其の捌
あれから何時間経っただろうか。
燕は窓に目をやった。
鉄格子がはめられていて、とても出られそうにはない。
空はもう赤に染まっている。
その時、外から鍵の開く音がした。
「__燕ではないか、何故こんな所に」
「鴉様!」
開いた扉から顔を覗かせたのは、鴉であった。
「ここは確か近頃雀とよくいる男の...ああ、成程」
鴉は合点がいったような顔をすると、燕を見、「可哀想に...」と呟いた。
燕はここに来るまでのまでの経緯を鴉に話した。
「やはりか...」
「私には、何故雀様がこのような事をするのか不思議でならないのです。きっと何かあったのだと思います」
「何か、か...」
鴉は考えこむように腕を組み、何かを思い出したように指を鳴らした。
「そうじゃ、燕。お前に言う事があったのだ」
「何でしょう」
「あの連れ出された囚人についてじゃ」
燕はどきりとした。
「え...」
「今日奴を連れて行った家来にお前が奴について知りたがっていたと申していたのでな。調べてみたのだ」
手が震える。
「奴は元々はとある小さな社の住職だったらしい。だが、理由までは調べられなかったが、我が家来の1人を殺し、此処の牢に入れられたのだ」
冷や汗が額から首を伝って服の中に流れる。
「奴には1人、巫女がいたらしいが、そいつは今探しているぞ」
燕は少し安心した。その巫女が燕とは鴉は思っていないらしい。
だが、安心したのも束の間だった。
「そういえば...お前は巫女ではなかったか?」
「!」
突然のことで体がこわばり、逃げようにも逃げられない。
「しかも、此処に来た時のお前は痛々しい姿をしていて...」
「や、あの...」
「何処かから逃げてきたのか酷く疲れ、腹も減っていた」
「ちが...」
「...何が違うのだ。答えてみよ。わしは別に何も言っていないじゃろう」
「...!」
終わった__
そう燕は思い、鷹と暮らしていた事、その山に棲む龍の事を包み隠さずすべて話した。
話し終えたとき、鴉は難しそうな顔をしており、どうしたのか聞こうとすると、突然、燕に向かって頭を下げた。
「それは酷い事をした...すまない」
「そんな...やめて下さい、帝ともあろうお方が...!」
「しかし、我が家来も何かしら理由があってその龍を殺めたに違いない。どうか、許してやってくれ!」
「...」
燕は、もういもしない家来の為に帝としての威厳を捨て、頭を下げられる器量の大きさに驚きつつ、どう返事をすべきか悩んだ。
ここで許さなければ、自分は、鷹は、どうなるのだろう。
「...分かりました。しかし、条件が二つあります」
覚悟を決めた。
「なんじゃ」
「一つは、貴方が知っている龍についての全ての事を私に教えてください。二つ目は、鷹を救う為に協力して下さい」
「しかし、わしは...」
「帝だから、無理なのですか。そんな地位、必要なのですか。人の命より大事なのですか」
「...承知した」
遂に鴉も折れた。
此処から、燕の戦いは始まる。