幼少期の記憶って意外と大事だから買えますよね?
・
「貴女の部屋にはいつも一冊の本が置かれていた」
「そして貴女はそれを盗み見るような動作で読んでいた」
「だから、私達も全て読みました」
「アイツと結婚して、盲目的な愛に溺れて、貴女を惨殺して……」
私達の知らない世界でした。でしょうね、私だってing、進行形で分かっていないもん。
ルートが変わったせいでモンスターの出る幕はなかった。エクシロセス? だったっけな、の、存在も薄くなった。
結局、何を考えても今の私にはこれから死にゆく自分に対して十字を切ることしかできない。
「そんなことになるくらいなら舌を噛みちぎり喉を掻き破り胸に刃を突き立てて死にます」
……結局、今の私にはバイオレンスを極めた発言をしたノアを見ていることしかできない。したくない。
「惨状が私達を喰い殺す前に、私達がここから逃げましょう。そして、新しい世界で平和に生きるのです」
「私の意思は?」
「尊重も扱いも参考にもしません」
要は死ねと。
どうでもいい話だけれど、トラックに跳ねられて死ぬ瞬間はどんな快楽にも勝ると信憑性の欠けらも無いような話を聞いたことがある。
死んでやるからトラック持ってこい。ああでも、安らかに、眠るように死にたい気持ちもある。
「……もう、お話はこれくらいにしましょうか」
「え、いざとなると死にたくないんだけど」
「大丈夫、一瞬だけの痛みですから」
短剣を取り出し、私の方に向けてくるヘライト。
「死ぬ時くらい、マキナ様のこと独り占めさせて下さい」
「マキナ様が認めても私が認めないので」
「……これ以上敵は作らないことにします」
そう聞こえた途端、胸のあたりが熱くなった。感情的な意味ではなく、実感、体感として。
良く磨かれた鋭利な短剣の先が、私の胸を貫通した。殺す時は躊躇なしなのね、一気に呼吸が困難になる。
それに続くように、二人も自分の胸を切り裂く。私は倒れ込んだが、二人に両側から抱きしめられたため、ぐたっとした体勢にはならなかった。
ベッドで眠る時の配置と同じ。またこれも夢なのではないか。
「……ま、た……え……る…………」
ノアが何かを言ったが、酸素のない声は鼓膜に届きにくかった。
力を振り絞ってヘライトの方を向くと、目を閉じて、私の肩の辺りに頭を預けていた。震える手で頬に触れると、いつもより少し冷たかった。
やがてノアも動くことはなくなった。
――こういうときって最初に死にたいよね、私、最初に刺されたのになあ……。
おやすみなさい。
――――
瞼の外側から光が漏れている。何が何でも起きろと神が瞼をぺしぺししている。
まあ、起きたところでもうあの美少年達はいない。きっとどこかで――
――ん? ん? ここ、どこだ?
「マキナ! いつまで寝てるつもり!?」
「時計が壊れるまで……」
「あと五年も寝るの!? ……もう、今日は大事な日だって言ったでしょう」
「――ね、ね、ここ、どこだっけって言ったら……どうする?」
そう聞くと、「医者に見てもらうね」と即答。
辺りを見回せばちょっとお金持ちな庶民の家。母親の顔は見知らぬ人。
赤ん坊の頃なんて知らない。ここがどこの国なのかさえ知らない。
ただ一つ言えるとしたら――。
「今日は王様とノア王子とヘライト王子が見れるかもしれないから、早く街へ行きましょう?」
「お母さんって……美少年好き?」
「好きな訳がないでしょう! ほら早く準備して? マキナもきっと惚れるから!」
二人は兄弟に転生していたみたいだ。あーらら。
でも、ノアは第1王子になれて周りに気にかけて貰えるようになったし、ヘライトは第1王子である責任から解放された。
うん、結果オーライとかいうやつだな。ところで、ここってどこ?
――――
「まさか貴方の弟になるとは思いませんでした」
「私も、第1王子になれるとは知りませんでした」
「……マキナ様、ここじゃない、どこか遠くで暮らしていたらどうしましょう」
「その時はそこへ行くまで……ひとまず、この国の中にいるかもしれないから探しましょう。広いけど、その分確率はあるのだから」




