判断力ってどの方角に進めば買えますか?
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目の奥が眩しくなって目を開けると、窓から日が差していた。
――来てしまった。結局あの後何も考えずに夜を過ごしてしまった。
とりあえずこの世界でも寝坊する訳にはいかないので、ずるずるとベッドから体を引き離す。
推しの為、推しのため、おしのため……前に呪文みたいだと思っていたけれど、これは一時的に、本当に一時的にやる気をあげるだけだった。
冷たい水を顔に浴びて目を覚まし、まるで砂でも食べたかのような顔で食事を終える。
今日、もう一人の推しに会う。淡白な推しに。敬語腹黒爽やか淡白好青年な推しに。
「やだよ振られたくないよメイドオ!」
「私の名前がメイドみたいに言わないで下さい。ちゃんとイロナと言う名前があります」
「そんな名前だったの!? 綺麗な名前!」
「私……前にも名乗りましたよ? お嬢様と初めて会った時」
……あ、そうか、私……そういうの分かんないまま呑気に過ごしてた。
でも、台本にそんな感じのが書いていたような気がしなくもない。
子供が憧れるような馬車に揺られながら、ふと思った。
私、どうやってここ来たんだっけ?
死んだのは覚えている。異世界乙女ゲーにはまっていたのも覚えてる。
どうして死んだんだ? 誰に殺られた?
「お嬢様着きましたよ、今日は一人行動していいですから、その代わり……はい!」
「あ、う、え……?」
メイド……イロナから渡されたのは銃。
銃って持ってみるとかなり重い。ゲームの中とかだと皆普通に持ってるから……私も持てるもんだと。
「いつ何があるか分かりませんからね」
「あ、うん、そうだ……ね?」
「でも、何かあったらすぐに呼んで下さいね?」
「うん、うん……分かったあ」
台本の中身全部飛んじまった。もう一回頭に叩き込まないと……。
今度こそ台本通りに、ひとまず人気のない通りに。
「……また、また、人気のない場所……いやいや、ここはイベントの場所にもなかった」
すると私に何かが突き付けられた。
視線を台本から上にずらす。
「撃たれたくなかったら抵抗はしないで下さい」
「……はい」
私も銃をそちらに向ける。……あらやだ推しのヘライト君じゃない私ったら運がいいんだか悪いんだか。
「私もまだ死ねないんで……ヘライト様がどんなに可愛くても……いや可愛いから死ねない」
「ならその銃を下ろして下さい」
「いやだ」
「国に危険が及ぶなら、女性でも、容赦しませんが」
ああ今になってノアが恋しい。あの子犬みたいな可愛さが愛しい。
ヘライトは子犬というよりかは兎だろうか。
――なんか、様子がおかしい気がする。ノアのことを思い出したからかな。
よく見ると銃を持つ手が震えている。手どころか全身が小刻みに震えている。
「あの、あっとお……ちゃんと寝てます?」
「――はあ?」
「銃は撃ち慣れていると思うんですけど、その、疲れてるなら」
「つか……疲れている訳が無いじゃないですか、余計なお世話です。死ぬかもしれないのに」
私死ぬ予定なんだ、ふうん……台本通りに演じた事が一度もないまま死ぬんだ、私……。
……ヘライトのファンの皆様神様仏様お許し下さい私は今からダイナミックな休ませ方をします。
「そう……そうねえ、貴方は疲れない……私が、絶対に休ませるから」
「――っあ」
無機質で短い音を立てて、銃弾はヘライトの頬を掠める。
しかしそれでも疲れきっているであろうヘライトには十分過ぎたのか、そのまま気を失ってしまった。
「…………まずい」
疲れた推しの顔を見たくない一心でやってしまったけど、どこに運べばいいんだ?