表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

其の漆 決行

次の日の朝、燕は鷹が牢屋から連れ出されるのを見かけた。


『 どうしたのだろう...』


「あの...」


燕は鷹を連れている家臣に見える男に声をかけた。


「...何でしょう。」

「その方を、どうするんですか?」

「雀様の命令により、別の場所に移動させるのです。こやつがどうかされましたか?」

「いえ、特には...、好奇心です。」

「そうですか。では...」


鷹が一瞬こちらを向き、少し笑んでからまた歩き出した。

もう、会えないのだろうか。


「...燕。」

「!はい、何でしょう。」


突然後ろから声をかけられ、体を震わせる。

雀と話すなどいつぶりだろうかと燕は思った。


「そこで何をしているの、こちらにいらっしゃい。」

「はい...。」


連れていかれる間、燕はずっと鷹の事を考えていた。


『 どうして突然、こんな事を...』


燕は、聞いてみずにはいられなかった。


「雀様...」

「何かしら?」

「あの囚人は、何故移動する事に?」

「...あなたは知らなくて良くってよ。」

「では、何処に行くのです?」

「...この都から出ていくことはないわ。」

「....そうですか。」


何も教えてくれない。

雀の顔は笑んではいたものの、声に怒気が含まれていたので、燕はこれ以上詮索するのをやめた。


着いたのは、分厚い扉のついた倉だった。

大きな南京錠も付いている。

扉を開けると、畳が敷かれており、布団もあって住もうと思えば住めそうな部屋だった。


「...下手人の部屋ですか?」

「いいえ、違うわ。」

「では、誰の...」

「あなたのよ!」


そう言って雀は燕を部屋へ突き飛ばした。

倒れた燕が起き上がって部屋を出ようとした時には扉が閉まり、外からがちゃり、と鍵をかける音がした。


『 嘘でしょう!?』


「雀様!雀様!お開け下さい!雀様、開けて!」


何度も名前を呼び、扉を叩く。

けれども返事はおろか、人の気配すらしない。


「雀様...っ」


さすがに喉が枯れ、燕は崩れ落ちた。

確かもうすぐ昼時である。


『 何故、こんな事を...』


燕は改めて部屋を見回した。

食べられそうな物は何も無い。

燕の目にはいつの間にか涙が浮かんでいた。


『 これでは、鷹に会いに行く事も出来ない...。雀様、一体どうしたのだろう。何か、深い訳があってのことに違いない。でなきゃこんな事する筈ないもの。...けれど...』


燕はよく思い出してみた。


『 転んで、起き上がった時に一瞬だけ見えた雀様のお顔は、笑っていた...。』


普通の者がすれば醜く映るその笑顔は、背筋が凍るほど恐ろしく、尚且、毒を持つ彼岸花が咲いたように美しかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ