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台本を装備した悪役令嬢があらわれた!  作者: ぱつぷぇ
台本の中で狂気を綴ることはできない
30/103

意識はどこで変えられますか?




「お嬢様……二階は空き部屋が沢山ありますよ」


「貴女まで私を裏切るつもり?」


「いえ……ただ」



 第三者から見たらベタベタし過ぎなんです。なんて言ったら首が飛び、心臓が窓を突き破ることになる。


 まあ、主が初めて連れてきた方が王子という時点で心臓の時が止まった気がしたけど。


 何もそれだけではない。最初の頃はわがままばかりのお嬢様が、突然周りをよく見る聡明な方になった。



 もしかしたら王子と仲良くなったから、なんて思ったけれど、初めて行く国の王子と前から仲がいいなんてことはない。



「あ、そうだ。私も寝たいからお風呂入ってくる。二人の面倒よろしく!」


「えちょ、ま、お嬢様!? 無責任じゃないですか? 私メイドを除けばただの庶民ですよ!?」



 やはり変わっていないかもしれない。根は昔のお嬢様だ。


 まるでいいことを思いついた子供のような笑みを浮かべ、鼻歌交じりに部屋を飛び出した。部屋の空気が一気に圧縮された。



「……眠れないなら、無理に寝なくてもいいと思いますが」


「私の前では演じているかもしれないでしょう」


「へえ、信じてないんですね」


「敬意のかけらもないメイドですね」



 お嬢様の悪さが乗り移りました。と言ってやろうと思ったが、多分この二人の思考回路はおかしいだろうから何も言わない。



 お嬢様の悪さが移る = 悪さが移るくらい一緒にいる = 自分よりも硬い信頼関係が築かれている可能性 = 敵 = 抹消


 そんな式が成り立った暁には私の名前がこの屋敷から消えるだろう。



「ヘライト様……でしたか? メイドに何かトラウマでも?」


「それが原因でここに来たのです。もう、あんな甘ったるい場所には帰りたくない」


「有名ですものね。ルノマースのメイドは狡猾な猫のようだと」


「ええ、お陰で呼吸ができなかった。ベッドにマーキングをされてしまいましたから」



 「まあ、マキナ様のベッドやソファに自分の香りをつけようとしている私が言えることではありませんが」と爽やかな笑顔で言い切った。



 メイドが主人に似ることもあれば、主人がメイドに似ることもあるらしい。


 前にお嬢様がヘライト様のことを『うさぎみたい』と仰っていた……が、どうしてもそうには見えない。



「マキナ様も私の香りになればいいのに……」



 いつもマキナ様に少し冷たく当たっているヘライト様も、本人がいなくなった途端に目の光を消し、熱に浮かされた様な顔をして、熱っぽい息を吐く。



 そこら辺はうさぎだと思う。何か抱えてそうで可愛くはないけど。



「ノア様はここで暮らしますか? マキナ様は大歓迎ですが」


「でも、貴女は認めないでしょう?」


「いえ、私は認めなくても受け入れる奴なので」


「……それならお言葉に甘えましょうか」



 目の下のクマはお嬢様が頑張って消したが、それでもまだ微かに残ってはいる。


 お嬢様曰く、城の者達から散々な目に遭わされていたらしい。傷の処置はしっかりとしたという。



「帰っても暴力三昧なのでしょう? 貴方達のどちらかが亡くなったらお嬢様がどうなるか分かりませんので」



「そうなのですか? マキナ様は、私達のことを必要としてくれているのですか?」


「ええ。いつも貴方達の話ばかりされてます」



 これは事実。いつも『可愛い』と愛でていた。私が呆れる程に愛でて、好いている。


 それを伝えると、二人は綺麗な顔を緩ませ「よかった」と安堵を示した。


 マキナ様はちゃんと二人のことを愛しているのに、何故こんなに不安になるのだろう。



 粗方、両親の教育と洗脳かな。それを何でかマキナ様が解いて、二人を元に戻した……はずだった。



「――なら、私達が王子でなくなっても、受け入れてくれますか」


「お嬢様のことですから、恐らく」


「――イロナ! ごめん、任せっきりにしちゃった」


「あ、ええ……大丈夫です」



 大丈夫ではない。二人はあの一瞬でいつも通りに戻った。流石としか言い様がない。



「……で、二人は、覚えてるかな。あの、私と結婚するとか何とか」


「忘れる訳が無いでしょう」


「マキナ様、離さないと仰ってくださいましたからね」


「……うん。……覚えてたかあ、そっかあ」



 ノア様とヘライト様が忘れるわけないでしょう。お嬢様、貴女と私が入れ替わることはこれからありますか。


 彼らの目は段々と薄暗く、据わっていくのを見たのはきっと私だけだったと思う。

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