主人公はイベントを悪役令嬢に潰された!
・
「……なんて」
「ひぇ?」
ふふ、と笑ったヘライトに驚き、素っ頓狂な声を出してしまった。
「売られた恩はちゃんと返します」
「だから別にいいですって。好きな人は救いたいに決まってるし……」
「そうですか。まだ仕事が立て込んでいるので……ありがとうございました」
「うう……お礼は要らないんだって」
男性の中では細身に入る彼は覚束無い足取りで去っていった。
3次元に絶望してばかりの人生だったけど、推しのあれこれで好き勝手妄想できるのは3次元だけだ。
この世界でほけぼけしていたらあっと言う間にエンディングが近づいて、大したことも出来ぬまま殺されてしまう。
「頑張らなきゃなあ」
「あ、いた。一応精神面で救って貰ったので、お名前を」
「んきゃ!?」
さっき別れたはずのヘライトが態々悪役の名前を聞きに来てくれた。もう死ねる。
いいよ、エンディング。早くおいで。
「名乗る程の者じゃないです」
「でも、一応お礼はしないと。王子として」
「なら私が救ったのはルノマース王国の第1王子ではなくルノマース王国にお住まいのヘライト様です」
「……教えられないと言うことは疚しいことが」
「マキナです、マキナ・セレネア」
変な勘違いはよしてもらいたい。推しに銃を向けるのも向けられるのもごめんだ。
――っと? もうそろそろエクシアが来るかな?
「じゃあ、さよなら、ヘライト様。どうかお元気で!」
「……さようなら」
結局、結局この国でも大したことできてない。
開き損の台本に目をやると、メインストーリーではあと少しで悪役令嬢が顔を出すらしい。
【悪役令嬢「何? 少し身分が良いからって調子に乗り過ぎよ。そのうち痛い目にあうわ」】
――うわあ。これ言うの? 台本サイドからしたら「お前やっと言うこと聞いてくれんのかよ」って思われるけど。
正直言いたくねえ。許されるなら台本燃やして焚き火したい。
しかしそんなことを考えている暇もなさそうなので、嫌々馬車に戻って渋々帰った。
――――
「マキナ・セレネア……か。
初対面なのにあそこまで私を気にしてくれて、完璧にならなくていいと言っている。
そして私を王子として見ていない。
……私より歳上だと思うけれど、父様に、か弱くてなよなよしい姫より、あの人の方がいいと言ったら……」
「わあ……あの、貴方がヘライト王子ですか? あの、私、エクシアです! 貴方と結婚することになった――」
「あ、えっと、そのことは……テネプエラに」
「それノア様にも言われました。私お二人に何かしてしまいましたか?」
「何もしてません。ただ、貴女より美しい方に酷く惹かれた。それだけです」




