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銃を構えろ、戦争だ。  作者: 檜山 結城
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自室に戻り、机に書類の束を置く。そのまま椅子には座らずに、一人用のベッドに倒れ込む。


本当に彼女で大丈夫なのか。どうしてルーチェ国王はメランを選んだのか。

それだけが頭の中をぐるぐると駆け回っている。


とりあえず今は仕事か。身を起こし、椅子に座る。

気のしれた仲間である各隊の隊長達の作った書類。メランから受け取ったそれらに目を通して確認、修正するところを修正するのが今日の仕事。その仕事自体は珍しいものではないのだが。

…これ、昼過ぎには終わるんじゃねえの。

いつもよりうんと薄い紙束に若干イラつきながら、黒い活字に視線を走らせた。






***





「…失礼します、総司令官。エトーレです」

「どうぞ」


部屋に入ると、メランは相変わらずパソコンとにらめっこしている。


「書類の確認と訂正、終わりました」


今の時刻は午後一時。案の定である。これからなにをさせようと言うのか。


受け取った書類をパラパラと捲る。

しばらくそうした後、こちらを見てにこりと笑った。


「お疲れ様です。今日はもうおしまいですよ。部屋で休むなり街に出かけるなり、好きにしてもらって構いません」

「…は」


自分で言うのもなんだが、俺に回ってくる仕事は、割と大切な仕事だ。

俺の仕事量がこのままだと、恐らく軍は回らなくなる。

以前の一週間分の仕事をこなすのに二週間かかる計算だ。当然だろう。


「…総司令官。いつもより大分私の仕事が少ないようですが」

「大丈夫ですよー、安心して休んじゃってください」


何度言っても、その一点張りだった。

この司令官、駄目だ。絶対駄目だ。

そう思いながらも、どうすることも出来ずに引き下がるしかなかった。





***





思いがけず半日の休暇を得てしまった。

何となく基地の中庭に足を向け、置かれたベンチに座る。

正面を見れば花壇に色とりどりの花が植えられ、上を見上げれば木の葉の隙間から空色が漏れている。


しばらくぼんやりと、何をするでもなく座っていた。

ここのところ前総司令官が亡くなったための仕事の増加だったり、戦争の後始末であったりで忙しく、こうしてのんびりと暇を潰す事もなかった。


暖かい陽気に瞼が重くなる。毛布に包まれている様な感覚に陥り、うとうとと微睡む。

そしてそのまま意識を手放そうとした。


「あ、エトーレじゃないですかー!」


急に名前を呼ばれて、背中を叩かれる。

その衝撃と驚きとが眠気をはね飛ばす。


もう少しで寝れたのに、と怒りを抑えながら振り向くと、幹部を示す灰色の軍服。


「…なんだ、アペレースかよ」

「なんだって酷いですよ!こんな昼間にエトーレが外でお昼寝なんて珍しいなって思っただけなんですー!」


綿雲の様な柔らかい金髪、琥珀色の目。下手したらメランより少し年上くらいに見える彼女だがれっきとした成人。愛らしい外見とは裏腹に、実は近接戦闘特化の武闘派幹部である。


「アペレースは今日は休みか」

「午前中だけ隊の訓練してましたけどね、午後はお休みなんですよ」


彼女の率いる第二部隊は、確かに午前中に訓練の予定が入っていた。

なるほど、納得した俺を他所に、アペレースはところでと話を変える。


「エトーレが休みなのは本当に珍しいんですよー。もしかして、新しい総司令官さんの意向です?」


メランの事は知らないが、新しい総司令官が来たという話はもう皆知っているらしい。

その総司令官が子供でめっちゃ仕事減らしてくるす…なんて、言えるわけがない。言ったら国王にぶん殴られる。まだ言うなって言われたし。


「あ、ああ。と言うより単に俺が疲れてたから、半日休みにしてもらっただけだよ」


珍しいですね、と納得いかない様子のアペレース。


「どんな人なんですか?」

「えっと…普通の人だ」


それじゃ、俺はもう行くから。

適当に誤魔化してその場を後にした。


他の幹部や一般兵に遭遇してメランについて色々訊かれるのも面倒だったので、その後は自室に戻ってゆっくりと本を読んだ。


徹夜で仕事を片付ける必要も無かったので、夜は久しぶりに十分な睡眠時間を得ることが出来た。

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