記憶力っていくらで買えますか?
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「なっ――温めるって」
「だって目の下のクマがゲームより酷いんだもーん。そんなんじゃあ主人公ちゃんが来た時大変でしょ!」
たまたま持っていたハンカチをお湯に濡らす。
幸い、この国はよくできてるから外の水道からも温かい水と冷たい水が出せる。
便利。めっちゃ便利。
「ほら、簡単だけど落ち着くでしょ! 私天才だから!」
温かくなったハンカチを目の所に当てる。
……あ、やべ。台本の存在、完全に抹消してた。
「し、しばらく当てておいてね?」
「……はい」
相手が混乱してるのをいいことに、すぐさま台本をめくる。
――ダメだ。どこを探してもない。
台本にのっているのは【マキナが人で混雑している所を闊歩する】ルートだけ。
本来はそうなんだ。ああ、どうしよう、取り返しのつかないことを……。
「聖地巡礼なんかしたからだ……」
「あ、の……私、何かしてしまいましたか?」
「ちゃんご飯食べてないでしょ。絶対食べてないでしょ」
「それがなんですか? 私を殺したいのなら、早く……」
「それがダメなんだって!!」
自分でも驚く程の大声が出た。
そして私はノアの方をがっしり掴んだ。
「貴方はね!? 貴方はこれからとんっっでもねえ美少女と恋に落ちるの! 誰も邪魔なんてできないくらい愛し合うのおおお!!」
「何言ってる、か、分からな」
「分かるな感じろ、分からなくていい感じろ。想像してみな? これから貴方は素敵な
恋に落ちるの」
「あ、え……」
「でもね、私は貴方とは関わってはいけない存在。教えられるのはここまで」
彼の肩から手を離す。目の前の彼はまだキョトンとした顔だ。
でも、それでいい。そうでなければダメなの。
「じゃあね……私の推……じゃなくて、ノア様」
「な……あの、ハンカチ……」
「あ、それ? ……燃やしといて! ごめんなさい!」
多分もう少しで主人公、エクシアが来る。
でも、ノアのクマの濃さはゲームと同じくらいにできた……のか?
クマの消し方なんて学んだことないよ……。
――――
「……わわっ! こんな所に人……? あの、顔色悪いですけど、大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫です。初めて、私のこと、気にかけてくれる方がいたので」
「ふぇ? 私が初めてなんですか? 今まで辛くなかったんですか?」
「いえ。貴女の様な方ではなく、もっと綺麗で、温かくて……また会えるかな」




