私の名だけを呼んで、ああ、もしかしたら今考えていた悪夢が具現化してしまうのかも。
「見限らないからね」
「……え? あ、あの……ど、どういうこと」
「だから、何があっても、貴方がどんなに弱くなったとしても、私は貴方を捨てたり見限ったり殺したりしない」
心臓を強く掴まれた様な気がした。そうやっていつも何気ない顔をして私を堕としていることを彼女は知っているのだろうか?
不安にならないで、といつもの様に抱きしめてくれる。こういう所が子供っぽいのだろう。
マキナ様の温もりを感じながら長い髪を緩く結んでいると、くすくすと笑われる。
「何だか女の子みたいだね。それくらい可愛い」
「男です……身長だって貴女よりあるんですよ、体格だって」
「って言っても男性の中では細い方でしょう。かっこいいと言うよりは美人」
どれだけ日が過ぎてもその評価は受け入れられない。可愛い、美人と言うのが褒め言葉なのはよく分かっているけれども、好きな人には格好良く見られたい。
緩く結んだからか、長い髪は一箇所にまとまっただけで長さが少し短くなったりはしなかった。
「ならば、どうやったら、かっこいいになれるのですか?」
自分で思ったより拗ねた声が出た。子供っぽく、可愛く見られたくないと思った次の瞬間に拗ねていたら、この性格は定着してしまう。
「そのままが一番」
「でもそれだと可愛いのでしょう? 美人も嬉しいですが、私は――」
「そんなに気にしなくても、私を守ろうとした姿は凄くかっこいいよ。だから、私はちゃんと貴方を見ているから安心して」
そう言ったら私が何も言い返せないのを知っているのではと思うくらい、マキナ様は私の心を見透かした発言しかしない。
そういう優しい所に依存しているのも知らないで。




