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23 フィリッツ、側近と共に肩を落とす。

 



「やっちまった」


 側近たちの元へと戻ったフィリッツが開口一番そう吐き出すと、ジョセフの茶化す声も待たずにソフィアが走り出した。


 振り向くとリルリアンナが一人走り出していた。


「ソフィア、頼む!」


 フィリッツが叫ぶと、ソフィアは軽く頷いた所作を見せて一気に加速して走って行った。

 それを見届けて、フィリッツは身体を折り、一声吠えると、身体を起こした。


「妃殿下はなんと?」


 ジョセフの落ち着いた声に、フィリッツもふー……と大きく息を吐いて淡々と話す。


「ジルの母親を継続して見守ると。自分も見るが、来れない場合は影をつける、と」


 それにはルイスが眉を寄せて、難しいですね、と応えた。


「今、リーさまにつけている影の一人を天色(あまいろ)国へ向かわせています。今回は私やソフィアも同行しているので賄えていますが、リーさまが一人で動くとなる、そして一人母親に付けるとなると人員が不足します」

「ああ、俺もそれも考えて言ったのだが、言葉を誤った」

「何と言ったのです」


 ジョセフの鋭い突っ込みに、フィリッツは唸りながら応える。


「要人ではないのでつけられない、というような事を言った」

「……馬鹿ですか」

「ああ、ああ、分かっている! 言い方を間違えた!」

「違いますよ、妃殿下のお気持ちを汲んでいないのが馬鹿だと言っているのです」


 容赦なくえぐるジョセフに、フィリッツはぐしゃりと前髪を握る。


「……国民一人も救えない為政者は要らないと言われたよ」

「それはリーさまもいけません。見守るのは何もリーさまがやらなくてもいいのです。その土地の者が見守られるように考えるのが上に立つ者の役目」

「ああ、俺もそのつもりだ、だが……俺もカッとなった。好きにしろって言っちまった」


 フィリッツを擁護するルイスも、えぐったジョセフも、刻を同じくして重いため息を吐いた。

 やがてルイスが、申し訳ありません、とフィリッツに最敬礼をした。


「ルイス?」

「リルリアンナさまは幼少期にご母堂さまを亡くされておりまして、事、母と名のつく者が絡むと、自分の事のように思われてしまう傾向にありまして……フィリッツさまにはその事をお伝えしておくべきでした」

「いや、聞いていても止められたかどうか分からない」

「いえ、本当の所を言えば、実は少し、見極めたかったのもあるのです。リルリアンナさまの成長を」


 短髪の騎士は、切れ長の目を緩めて苦笑した。


「今までにも何度かあったのか……そうだな、それは、あるだろうな」

「ええ、クリスさまも何回か諭したのですけれども。実際見なければ、なんとか堪えられるのですが、現場を見ると、やはり感情的に動いてしまわれますね」

「王妃の役目としては、慈善事業が重たる仕事の一つになるからな、一つ一つに心を痛めているとリルーの身がもたない」

「はい。全ての人々を救う事は出来ない。結果として受け止めて、では今何か出来るのか、という議論なり、仕組みなりを考えていくのがリルリアンナさまのお仕事になります」


 フィリッツはルイスの言葉に、そうだな、と頷く気持ちと、いやしかし、と思う気持ちとどちらも渦巻き、何度も何度も頭を掻き上げて、正直に吐露をする。


「正論としては、そうだ。しかしリルーの現状を思うと、そのように押しとおす訳にもいかない。王妃とて、人間だ。……王もだけどな」

「それをリーさまに言ってあげればよかったのに、っとに情けない」

「今、お前たちと話していてようやく掴んだ結論だっ! 俺だって人間だっつっただろうがっ!」


 ジョセフの若干本気の茶々にフィリッツも噛み付く、が、いつもの調子が戻ってきた所で、ルイスがほっとしたような顔をして言った。


「フィリッツさまが話の分かるお方で、本当に助かります。しばらくは、リルリアンナさまの気持ちが収まるまで見守る形でよろしいでしょうか」

「ああ、今回はジルという縁もあるしな。そうしよう。また落ち着いたらきちんと話し合う」

「今度はフィリッツさまが抑えて下さいよ? 曲がりなりにも年上なのですから。嫌われますよ、っとに」

「もう嫌われたかもしれん」

「それは無いとは思いますが」


 大の男がずん、と肩を落とす姿を見て、ジョセフは、とりあえず宿に帰ったら謝り倒して下さいねぇ? と目を剥いて進言し、ルイスも申し訳ありませんが、お願い致します、と再度最敬礼をしたので、分かっている、そのつもりだっ! とフィリッツは再び叫んだ。


 とにかく謝ろう。

 全てはそこからだ。


 そう心に決めて、宿屋に向かったのだが。


 宿に着くとリルリアンナとソフィアの姿は無く、宿の主人から、先に戻る、と言って出て行かれましたよ、とのんびりと声をかけられ、


「これは」

「かなり」

「……だぁぁっ!」



 ルイスの呟きにジョセフが応え、フィリッツが叫ぶ。


「こじれ、決定ですねぇ」


 どよん、としたジョセフの言葉に男三人、肩を落とすと、今後の事を思い、三者三様に深い深いため息を吐いた。




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