選択肢って誰から買えますか?
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「……そうだ、メイドとかいないのかな」
できれば口の硬いメイド。誰にも情報を渡さないようなできたメイド。
悪役側にそんなのいるかってのは考えない。もしかしたらいるかもしれない。
そんな淡い期待を胸に廊下を早足で歩く。部屋の配置は知らない。
まあ適当なところ開いたらなんやかんやで着くでしょ?
「はーい、入りますよーっと……あり?」
誰もいない。真っ白な部屋。家具もないしホコリもない。
――なんだ、ただの空き部屋か。
最初からハズレを引くとは幸先が悪い。
大した収穫も得られそうにないので、さっさと出ようとする。
すると、何も無かったはずなのに、いつの間にか1冊の本が雑に置いてあった。
「嫌がらせにしては雑だなあ……」
床にあったそれを手に取る。表紙と思われる所には【悪女のすすめ】と書いてあった。
試しに1ページめくってみる。
――――――
【注意】
この本は所謂『台本』なる物です。
この世界を自由に遊んでみたい方、根がもう悪の方は読まないで下さい。
なお、『台本』のせいで酷い目にあったとしても知らないので。自己責任自己責任。
――――――
「なんかイラつく」
ありがたみの欠片もない。ありがたさを苛立ちが追い越した。
この責任感のない『台本』を信用できる訳がない。
でも、藁にもすがる思いとはこのこと、手段は選んでいられない。
そう、推しを見るまでは死ねない、死なない、死んだとしても蘇生してやる。
推し――ノア・アステリオ、一番闇を抱えている『このゲーム一番鬱くしい』と評判のキャラ。
20歳の悪役令嬢より1歳年下、主人公の2歳上。
第3王子としてあまり期待をされず自暴自棄になったり自堕落な生活を送ったり……。
ちなみに主人公と自分の邪魔をする輩を殺めたあとのあの笑顔は23枚くらいスクショした。
そしてもう一人の推し、ヘライト・プロクセス、実は一番嫉妬深い。
悪役令嬢より3歳年下、主人公と同い年。
ノアとは真逆で第1王子としての重圧が辛く、本当の愛が分からなくなってしまう。
主人公とは淡白に付き合っているが、裏では嫉妬のあまり主人公と関わった奴等を殺してしまう。
あの可愛らしいうさぎ顔と嫉妬深くて排他的な性格の差が大きすぎてもう……好き。
「はあ――っじゃなくてっ!! ああ危ない危ない。推しの尊さは永遠と語れるからなあ」
とりあえずしばらくの間はこの信用マイナス100の『台本』で何とか凌ぐか。