見える神の手
世界の果てを見たい。
そんな僕の願いははかなく破れた。
2014年 12月07日 00時01分投稿を再掲します。
「世界の果てかい? あそこに見えるだろ」
友人は耕す手を休めて、木立の向こうを指差す。
「あれは……」と僕は目をこらす。「壁かな」
「そうだ」と友人は答えた。「透明な壁だよ。あれが世界の果てさ」
誰も行ったことないけどね、と付け加えた。
僕はその、世界の果てだという壁とやらをじっと見た。確かにあれは透明な壁だ。距離はだいぶある。僕らのコロニーよりずっとずっと向こうだ。それに高い。どれほどの高さがあるのだろう、と僕はぐっと上を見るが、かなり上まで続いている。
「高いなあ」と僕は一人ごちた。
「だろう」と友人は相づちを打った。
「あの上には何があるんだ」
「あるとすれば……」
「すれば?」
「神の世界かな」
友人が冗談めかす。そしてまた耕す作業に戻ったので、僕もまた礼を述べて立ち去ろうとしたときだった。
「あの集団は何だい」
木立から続々と出て来る集団に気付く。
「?」と友人もそっちを見た。「ああ、新しいコロニーの連中じゃないかな」
「そうなの?」
「よくある話さ。ここらに移住したいってんだろう」
「見かけない顔だが。何だか気味が悪い」
「そりゃあコロニーが違えば顔が違うとか、性格が異なるとか、よくあることじゃないか」
友人は、さも当然のように言った。
それから彼らにあいさつをしようとしたとき、いきなり彼らは友人を襲った。僕はあっけに取られた。友人自身、何が起きたのか分かっていない顔をしていた。
彼らは僕らのコロニーに襲いかかった。
「先生、どうです」と。実験室の中で助手はたずねた。
「うん。この薬は効きが良いようだ」と、顕微鏡をのぞく白衣の先生は答えた。「見るかね? この薬はまるで細菌のような顔をして近付く。そして細菌のコロニーをあっという間に殺してしまうんだ。画期的な薬だぞ」
白衣の先生はそう言って、ガラス製の実験器具を満足そうにながめた。