進展は今日中に買えますか?
・
「楽になりました?」
「ええ、何とか……こんな遅くに申し訳ありません」
「大丈夫ですから。ほら、戻りましょう。寝不足になって疲れたら嫌ですし」
ノアは小さな頃から劣悪な環境で育ったから、身体が弱いのも無理はない。けほ、と一つ咳を零した。こりゃ完全に風邪だな。
髪をかき分けて背中を撫でる。困ったら背中撫でとけと言わんばかりに撫でていると、ゆるりと手を掴まれた。
「どうしました? やっぱり効きませんでした?」
「ちがう……そういうこと、ではなくて」
「あ、それかなり眠くなるやつだから……眠たくなったとか? じゃあ、早く戻らないとですね」
「……んんう、わかりました」
目を擦るノアはいつもより大分幼く見えた。私がやると可愛子ぶってる痛い奴なのに。ああそうだ、扉の向こうにいる彼にも声をかけないと。
「ヘライト様も行きましょう?」
ついてきてたみたい。心配だったのかなあ、ノアのことが。
「狡い」
「狡い? 何がですか」
「ずっとノア様に構って、私のこと嫌いになりましたか」
さっきの様に愚図り出してしまった。私ってば酷い奴だ。再放送してしまうなんて。
「えっと、ノア様が風邪をひいたから……」
「……なら、今度私が病にかかったとき、ずうっと傍に居てくださいね」
「そうだ、マキナ様、私にも所有印付けて下さいね」
怒涛の約束攻めである。なんだこれ、こんなこと私にされても流石に嫌でしょう。
年頃の男子の扱いは未だに慣れないのでとりあえず手を繋いでおく。これは子供扱いに入るのかな。
「マキナ様の手はやはり温かいですね」
「そうかな……あ?」
まさかまさかの急展開。前方には見たことのない人影が。体格からして女子だろうか。
盗人? 殺人鬼? それとも……考えたくもない。月明かりに照らされてはいるので影はついている。よかった人間か。
いやよくない。見たことない人だもん。つーかあれ? 「トリップして来ちゃった系チート美少女」パターン?
このままだと本当に悪役令嬢と結ばれるから神が救済入れた感じ? 嬉し悲しいかな。なんかここまで来たら嫌われたくない気持ちがある。
「ね、二人共……」
「なんですか? 目の前の奴、殺しますか?」
「それとも炙りますか?」
「いや、そういうのじゃなくて……何があっても、知人では居てくださいね」
保険かけておこう。どうせもうすぐ消えようとしていたのだから。
さ、涙は胃に戻して前に行こうか。二人から手を離して、先にその人の元へ向かう。
「あの、大丈夫で――」
「命を懸けてストーリーを戻そうとしたのは素晴らしいけど、君が死んだら二人が後追いしてくるから気を付けてね」
「え。なんでそれ知って」
私より背丈の低いその影はあっという間に消え去った。え? こういうのってライバル登場じゃないの?
というか、あの人が神? 全てを見据えている様な感じだったし……あ、意外と軽いノリで来るのね。
「なんだ、幽霊じゃないだけよかった」
「マキナ様」
「はいすみません取り乱し中でした」
「――私達は、何があっても貴女について行きますから」
何があっても、と怪しい雰囲気を漂わせて言ったヘライト。ヘライトがこんなこと言うだなんて珍しい。
でも、バレてるとも取れるような発言。マキナちゃん不安。




