主人公側との通じない会話が始まった!
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嗚呼、賞賛に値するつまらなさ! 安定して不安定で最高に最低な時間だ!
頬杖をつきながらため息を吐く。ノア様に至っては後ろを向き、窓を憂いげな目で見つめている。
『マキナ様の犬にして貰える』悦びと、『この姫の相手をしなければならない』という不満が混ざり合い、変な感情が湧き上がる。
目の前では私の父様と、ノア様の父様、そして……姫の父様が話し合っている。
「まさか2国同時に結婚して貰えるとは……!」
「いえ、その様な可愛らしい姫様と結婚させて貰えるとは、こちらこそありがたい」
「エクシア様、そう硬くならないでください。もう我等は家族になったも同然、遠慮は要りませんぞ」
父様達のベタ褒めに頬を赤く染め、恥ずかしそうに俯く姫。
そしてその仕草を見て、また「本当に可愛らしい」と声を漏らす父様達。
それを好機と見たのか、姫はこっそり口角を上げたあと、お決まりの様な台詞を吐く。
「で……でも、私なんかでよろしいので」
「よろしい訳無いでしょう」
「ヘライト! 口を慎め!」
口角泡を飛ばして私に叱咤してきた父様。確かに姫は私達に惚れている。けれど、私達は微塵も興味なんてない。
ふわふわとした長い髪、甲高い声、胸元と脚を強調したドレス、やたら私達に絡みたがる指、薔薇の香水のきつい香り……。
この愚痴を他人に言ってもきっと「長い」の一言で済まされてしまいそうだから簡潔にまとめると、
吐き気頭痛胸焼け過度なストレスによる苛立ちをもたらしてくれる存在。
「ノア様だって、嫌でしょう?」
「ええ、勿論。兄様の妻にすればいいものを」
「ノア、お前……!」
「父様? ここは私達だけの空間ではございません故」
何卒ご勘弁を、と、したり顔で言ったノア様。ここだったら無視されず、暴力も受けず……帰った後は知らないけれど。
「でも、ノア様と私は結婚に賛成していません。と言うより、できません」
「何故」
「心に決めた方が居るので。解らないなら何度でも言いますが」
「……それは何処の姫だ。お前達の容姿と智勇を無駄にする者ではないのか?」
「分からないです。ただ、私達の風化した心を助けてくれました」
「分からないだと!? そんな奴とこの麗しい姫、どちらをとるか、お前の頭脳なら解るだろう!?」
そう言われ思い出したのは彼女との記憶。
クリーム色の綺麗な髪、少し低めな聞き心地のいい声、飾り気は無いけど彼女の美しさを引き立てていた服、私に触れる事を躊躇った細長く温かい指……。
彼女に対する恋慕もまとめるならば、
いつの間にか体も心も全てを侵食していた、甘くて優しい毒。
あの僅かなやり取りの中で全て捕われた、一度手に入ったら二度と手放して欲しくない。
「――分からない。判らない、解らないです。私は貴方達の道具じゃない。もう貴方の理想を辿る人形ではない」
「私も、貴方を父親だと思ったことなどない。貴方が私を息子と見なさなかった様に」
ノア様と目で会話をする。こんなくだらぬ話を長引かせていてはマキナ様が帰ってしまう。
どこに住んでいるのかも分からないのに、目を離したら消えてしまいそうで……。
もう、身分なんて関係ない。周りの声に耳を塞いで、自慢の運動神経で城を出て街へ急いだ――。




