頭のネジとドライバーはセットで買えますか?
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「…………」
やんばい来ちゃった。やばい来ちゃった。当日が遠慮のない彼女の如く来ちゃった。
もう私記憶という記憶が無い。一週間くらい前に『台本見よう!』って言ってからの記憶が無い。
燃え尽きた。今日はマキナの痴態焼きの痴態ソースがけ~痴態を添えて~でお送りしちゃうよ。
嫌だそんなの。恥の2,3乗じゃないかそんなの。そんなの嫌よ私。
「んご、ご馳走様……でした」
砂の味なんてレベルじゃない。緊張の余り溶けかけの雪みたいな味しかしなかった。
だからこの気分を和らげようとどこぞのプリンセスよろしく窓を軽快に開けたら鳥の足のちょうど硬い部分が目の真下に掠った。
ここで初めて前世での思い出が少し蘇った。シャーペンの芯が親指に突き刺さった時と同じ痛みだった。
「お嬢様、準備はよろしいですか?」
「待って、顔洗うから」
「今朝だけで四回目ですよ?」
「違うの。今日は二重の幅が違うの」
だからと言って洗った所でどうにもならないけどね。
洗い過ぎも良くないですよ、と馬車に引きずり込まれた。
我、一応令嬢ぞ? 我、引きずり込まれた時ちょっと痛かった。
「ね、イロナ。何があっても主従関係引きちぎんないでね」
「はい、勿論多分」
うわ、多分勿論じゃなくて勿論多分ってもうそれは100%多分。
裏切るんだあとか言って不貞寝したふりをした。結局寝た。
寝たということは台本を読まなかった。そう、つまり、一発勝負。
「はい、お嬢様。着きましたよ」
「あ。はい」
多くの人の視線が刺さる。なんでマキナはこんな人の多い場所で騒いだのだろう。
ちょっと、いやかなり理解に苦しむ。現在進行形で苦しんでいる。
道の通りに進むと前に3人が見える。左からノア、エクシア、ヘライト……皆それを見たいからこんな混んでるのか。
そう言えばここはルノマース。何でかと言うと、確か、ルノマースの方が『表面上』賑やかで平和だからだったと思う。
まあ、ルノマースの民はノアの暗い事情なんて知らないし、良かったんじゃない?
――さあ、いつ、どうやって、3人を呼び止めるか……。考えていると、急にノアが振り返った。
そして、目が合った。すぐ逸らして踵を返してまた後日伺おうとしたが、台本のことを思い出した。
その間にノアは後ろから私を抱き締め、熱を帯びた震えた声で「マキナ様、会いに来てくれたのですか……?」と。
「ん、んな訳ないでしょう。ほら、さっさとエクシアの方に行きなさいよ」
「嫌です。やっと見つけた運命の人、もう離れたくないです」
ああ可愛い儚い可愛い。でも貴方が離れないとイベント開始できない。
だからやんわり手を離そうとするが、逆に力を入れられた。
「やだ。唯一私のことを褒めて、認めてくれた。一目惚れでした。でも、貴女のことを一つ知る度に、千貴女のことを好きになって」
「ノア様、止めましょう。…………一応、アイツとの縁談ですから」
「……そうですね。マキナ様、絶対にそこにいてくださいね? すぐ終わらせますから」
「ええ、私も、貴女に恩返し出来ていないので……ね?」
はい、私3年だろうが100年だろうが待ってます。
じゃないじゃない。セリフ言うの忘れた。いいや、適当に1文抜き出そう。
「来れるものなら来てみなさい! 今なら私の犬くらいにはしてあげる!」
あ、ああああ……今人生最大のミス。こんなこと言ったら一生来るわけないじゃない。
――と思ったけど、30分くらいで来てくれた。優男だなあ二人共。
――――――
「ヘライト様、聞きました? すぐに戻ったら犬にしてくれるって……」
「ええ、勿論。早く話をつけて早く戻りましょう」
「……ふふふ、やっとあの人のモノになれる」
「でも、檻に入れられたりしたらあの人に知らない奴の匂いがついても、何もできない……」
「ならば、首輪を着けさせて貰いましょう。そうすれば私達は犬だけど、檻に入れられなくて済みます」
「そうですね、それで邪魔な奴はどんどん葬りましょう!」
「……私って、姫……だよね。生贄、じゃ……ないよね」




