安眠って安く買えますか?
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「腕が……腕……私、腕あるよね……」
寝返りはできない、腕は動かせない。なぜなら両隣を塞がれているから。
しかし二人は久しぶりに睡眠を貪れたからか、規則正しい寝息を立てている。起きる気配は全くない。
「人形ってこんな感じなのかな」
真っ暗だから近くの物しか見えない。頑張って首を動かして辺りを見回す。
私の両腕は二人の枕になってしまっている。手首は動くので、頭を軽く撫でると気持ちよさそうに擦り寄ってきた。
擦り寄ってきたことにより頭の位置が少しずれたので、腕がほんの少しだけ楽になった。
「……まあ、いいか」
この痺れを忘れられるように強く目を瞑った――。
――瞑っただけ、そう、私は目を瞑ったまま何時間も過ごした。たまに寝られた。そして寝ては起き、起きては寝てを繰り返していた。
でも、この二人が起きるまで私は何もできない。腕枕状態は解けたけれど、下手に腕を動かして起こすことになったら申し訳ない。
折角ゆっくり眠れたのだから、今だけでも夢の中でのんびりと……。
「……マキナ、様……?」
「どうしたの、ノア……様……」
できなかったようだ。なぜ私が何かを願うとその真逆にことが進むのだろう?
しかも、ノアの薄くなったクマの上に涙が伝っている。私泣かした? 泣かしちゃった?
「何かしてしまったかしら。ごめんなさい」
「違っ……違います……マキナ様の、消える夢…………見た、から……」
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、と、おびただしい量の謝罪を述べるノア。
キュッと袖を掴んで心をくすぐってくるものだから、大丈夫だよ、とだけ返して心の中で発狂した。
「私は逃げないし離さないよ」
「本当ですか? ……私も離れません。ふふ」
私がする精一杯のかわい子ちゃんよりも可愛いらしい動作で甘えてくる。でも戦いになると別人になる。ギャップが凄い。
「――――ずるい」
急に力強く抱きしめられたかと思うと、一気にノアとは反対方向へ引きずられる。
「私も、もっと、沢山構って……」
「ヘライト、様……寝ぼけていらっしゃるのですね? そうですよね? ね?」
「寝惚けてなんかないです……」
蕩けた目でこちらを見つめてくるヘライト。普段の可愛さと違った、狙っていないであろう色っぽさが出ている。
目のやり場に困る。何でか鎖骨の方に目が行くんだ。
「ねえ、私も、離さな、でえ……」
「……ヘライト様、凄く眠そうなので先に私達だけ」
「それはゆるさない……」
「ちょ、ギブ、ギブ! そこ痛い所、痛いところ! ノア、助け、助けて――」
この子意外と寝起き悪い。ちょうど皮の薄い、押されると意外と痛い場所にヘライトの腕がグッと入っている。
腕は痺れるわ眠れないわ目のやり場に困るわ痛いわ踏んだり蹴ったりだけど、推しの意外な一面を見れるのはファンとして素直に嬉しい。
要は……踏んだり蹴ったり至れり尽くせり。よし、語感がいい。
「いつもいつもノア様ばかり……私だって、私だってえ……」
「うんうん分かった分かった。とりあえず私から離れようか」
「……離さないって言ったのに……マキナ様の嘘つき。ヘライト様もくっつき過ぎです!」
「…………あ、二度寝決め込んでやろ」




