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台本を装備した悪役令嬢があらわれた!  作者: ぱつぷぇ
台本の中で狂気を綴ることはできない
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感情ってどの辺りで売れますか?




「ただ今戻りました……」



 ノア様はどう迎えられたのだろう。マキナ様がくださったぬいぐるみを両手いっぱいに抱きしめ、恐る恐る帰る。



「ヘライト! 心配したぞ。怪我はないか、具合は悪くないか!?」


「よく帰って来てくれたわ! もう誰も怒ってないから、安心なさい」


「は、申し訳ありません。ご心配をおかけしました。私はもう、大丈夫です」



 そう、大丈夫。私は大丈夫、両親からのふざけた教育から目覚めた。どれもこれも全部、マキナ様のお陰。本人の前ではこんなこと堂々と言えないけれど。



 マキナ様は私の目を覚ましてくれた、心からの温もりをくれた、私に心をくれた。


 自分でさえも人形の様に扱っていたこの身体を生身の人間として扱ってくれた。


 これを「洗脳」と呼ぶ馬鹿がいるかもしれない。大丈夫、私が望んだことだから。



「ヘライト、それはどうした?」


「……宝物です。世界一の」


「そうか……。私達にはお前が帰ってきただけで十分だ」


「――部屋に戻りたいので、ここら辺で」



 上辺だけの言葉がやたら寒く感じるようになった。父様が本当に心配していたかどうかなんて、弟の表情を見れば分かるのだから。


 でも、追い出されるよりかはまだマシだと思い、自分の部屋でゆっくり過ごすことにした。



「……気持ち悪い……」



 部屋に戻ると、やけに甘ったるい香りがしてきた。きっとメイドの物だ。


 その証拠に、先程すれ違う時にやたらこちらを見てきた。そんなに私に選ばれたいのか。



「マキナ様、婚約のこと覚えてるかな」



 香りを忘れるように、マキナ様のことを考える。ぬいぐるみからは相変わらず温もりと優しい香りがする。


 マキナ様とは婚約することになっていた。でも、マキナ様はエクシアと結婚しろと言う。私には貴女しかいない、貴女以外誰も必要ないのに。



 ドアが勝手に開く音がした。きっと先程のメイドだろう、私が何も起こさないから勝手に来たといった所か。



「ヘライト様……あの、紅茶をお持ちしました……」


「ごめんなさい。紅茶、苦手なので」


「ああ、そうだったのですね……そうだ、お菓子も持ってきました」


「甘いのは苦手です」



 毛ほどの興味もない奴から与えられる甘さなんて甘ったる過ぎて気持ちが悪い。それで私が堕ちると思ってそうな薄ら笑いも、気味が悪い。


 もう私は別の方に堕ちていると言うのに、何を狙っているのか……。



「ヘライト様……せめて、一口だけでも」


「気持ち悪い」


「……ええ?」


「メイドの仕事を忘れたのですか? 気持ち悪いです」



 換気は行っているはずなのに、息苦しくて仕様がない。マキナ様に会いたい、また抱きしめて欲しい、私のことを認めて欲しい。


 依存にも似た恋だった。しかし依存に恋愛感情は一切ない。


 ノア様と戯れあっているのを見て、どうしようもないくらいの黒い感情が体の奥底から湧いてきた。


 体が潰されるように重く、どんな香りよりも気持ち悪く、そして……自分がせいぎょできなかった。



「さっさと出て行ってください」


「……はい、失礼しました」



 不貞腐れた様に帰って行った。部屋には奴の香りが充満していた。


 ――もう耐え切れない。


 そう判断した私は、湯浴みを済ませ、身だしなみを整え、人として最低限のことを済ませた。


 帰ってきたばかりで悪いけど、この城は私には苦しくて仕方ない。そもそも、マキナ様と離れるだけでどうにかなりそうだった。



 廊下に出れば誰かと鉢合わせになる。私の部屋は高さがない。窓から出よう。


 ぬいぐるみをしっかり抱きしめて、窓から飛び降りる。この位では怪我はしない。



「……マキナ様は受け入れてくれるだろうか」



 こんなに醜い感情に取り憑かれたのは初めてのことだった。


 清廉潔白、そうなるように余計な感情は捨ててきた。なのに、マキナ様と会って、あんなに甘やかされて……別の心ができあがった様だった。


 段々と呼吸が苦しくなる。これくらいで息切れは起こさない、ならば過呼吸気味なのか。


 しかしこんな所で倒れても誰も助けてくれない。それなら、せめて、愛する人に会いたい。その一心で人気の少ない道を通る。



 暫く走れば、見たことのある屋敷があった。



「……っ、やっと、着いた……」


「え。なんで……ヘライト様、どうされたのですか?」


「……あ、マキナ様……っごめ、なさい……」



 呼吸が上手くできない。吸うばかりで、一切吐くことが出来なくなった。


 するとマキナ様があの日のように優しく抱きしめてくれた。



「ヘライト様、落ち着いて……吐くことを意識しましょう。安心して、私はここに居るから、何があっても対応できますよ」


「ごめん、なさい。……っめいわく、かけて」


「大丈夫ですよ。また余り眠れなかったりしたのでしょう?」


「ごめんなさい、ごめんなさい」



 幼い子供をあやす様に私の頭を撫でたあと、手を掴んで、「行きましょう」と屋敷の中へと連れていってくれた。


 私はマキナ様のそばにいるだけで心が満たされて、呼吸ができる。


 相当溺れてしまってるみたいだ。今更抜け出す気はないけれど。寧ろ居心地がいい。



「マキナ様……」


「うん? いかがなさいましたか」


「私のこと、受け入れてくれますか」


「勿論」



 抜け出す気はない。でも元から抜け出せない。


 マキナ様が私のことを認めてくれるだけ、私はどんどん深い所へ溺れて行く。

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